よる博多→まよなか東京
浴室に響くシャワーの音。
熱い水滴を浴びながら、青木は必死に邪念を洗い流そうとしていた。
(落ち着け、俺。“アレ”に囚われ過ぎることなく、まずは薪さんの家で失礼のないように……まずはワインだ。せっかくのお誘いなんだから一緒に嗜んで、そして……)
はやる心身を落ち着けようと低めの温度で体を洗い終え、鏡の曇りを拭ったその時だった。
カチリ。
浴室のドアが開く音が、湿った空気の中に不自然に響いた。
「え……っ?」
反射的に振り向いた青木の視界に飛び込んできたのは、脱衣所に服を脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿で立っている薪の姿だった。
「ま、薪さん……!? 何を、俺まだ済んでな……」
慌てて昂り気味の前を隠そうとするが、指先一つ動かせなかった。
真っ白な肌。陶器のように滑らかな肩。そして、浴室の熱気にあてられたのか、あるいは先ほど“アレ”を見つけた高揚のせいか……その頬は薄紅に染まり、瞳は熱に潤んでやけに艶を帯びている。
「……何を驚いている。同じ“男”だろう」
薪は至って冷静な声を装いながら、湯気の向こうに立ち尽くす青木へと、ゆっくりと歩みを進めた。
だが、どう見たってその瞳の色はいつもの冷徹な上司のものではない。
「それとも、お前には……僕がただの“男”には見えないのか?」
青木の頭の中で、リュックの中に隠した“あの存在”が噴火する。
バレたのか、それともカマをかけられているのか。
目の前に立つ美と尊さの象徴のようなその人は、怖じ気付く男の退路を断つように、その濡れた体にそっと手を伸ばした。
「僕の“用意”を……」
「えっ」
だから、用意って、何を……
その言葉に惑わされっ放しの青木は目眩する。
「身体を……洗ってくれないか」
薪は、呆然と立ち尽くす青木の手から静かにスポンジを取り上げ、それを足元へと落とした。
カラン、とプラスチックの乾いた音が、湿った沈黙を切り裂く。
「……お前の手で」
その言葉は、命令というより、微かに震えるような“ねだり”に聞こえた。
青木は、自分の手のひらが燃えるように熱くなるのを感じながら、恐る恐る手を伸ばして薪の滑らかな背に触れた。
指先が、水分を弾く白い肌をゆっくりと伝い、しなやかな曲線を描く腰、そしてそのもっと奥の、秘められた場所へと辿り着く。
その瞬間、薪が熱い吐息を漏らして青木の肩に額を擦りつけてくる。
「……中も、いいから……」
消え入りそうな、けれど確かな許し。青木は頭が真っ白になり、裏返った声で問い返す。
「い、いいんですか、本当に……俺、こんなこと……」
「……構わない。……初めてじゃ、ないから」
「っ!?」
青木の心臓が、今日一番の衝撃で激しく跳ね上がった。
薪さんが、誰か他の人間と、俺より先に――?
脳内を駆け巡る凄まじい嫉妬と動揺。混乱する青木の腰に、薪が細い腕を回し、縋るように見上げてくる。その潤んだ瞳には、隠しようのない愛しさと切なさが溢れていた。
「バカだな、お前は……何を考えている。……好きな男……お前を想って……“自分でした”だけだ」
その一言が、青木の理性を完全に消し飛ばした。
博多の屋台で流した薪の涙も、コンビニで震えながら掴んだあの箱も、すべての因果がこの瞬間に、ひとつの赤い糸で繋がっているのだ。
もう、躊躇う理由などどこにもない。
青木の大きな指が、薪の身体を「用意」し始める。そこは驚くほど柔らかく、既に青木を迎え入れるための、切ないほどの熱を帯びて蠢いていた。
「あ……っ、ん……っ、」
薪の身体がびくんと大きく跳ね、膝から崩れ落ちそうになるのを、青木は片手で強く抱き止めた。
「……っ、く……青木っ……、待て……っ!」
指の挿入だけで、薪の身体は決壊寸前だった。前も後ろもかつてないほどに熱を孕み、抱き合う体の隙間で滾る青木の怒張を、けなげに求めて震えている。
湯気の中で絡み合う二人の肌も吐息も、もはやどちらのものか判別がつかなくなっていた。
「……やめ、ろ……もう……っ、一度、出ろ……っ」
薪が掠れた声で懇願する。身体が、芯から溶けてしまうほどの快感に支配され、自分の意思ではもう動けない。
青木は荒い呼吸を整えながら、愛おしさを噛み締めて、薪の濡れた額に優しく唇を落とした。
「……そうですね。風邪を引いたら大変です」
青木の震える手がシャワーを手に取り、二人が纏う疚しい熱をゆっくりと洗い流した。
けれど、これが決して「終わり」ではなく、本当の始まりであるということを、もちろん二人ともが知っている。
熱い水滴を浴びながら、青木は必死に邪念を洗い流そうとしていた。
(落ち着け、俺。“アレ”に囚われ過ぎることなく、まずは薪さんの家で失礼のないように……まずはワインだ。せっかくのお誘いなんだから一緒に嗜んで、そして……)
はやる心身を落ち着けようと低めの温度で体を洗い終え、鏡の曇りを拭ったその時だった。
カチリ。
浴室のドアが開く音が、湿った空気の中に不自然に響いた。
「え……っ?」
反射的に振り向いた青木の視界に飛び込んできたのは、脱衣所に服を脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿で立っている薪の姿だった。
「ま、薪さん……!? 何を、俺まだ済んでな……」
慌てて昂り気味の前を隠そうとするが、指先一つ動かせなかった。
真っ白な肌。陶器のように滑らかな肩。そして、浴室の熱気にあてられたのか、あるいは先ほど“アレ”を見つけた高揚のせいか……その頬は薄紅に染まり、瞳は熱に潤んでやけに艶を帯びている。
「……何を驚いている。同じ“男”だろう」
薪は至って冷静な声を装いながら、湯気の向こうに立ち尽くす青木へと、ゆっくりと歩みを進めた。
だが、どう見たってその瞳の色はいつもの冷徹な上司のものではない。
「それとも、お前には……僕がただの“男”には見えないのか?」
青木の頭の中で、リュックの中に隠した“あの存在”が噴火する。
バレたのか、それともカマをかけられているのか。
目の前に立つ美と尊さの象徴のようなその人は、怖じ気付く男の退路を断つように、その濡れた体にそっと手を伸ばした。
「僕の“用意”を……」
「えっ」
だから、用意って、何を……
その言葉に惑わされっ放しの青木は目眩する。
「身体を……洗ってくれないか」
薪は、呆然と立ち尽くす青木の手から静かにスポンジを取り上げ、それを足元へと落とした。
カラン、とプラスチックの乾いた音が、湿った沈黙を切り裂く。
「……お前の手で」
その言葉は、命令というより、微かに震えるような“ねだり”に聞こえた。
青木は、自分の手のひらが燃えるように熱くなるのを感じながら、恐る恐る手を伸ばして薪の滑らかな背に触れた。
指先が、水分を弾く白い肌をゆっくりと伝い、しなやかな曲線を描く腰、そしてそのもっと奥の、秘められた場所へと辿り着く。
その瞬間、薪が熱い吐息を漏らして青木の肩に額を擦りつけてくる。
「……中も、いいから……」
消え入りそうな、けれど確かな許し。青木は頭が真っ白になり、裏返った声で問い返す。
「い、いいんですか、本当に……俺、こんなこと……」
「……構わない。……初めてじゃ、ないから」
「っ!?」
青木の心臓が、今日一番の衝撃で激しく跳ね上がった。
薪さんが、誰か他の人間と、俺より先に――?
脳内を駆け巡る凄まじい嫉妬と動揺。混乱する青木の腰に、薪が細い腕を回し、縋るように見上げてくる。その潤んだ瞳には、隠しようのない愛しさと切なさが溢れていた。
「バカだな、お前は……何を考えている。……好きな男……お前を想って……“自分でした”だけだ」
その一言が、青木の理性を完全に消し飛ばした。
博多の屋台で流した薪の涙も、コンビニで震えながら掴んだあの箱も、すべての因果がこの瞬間に、ひとつの赤い糸で繋がっているのだ。
もう、躊躇う理由などどこにもない。
青木の大きな指が、薪の身体を「用意」し始める。そこは驚くほど柔らかく、既に青木を迎え入れるための、切ないほどの熱を帯びて蠢いていた。
「あ……っ、ん……っ、」
薪の身体がびくんと大きく跳ね、膝から崩れ落ちそうになるのを、青木は片手で強く抱き止めた。
「……っ、く……青木っ……、待て……っ!」
指の挿入だけで、薪の身体は決壊寸前だった。前も後ろもかつてないほどに熱を孕み、抱き合う体の隙間で滾る青木の怒張を、けなげに求めて震えている。
湯気の中で絡み合う二人の肌も吐息も、もはやどちらのものか判別がつかなくなっていた。
「……やめ、ろ……もう……っ、一度、出ろ……っ」
薪が掠れた声で懇願する。身体が、芯から溶けてしまうほどの快感に支配され、自分の意思ではもう動けない。
青木は荒い呼吸を整えながら、愛おしさを噛み締めて、薪の濡れた額に優しく唇を落とした。
「……そうですね。風邪を引いたら大変です」
青木の震える手がシャワーを手に取り、二人が纏う疚しい熱をゆっくりと洗い流した。
けれど、これが決して「終わり」ではなく、本当の始まりであるということを、もちろん二人ともが知っている。