夢現のよる
三好雪子の容態が悪化し隔離された早朝、青木に呼び出された薪は、二人以外誰もいないエリアにいる。
そこで見せられた青木の爪の色に、心臓が止まりそうになった。
「いつ感染した――!?」
「一昨日……第九とは関係ない感染経路です。ここが汚染された訳ではないので、どうかこのことは内密に……」
「三好雪子からか?」
心中で逆巻く黒炎が思わず口から漏れ出る。
「いいえ薪さん。そんなことよりこれから数時間後に田無発のあの電車が出るんです。そこでまだ犯人があの電車 に乗っていた人間をつけ狙っているなら、この爪に気づいて必ず俺に接触してくるはずです」
「うるさい!」
なりふりなんて構ってられない。薪は青木に掴みかかった。
「僕の質問にまず答えろ!! 三好雪子だろ!? この感染率の低さでどうやって関係ないところからウィルスを拾える? ここで一次保管していたサンプルも全て専門の行政施設に引き渡し済みなのに? お前が感染できるとするなら彼女しか……」
「違います! って、薪さん落ち着いて……」
空を掻くように戦慄く両腕を掴まえて引き寄せ、そのままのたうつ身体を青木が強く抱き竦める。
「ハダカを見ただろ?」
「へっ?なんでそれを……」
腕が緩んでも抜け出さず、青木の胸に額を押し当てた薪は拗ねたように俯いている。
「お前……それで深い仲になったのか?そうすれば感染できるもんな」
「ハァ?そんなわけ……」
青木は呆れるあまりに仕事の顔を忘れ、真顔で断固否定にかかる。
「あるわけないでしょう?? もう白状しますけどこれは捜査のための囮です!!本当に感染してるんじゃなくて、」
「そんな気休め僕に通用すると思ってるのか?」
「いえ、本当ですって」
「正直に言えばいい。お前はそうまでして彼女を救いたいんだし、その理由も明白だ。お前はっ、彼女を愛しているから……」
その出鱈目な涙声をキスで塞いだ。
唾液が混ざり、熱く、滴るほどに深い接吻で。
だって、可愛すぎるから……この人がこんなに取り乱すなんて。
冷静で頭脳明晰で洞察力も鋭いこの人が、普段ならこの爪がフェイクだと一目で見抜いてしまうこの人が、感情に流されてこんなに盲目になって――
「これでわかっていただけますか? ここまでしても感染 らないんです。俺は感染者 じゃないから。絶対にあなたを置いては死なないんです」
唇を伝う銀の糸を薪が手の甲で拭う。頬を染め乱れた呼吸のままこっちを見上げながら……その潤んだ瞳があまりに美しくて、青木は一瞬言葉を失う。
こんな愛しい人を置いて死ねるわけが無い!
「と、とにかく犯人を掴まえてきますので許可を……うわっ!!」
薪の顔をうっとり覗き込んでいた青木は、凄い勢いで突き飛ばされて後ろによろめいた。
「だったら早く行けっ!!一刻を争う事態だぞ!!」
「……ハ、ハイッ!!」
青木は踵を返して部屋を出ていく。
部下を行かせた薪も黙って待ってはいなかった。
息の合う連携プレイでその日のうちに血漿を入手し、青木も他の乗客に助けられながらなんとか被疑者を確保したのだった。
そこで見せられた青木の爪の色に、心臓が止まりそうになった。
「いつ感染した――!?」
「一昨日……第九とは関係ない感染経路です。ここが汚染された訳ではないので、どうかこのことは内密に……」
「三好雪子からか?」
心中で逆巻く黒炎が思わず口から漏れ出る。
「いいえ薪さん。そんなことよりこれから数時間後に田無発のあの電車が出るんです。そこでまだ犯人が
「うるさい!」
なりふりなんて構ってられない。薪は青木に掴みかかった。
「僕の質問にまず答えろ!! 三好雪子だろ!? この感染率の低さでどうやって関係ないところからウィルスを拾える? ここで一次保管していたサンプルも全て専門の行政施設に引き渡し済みなのに? お前が感染できるとするなら彼女しか……」
「違います! って、薪さん落ち着いて……」
空を掻くように戦慄く両腕を掴まえて引き寄せ、そのままのたうつ身体を青木が強く抱き竦める。
「ハダカを見ただろ?」
「へっ?なんでそれを……」
腕が緩んでも抜け出さず、青木の胸に額を押し当てた薪は拗ねたように俯いている。
「お前……それで深い仲になったのか?そうすれば感染できるもんな」
「ハァ?そんなわけ……」
青木は呆れるあまりに仕事の顔を忘れ、真顔で断固否定にかかる。
「あるわけないでしょう?? もう白状しますけどこれは捜査のための囮です!!本当に感染してるんじゃなくて、」
「そんな気休め僕に通用すると思ってるのか?」
「いえ、本当ですって」
「正直に言えばいい。お前はそうまでして彼女を救いたいんだし、その理由も明白だ。お前はっ、彼女を愛しているから……」
その出鱈目な涙声をキスで塞いだ。
唾液が混ざり、熱く、滴るほどに深い接吻で。
だって、可愛すぎるから……この人がこんなに取り乱すなんて。
冷静で頭脳明晰で洞察力も鋭いこの人が、普段ならこの爪がフェイクだと一目で見抜いてしまうこの人が、感情に流されてこんなに盲目になって――
「これでわかっていただけますか? ここまでしても
唇を伝う銀の糸を薪が手の甲で拭う。頬を染め乱れた呼吸のままこっちを見上げながら……その潤んだ瞳があまりに美しくて、青木は一瞬言葉を失う。
こんな愛しい人を置いて死ねるわけが無い!
「と、とにかく犯人を掴まえてきますので許可を……うわっ!!」
薪の顔をうっとり覗き込んでいた青木は、凄い勢いで突き飛ばされて後ろによろめいた。
「だったら早く行けっ!!一刻を争う事態だぞ!!」
「……ハ、ハイッ!!」
青木は踵を返して部屋を出ていく。
部下を行かせた薪も黙って待ってはいなかった。
息の合う連携プレイでその日のうちに血漿を入手し、青木も他の乗客に助けられながらなんとか被疑者を確保したのだった。