俺とあなたの5.5日間
4 - A - 1
薪さんがどんな悪態をついても、俺の心が揺らぐことはないし、自分を貶めた言い方をしたって、尊さも変わりはしない。
肉体を奥深くまで潜らせて、秘密に包まれた心の熱まで探り当ててしまったから。
ギリギリの愛撫を交わし、思いを受け止めあってしまったから。
あんな綺麗な人が……いや、どんな悪人にだって、心の温度に嘘はつけない。
それほど求めあってしまったんだ。
俺たちは心もカラダもぜんぶ。
昨夜飲みに行って早々に潰れた山本さんを家に送りがてら早めに帰宅して落ち着いた割に、全然眠れなかった。
あんなことまで暴露して、身を引いたつもりになって、きっとあのマンションの広いベッドでぽつりと独りぼっちで丸まってるであろう薪さんを頭に浮かべ、今すぐにでも飛んでいきたい思いに駆られている。
押し掛ければ管轄外へ飛ばされかねないし、プライベートな連絡先も知らないから声さえ聴けなくて、一晩中悶々として結局一睡もできなかった。
モヤモヤ度合いでいったら、トイレの個室に駆け込まざるを得なかった一昨日より酷いと思う。
「おはよ!つよし君とはうまくいってる?」
「……あ、雪子さん」
元婚約者の声そのものより“つよし君”の言葉に反応してしまう俺。
振り返れば「は〜暑い、今日は夏日ね」と髪を掻上げる左手の指輪が目に入ってギョッとする。
そしてつくづく無礼なリアクションを自覚しながら下を向いた。
「何よ?好きにしていいって言ったでしょ?コレ」
覗き込んだ俺の顔と指輪見比べ睨みつけてくる雪子さんに、俺はスミマセンと謝った。
「あのさ、こっちだって周囲からの“可哀想な女”扱いに耐える覚悟が必要なのよ。つよし君にヘンに同情されて、そっちがうまくいかなくなるのも申し訳ないし、外すタイミング難しいんだから」
待っていたエレベーターが来たのに乗り過ごした。
“気にしてること”を単刀直入に突かれたからだ。
「で?どーなのよ?まだくっついてないの?」
「通じ合ってるはずなんですけど……最後の最後ではぐらかされ続けてます……」
少し投げ遣りに答える俺と、心配げに眉をひそめる雪子さん。
まるで失礼な後輩と面倒見のよい先輩の図だ。
「……」
「ねぇ、ちょっとお茶つきあえない?」
込み上げるもどかしさが隠せない俺を気遣ってか、雪子さんは今入ってきたばかりの背後のドアを親指で差した。
「ええ……はい。じゃ弁当置いてきます」
「うん、いつもの喫茶で待ってるね」
雪子さんは俺の両手に提げたレジ袋をチラリと見て踵を返す。
俺は買い出ししてきたメンバーの弁当を4階で配り、またすぐに降りてきて、出たとこすぐにある喫茶店に足を運んだ。
雪子さんが手を振る席に座るとすぐに、あらかじめ頼んでくれていたコーヒーとサンドイッチが出てくるあたり、フォローが的確すぎて頭が上がらない。
「今日はね、午前休んで克洋くんとこ行ってきたの。あ、お墓参りね」
「……そうですか」
だからやけにスッキリした顔をしてたんだ。
この人の一番ちかくにいるのは未だに鈴木さん一人というのが少しやりきれない。
「で、わかっちゃったのよね……私やっぱり克洋くんが好きなんだわ。だから彼の死後も、彼が大切に思ってたつよし君のことをずっと気にしてたんだな、って」
俺はサンドイッチを食べる手を止め、雪子さんの顔を見た。
「あなたも同じでしょ?あなたの愛する相手と同じ人を見ている私を選んだ。私を通してでもつよし君に触れるだけでも嬉しくて……」
「違います!」
と言いかけて頭を抱える。俺を見つめ返す雪子さんが、鈴木さんの脳の中の雪子さんと一瞬だけ重なって消えた。
もう、囚われちゃダメだ。
「違わないとか違うとか……それを今さら突き詰めてもしかたなくて、ただ……俺が言いたいのは……」
薪さんへの思いで煮え滾る寝不足な脳と、焦れったさで擦り切れたメンタルの俺の口から、遠慮というフィルターをすり抜けた言葉がこぼれ出す。
「薪さんもあなたも、自分そっちのけで他人のこと優先し過ぎなんです。大事な人なのは分かります。でも回りくどいこと言ってないで、もっと素直にならないと。死んでしまった人のためにも、ご自分が幸せになることに死にもの狂いになるべきだ、と……思うんです、って……俺が言うのもなんですけど……」
逆上せた頭が、話しながら冷静になっていく。
雪子さんの呆れた表情と視線がいたたまれなくて、下を向き、控えめに昼食を再開する。
「へ〜え、死にもの狂い……ねえ。あなた随分手を焼いていそうなのにね、つよし君を落とすのに」
コーヒーを飲みながら、雪子さんが俺をつついてくる。薪さんの気持ちをほどく前に肉体関係を淫らに結んで縺れた事情もつゆ知らず、無邪気にからかっているだけなのだろう。
「あなた最初からつよし君を好きだったんでしょ? 心当たり本当にないの?」
「言われてみれば……ありますよ。俺薪さんと出会ったばかりのときから女のコだヤッターという夢を見て飛び起きて……」
「やぁだ、それ傑作。それは今もなの?」
「いえ……今はむしろ……」
薪さんの性別が変わるなんて考えられない。
サンドイッチなんて食べてる暇があるなら、あの繊細で感じやすい滑らかな性器を今すぐにでも口に含みたい。先走る蜜に塗れた先端の舌触り……弄った時の可愛い反応や、達したときのこまかな震えや脈動、飛沫の舞い上がるような匂いや味わい。
平らな胸についた敏感極まりない綺麗な色の突起も、少年みたいにしなやかな骨組みや体型も……すべてに夢中だから。
「俺はもう薪さんの隅から隅まで虜なんで。ありのままがいいに決まってます」
そう言ってハッと我に返ったが遅かった。
口の中に残ったコーヒーをゴクンと飲み込んだ、雪子さんのドン引き顔が忘れられない。
薪さんがどんな悪態をついても、俺の心が揺らぐことはないし、自分を貶めた言い方をしたって、尊さも変わりはしない。
肉体を奥深くまで潜らせて、秘密に包まれた心の熱まで探り当ててしまったから。
ギリギリの愛撫を交わし、思いを受け止めあってしまったから。
あんな綺麗な人が……いや、どんな悪人にだって、心の温度に嘘はつけない。
それほど求めあってしまったんだ。
俺たちは心もカラダもぜんぶ。
昨夜飲みに行って早々に潰れた山本さんを家に送りがてら早めに帰宅して落ち着いた割に、全然眠れなかった。
あんなことまで暴露して、身を引いたつもりになって、きっとあのマンションの広いベッドでぽつりと独りぼっちで丸まってるであろう薪さんを頭に浮かべ、今すぐにでも飛んでいきたい思いに駆られている。
押し掛ければ管轄外へ飛ばされかねないし、プライベートな連絡先も知らないから声さえ聴けなくて、一晩中悶々として結局一睡もできなかった。
モヤモヤ度合いでいったら、トイレの個室に駆け込まざるを得なかった一昨日より酷いと思う。
「おはよ!つよし君とはうまくいってる?」
「……あ、雪子さん」
元婚約者の声そのものより“つよし君”の言葉に反応してしまう俺。
振り返れば「は〜暑い、今日は夏日ね」と髪を掻上げる左手の指輪が目に入ってギョッとする。
そしてつくづく無礼なリアクションを自覚しながら下を向いた。
「何よ?好きにしていいって言ったでしょ?コレ」
覗き込んだ俺の顔と指輪見比べ睨みつけてくる雪子さんに、俺はスミマセンと謝った。
「あのさ、こっちだって周囲からの“可哀想な女”扱いに耐える覚悟が必要なのよ。つよし君にヘンに同情されて、そっちがうまくいかなくなるのも申し訳ないし、外すタイミング難しいんだから」
待っていたエレベーターが来たのに乗り過ごした。
“気にしてること”を単刀直入に突かれたからだ。
「で?どーなのよ?まだくっついてないの?」
「通じ合ってるはずなんですけど……最後の最後ではぐらかされ続けてます……」
少し投げ遣りに答える俺と、心配げに眉をひそめる雪子さん。
まるで失礼な後輩と面倒見のよい先輩の図だ。
「……」
「ねぇ、ちょっとお茶つきあえない?」
込み上げるもどかしさが隠せない俺を気遣ってか、雪子さんは今入ってきたばかりの背後のドアを親指で差した。
「ええ……はい。じゃ弁当置いてきます」
「うん、いつもの喫茶で待ってるね」
雪子さんは俺の両手に提げたレジ袋をチラリと見て踵を返す。
俺は買い出ししてきたメンバーの弁当を4階で配り、またすぐに降りてきて、出たとこすぐにある喫茶店に足を運んだ。
雪子さんが手を振る席に座るとすぐに、あらかじめ頼んでくれていたコーヒーとサンドイッチが出てくるあたり、フォローが的確すぎて頭が上がらない。
「今日はね、午前休んで克洋くんとこ行ってきたの。あ、お墓参りね」
「……そうですか」
だからやけにスッキリした顔をしてたんだ。
この人の一番ちかくにいるのは未だに鈴木さん一人というのが少しやりきれない。
「で、わかっちゃったのよね……私やっぱり克洋くんが好きなんだわ。だから彼の死後も、彼が大切に思ってたつよし君のことをずっと気にしてたんだな、って」
俺はサンドイッチを食べる手を止め、雪子さんの顔を見た。
「あなたも同じでしょ?あなたの愛する相手と同じ人を見ている私を選んだ。私を通してでもつよし君に触れるだけでも嬉しくて……」
「違います!」
と言いかけて頭を抱える。俺を見つめ返す雪子さんが、鈴木さんの脳の中の雪子さんと一瞬だけ重なって消えた。
もう、囚われちゃダメだ。
「違わないとか違うとか……それを今さら突き詰めてもしかたなくて、ただ……俺が言いたいのは……」
薪さんへの思いで煮え滾る寝不足な脳と、焦れったさで擦り切れたメンタルの俺の口から、遠慮というフィルターをすり抜けた言葉がこぼれ出す。
「薪さんもあなたも、自分そっちのけで他人のこと優先し過ぎなんです。大事な人なのは分かります。でも回りくどいこと言ってないで、もっと素直にならないと。死んでしまった人のためにも、ご自分が幸せになることに死にもの狂いになるべきだ、と……思うんです、って……俺が言うのもなんですけど……」
逆上せた頭が、話しながら冷静になっていく。
雪子さんの呆れた表情と視線がいたたまれなくて、下を向き、控えめに昼食を再開する。
「へ〜え、死にもの狂い……ねえ。あなた随分手を焼いていそうなのにね、つよし君を落とすのに」
コーヒーを飲みながら、雪子さんが俺をつついてくる。薪さんの気持ちをほどく前に肉体関係を淫らに結んで縺れた事情もつゆ知らず、無邪気にからかっているだけなのだろう。
「あなた最初からつよし君を好きだったんでしょ? 心当たり本当にないの?」
「言われてみれば……ありますよ。俺薪さんと出会ったばかりのときから女のコだヤッターという夢を見て飛び起きて……」
「やぁだ、それ傑作。それは今もなの?」
「いえ……今はむしろ……」
薪さんの性別が変わるなんて考えられない。
サンドイッチなんて食べてる暇があるなら、あの繊細で感じやすい滑らかな性器を今すぐにでも口に含みたい。先走る蜜に塗れた先端の舌触り……弄った時の可愛い反応や、達したときのこまかな震えや脈動、飛沫の舞い上がるような匂いや味わい。
平らな胸についた敏感極まりない綺麗な色の突起も、少年みたいにしなやかな骨組みや体型も……すべてに夢中だから。
「俺はもう薪さんの隅から隅まで虜なんで。ありのままがいいに決まってます」
そう言ってハッと我に返ったが遅かった。
口の中に残ったコーヒーをゴクンと飲み込んだ、雪子さんのドン引き顔が忘れられない。