俺とあなたの5.5日間
5 - M
夢から覚めてもまだ夢のように、すきな男の温もりや匂いに包まれている。
この心地のよさを手放すのはもう難しい。
コイツを最初に連れ込んだ晩から5日経ち、もう4度目の同衾という節度のない自分に呆れ果てつつ――
婚約者のいるアオキを口で昇天させる罪を犯した一夜目。
二夜目は、誰のものでもなくなった青木とただ抱き合って眠った。
三夜目には昼間の衝動的な口淫から初めての夜になだれ込み。これ以上ない幸せを味わったくせに、ありったけの悪態をついて突き放したのは四夜目。でも別れたつもりでいたのは僕だけだったみたいだ。
諦めの悪い泣き虫の大男に絆されて心もカラダも溶かされているうちに、五日目の夜がもうすぐ明ける。
キスや手指で隅々まで撫で回された肌も、奥まで愛された胎の内も、なにもかもくしゃくしゃのまま開いた重い瞼。
一緒に淫らな行為に明け暮れた獣の雄の、やけに端正な寝顔に目を奪われ、しばし見惚れていた。
すくなくとも夢ではないらしい。
ぁふ…、と幸せな生欠伸を噛み殺しながら、僕は再び大男の胸に潜り込んで、擦り寄るように丸くなってまた目を閉じた。
夢うつつでも感じるアイツの視線――
「まきさん……かわいい……寝顔は ホント天使だなぁ」
とろかすような視線と、若干引っかかる独り言が甘ったるく降り注ぎ、心身が擽ったいのを僕はずっとがまんしている。
「シャワー、使わせて貰いますね」
こわれものに触るようにそっと触れてきた手が、頬や髪を優しく撫でて、またそっと離れていく。
今朝は時間も気にしなくていい休日なのだ。
バスルームから僅かに届く物音をききながら微睡み、薄目で天井を眺めては贅沢な朝の空白をぼんやりと味わっている。
「おい……」
ベッドに寝そべりながらノートPCを操る僕の視界に、さっきからチラつく肌色に苛ついて声をあげる。
「なんて格好してるんだっ!ちゃんと服を着ろ!」
裸体にバスタオルを巻いた姿でキッチンを往来している青木に、僕は部屋着と下着を投げつけた。
「ハッ……すみません、俺、薪さんの私生活のことまだ何も知らなくて」
慌てて衣服を纏いながら、青木は大きな身体をぺこぺこと折り曲げる。
「こんな格好でうろつかれるのお嫌ですよね。二度としないようにします」
いや、そういうわけでもない。脱げと言ったり着ろと言ったり、こっちこそ勝手を押し付けてる一応の自覚がある僕は、押し寄せる気まずさに目をそらす。
アイツのことだ、PCを見ている僕の邪魔になるから着替えの在処が訊けなかったに違いないだろうし。
「……とにかく親しき仲にも礼儀ありだからな」
「し、親しき仲……っ!!」
コイツには何を言っても喜んで拾うから、油断してるとこっちも絆される。
「このチェストはお前用だから好きに使え」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」
ウチの収納より広い……とチェストの空の引き出しを次々開けて覗き込む青木の尻尾がブンブン振れてるのが見える気がして、僕は微笑む口元をさりげなく隠してバスルームへと向かう。
僕がシャワーを浴びている間に、食卓には朝食の用意ができていた。
刻み野菜のスープ、トーストに、ポーチドエッグ。
美味しかったがどこか気もそぞろなまま食べ終えた僕が、何気なく立ち上がって寝室に近づくと、青木が飛んでくる。
「あ、そこ、まだ片付けてません……でもいずれ戻るのでそのままでいいかなと……もし新しいのがよければシーツだけでも替えますが……」
「……もういい」
提示された当面の今日の予定がふらふらと戻ったソファに、力が抜けて崩れる。
こんなに甘ったるい朝をいつまでも満喫していていいのだろうか? 世の中平和じゃない。今だってあちこちで凶悪な犯罪起きているに違いないのに僕は――
「薪さん、どうぞ。見様見真似で淹れてみました」
サイドテーブルに置かれたコーヒーのいい香りに、眉間に寄った皺が消える。
眼前に並んだ黄色いペアのマグカップは、昨夜帰り道で青木が購入したものだ。
「どうですか?」
「……うん、悪くない」
何も考えてないようでいて、いつも僕の細部まで目を届かせ、感情や動きを嗅ぎ取り応えてくるのが青木だ。
性格は不器用だがこいつの所作が割と要領を得ているのを仕事上では知っている。
一事が万事、といったところか。
つまりベッドでもその才覚は遺憾無く発揮され……
「少し休んだら……一緒に行きましょう」
ギクリとしてソファの隣を見れば、ペアのマグを手にそわそわした様子の青木がこっちを熱っぽい視線で伺っている。
どこへ?と聞くまでもない。
青木が行きたいところは今僕が思い浮かべた場所と同じなのがありありとわかるから。
「あの……優しく抱いて差し上げたいのに……昨夜もアツくなってしまって。もう一回、させてください。今度はちゃんと……っ」
青木がドキリと身を固くして続く言葉を呑み込んだ。
マグを手にした僕が、柄にもなく青木に頭を凭せ掛けぴったりと寄り添ったから。
それが照れ隠しであることも、肯定のサインであることも、たぶん両方伝わったのだと思う。
夢から覚めてもまだ夢のように、すきな男の温もりや匂いに包まれている。
この心地のよさを手放すのはもう難しい。
コイツを最初に連れ込んだ晩から5日経ち、もう4度目の同衾という節度のない自分に呆れ果てつつ――
婚約者のいるアオキを口で昇天させる罪を犯した一夜目。
二夜目は、誰のものでもなくなった青木とただ抱き合って眠った。
三夜目には昼間の衝動的な口淫から初めての夜になだれ込み。これ以上ない幸せを味わったくせに、ありったけの悪態をついて突き放したのは四夜目。でも別れたつもりでいたのは僕だけだったみたいだ。
諦めの悪い泣き虫の大男に絆されて心もカラダも溶かされているうちに、五日目の夜がもうすぐ明ける。
キスや手指で隅々まで撫で回された肌も、奥まで愛された胎の内も、なにもかもくしゃくしゃのまま開いた重い瞼。
一緒に淫らな行為に明け暮れた獣の雄の、やけに端正な寝顔に目を奪われ、しばし見惚れていた。
すくなくとも夢ではないらしい。
ぁふ…、と幸せな生欠伸を噛み殺しながら、僕は再び大男の胸に潜り込んで、擦り寄るように丸くなってまた目を閉じた。
夢うつつでも感じるアイツの視線――
「まきさん……かわいい……
とろかすような視線と、若干引っかかる独り言が甘ったるく降り注ぎ、心身が擽ったいのを僕はずっとがまんしている。
「シャワー、使わせて貰いますね」
こわれものに触るようにそっと触れてきた手が、頬や髪を優しく撫でて、またそっと離れていく。
今朝は時間も気にしなくていい休日なのだ。
バスルームから僅かに届く物音をききながら微睡み、薄目で天井を眺めては贅沢な朝の空白をぼんやりと味わっている。
「おい……」
ベッドに寝そべりながらノートPCを操る僕の視界に、さっきからチラつく肌色に苛ついて声をあげる。
「なんて格好してるんだっ!ちゃんと服を着ろ!」
裸体にバスタオルを巻いた姿でキッチンを往来している青木に、僕は部屋着と下着を投げつけた。
「ハッ……すみません、俺、薪さんの私生活のことまだ何も知らなくて」
慌てて衣服を纏いながら、青木は大きな身体をぺこぺこと折り曲げる。
「こんな格好でうろつかれるのお嫌ですよね。二度としないようにします」
いや、そういうわけでもない。脱げと言ったり着ろと言ったり、こっちこそ勝手を押し付けてる一応の自覚がある僕は、押し寄せる気まずさに目をそらす。
アイツのことだ、PCを見ている僕の邪魔になるから着替えの在処が訊けなかったに違いないだろうし。
「……とにかく親しき仲にも礼儀ありだからな」
「し、親しき仲……っ!!」
コイツには何を言っても喜んで拾うから、油断してるとこっちも絆される。
「このチェストはお前用だから好きに使え」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」
ウチの収納より広い……とチェストの空の引き出しを次々開けて覗き込む青木の尻尾がブンブン振れてるのが見える気がして、僕は微笑む口元をさりげなく隠してバスルームへと向かう。
僕がシャワーを浴びている間に、食卓には朝食の用意ができていた。
刻み野菜のスープ、トーストに、ポーチドエッグ。
美味しかったがどこか気もそぞろなまま食べ終えた僕が、何気なく立ち上がって寝室に近づくと、青木が飛んでくる。
「あ、そこ、まだ片付けてません……でもいずれ戻るのでそのままでいいかなと……もし新しいのがよければシーツだけでも替えますが……」
「……もういい」
提示された当面の今日の予定がふらふらと戻ったソファに、力が抜けて崩れる。
こんなに甘ったるい朝をいつまでも満喫していていいのだろうか? 世の中平和じゃない。今だってあちこちで凶悪な犯罪起きているに違いないのに僕は――
「薪さん、どうぞ。見様見真似で淹れてみました」
サイドテーブルに置かれたコーヒーのいい香りに、眉間に寄った皺が消える。
眼前に並んだ黄色いペアのマグカップは、昨夜帰り道で青木が購入したものだ。
「どうですか?」
「……うん、悪くない」
何も考えてないようでいて、いつも僕の細部まで目を届かせ、感情や動きを嗅ぎ取り応えてくるのが青木だ。
性格は不器用だがこいつの所作が割と要領を得ているのを仕事上では知っている。
一事が万事、といったところか。
つまりベッドでもその才覚は遺憾無く発揮され……
「少し休んだら……一緒に行きましょう」
ギクリとしてソファの隣を見れば、ペアのマグを手にそわそわした様子の青木がこっちを熱っぽい視線で伺っている。
どこへ?と聞くまでもない。
青木が行きたいところは今僕が思い浮かべた場所と同じなのがありありとわかるから。
「あの……優しく抱いて差し上げたいのに……昨夜もアツくなってしまって。もう一回、させてください。今度はちゃんと……っ」
青木がドキリと身を固くして続く言葉を呑み込んだ。
マグを手にした僕が、柄にもなく青木に頭を凭せ掛けぴったりと寄り添ったから。
それが照れ隠しであることも、肯定のサインであることも、たぶん両方伝わったのだと思う。