夢現のよる
情が移る……って、どういうことなのか、言われたときは全く解らなかった。
もちろん今も解らない。けど、なんとなく……ひとりじゃなくなってしまったようなおかしな感覚から抜け出せない。
さっきからこうして一人きり、ぼーっと風呂に浸かっているのにも関わらず、だ。
これは完全に青木の思うつぼなのだろうか。
アイツ、天然だから狙ったわけではないだろうけど。
「薪さん、お背中お流ししましょうか」
返事もきかずにドアを開けた堪え性のない男は、悪びれもせず明るい笑顔で風呂場に入ってくる。
つんつるてんの作務衣を身に着けて、湯浴みを手伝う侍従そのものの雰囲気に流されて、薪も貴族さながら身体を預けてしまう。
「……っぁ……はぁ……」
いろんな意味できもちよくなる肌が震え、甘い息が漏れる。
「すみ、ません……眼鏡曇っちゃうので裸眼で覚束なくて……」
「……どこ……触って……んだっ、あっ」
まあ多少のハプニングはあったが、すっかりキレイになった身体で風呂から上がりリビングへと戻る薪は目を見張る。
「お前、ボーイスカウトでもやってたのか」
来たときよりも美しく、という言葉を実践するギフテッド時代に富士章を目指していたクラスメイトの清掃の完璧ぶりを思い出しながら、薪は隣に立つ青木を大きな目で見あげる。
二人の前には、窓全開のピカピカのリビングが広がり、洗濯を済ませバルコニーにはシーツが風に靡いている。
「掃除道具はオーナーから借りました。洗濯はコインランドリーで。鍵を駄目にした上にシーツまでぐしゃぐしゃにして帰るわけにはいきませんからね」
「ふ、跡形もないな」
思わず吹っ切った笑いが溢れる。
そう、これこそ“きれいサッパリ”じゃないか。
「お前は今のこの部屋みたいに、昨晩のことは忘れればいい」
「へっ?」
「一晩、奇妙な夢を見ただけだと思えば……」
少しの間を置いて、青木の腕の中にそっと包まれる。頭まですっぽり包まれて、まるで大人と子どもだ。
「夢……ってことは、また会えるんですよね。薪さんだって毎日眠りますし、夢も毎回のようにみるでしょう?」
「??」
あまりの“伝わらなさ”に、頭が真っ白になる。
いや、伝わらないんじゃなく、言葉のもっと奥に隠した本心を読み取られてるだけなのかもしれないが――
「眠れない日は呼んでください。眠れる日ももちろん……俺とまた一緒に夢を見る日があっても良くないですか?」
「……」
薪は何も答えることができずに、温もりの中で目を閉じている。
両腕が無意識に青木の腰に回ってぎゅ〜っと抱きかえしているのにも気づかずに。
まるで昔飼ってた大好きな大型犬を抱きしめてるみたいだ。
そして家族に当たり前に愛されていた感覚を無意識になぞってもいる。
夢の中に迷い込んだ夜。
明けてもまた次の夜が来て、見たくても見たくなくても見てしまうのが夢。
幻にできないのは、こいつのせい。
もう夢みることさえ忘れていた温もりと未知の熱を現実に呼び覚ました、この男のせいだ。
「いいですよね? あなたが呼ばなくても、俺、いきますから」
「……」
あいかわらず返事はない。
チェックアウトの時間寸前まで、お互いがお互いに回した両腕を解けないでいる。
それが答えなのに、口にできないまま、帰途の一歩を踏み出すのだ。
来たときの自分とはまったく違う自分になっていることにも、まだ気づかずに。
もちろん今も解らない。けど、なんとなく……ひとりじゃなくなってしまったようなおかしな感覚から抜け出せない。
さっきからこうして一人きり、ぼーっと風呂に浸かっているのにも関わらず、だ。
これは完全に青木の思うつぼなのだろうか。
アイツ、天然だから狙ったわけではないだろうけど。
「薪さん、お背中お流ししましょうか」
返事もきかずにドアを開けた堪え性のない男は、悪びれもせず明るい笑顔で風呂場に入ってくる。
つんつるてんの作務衣を身に着けて、湯浴みを手伝う侍従そのものの雰囲気に流されて、薪も貴族さながら身体を預けてしまう。
「……っぁ……はぁ……」
いろんな意味できもちよくなる肌が震え、甘い息が漏れる。
「すみ、ません……眼鏡曇っちゃうので裸眼で覚束なくて……」
「……どこ……触って……んだっ、あっ」
まあ多少のハプニングはあったが、すっかりキレイになった身体で風呂から上がりリビングへと戻る薪は目を見張る。
「お前、ボーイスカウトでもやってたのか」
来たときよりも美しく、という言葉を実践するギフテッド時代に富士章を目指していたクラスメイトの清掃の完璧ぶりを思い出しながら、薪は隣に立つ青木を大きな目で見あげる。
二人の前には、窓全開のピカピカのリビングが広がり、洗濯を済ませバルコニーにはシーツが風に靡いている。
「掃除道具はオーナーから借りました。洗濯はコインランドリーで。鍵を駄目にした上にシーツまでぐしゃぐしゃにして帰るわけにはいきませんからね」
「ふ、跡形もないな」
思わず吹っ切った笑いが溢れる。
そう、これこそ“きれいサッパリ”じゃないか。
「お前は今のこの部屋みたいに、昨晩のことは忘れればいい」
「へっ?」
「一晩、奇妙な夢を見ただけだと思えば……」
少しの間を置いて、青木の腕の中にそっと包まれる。頭まですっぽり包まれて、まるで大人と子どもだ。
「夢……ってことは、また会えるんですよね。薪さんだって毎日眠りますし、夢も毎回のようにみるでしょう?」
「??」
あまりの“伝わらなさ”に、頭が真っ白になる。
いや、伝わらないんじゃなく、言葉のもっと奥に隠した本心を読み取られてるだけなのかもしれないが――
「眠れない日は呼んでください。眠れる日ももちろん……俺とまた一緒に夢を見る日があっても良くないですか?」
「……」
薪は何も答えることができずに、温もりの中で目を閉じている。
両腕が無意識に青木の腰に回ってぎゅ〜っと抱きかえしているのにも気づかずに。
まるで昔飼ってた大好きな大型犬を抱きしめてるみたいだ。
そして家族に当たり前に愛されていた感覚を無意識になぞってもいる。
夢の中に迷い込んだ夜。
明けてもまた次の夜が来て、見たくても見たくなくても見てしまうのが夢。
幻にできないのは、こいつのせい。
もう夢みることさえ忘れていた温もりと未知の熱を現実に呼び覚ました、この男のせいだ。
「いいですよね? あなたが呼ばなくても、俺、いきますから」
「……」
あいかわらず返事はない。
チェックアウトの時間寸前まで、お互いがお互いに回した両腕を解けないでいる。
それが答えなのに、口にできないまま、帰途の一歩を踏み出すのだ。
来たときの自分とはまったく違う自分になっていることにも、まだ気づかずに。