俺とあなたの5.5日間

2- A- 2

 マンションのインターホンを鳴らす2時間前、俺はまだ山本さんと会議室に籠もっていた。

 与えられた期限は明日なのに進展しない捜査。
 でも俺は今夜どうしてもあの人のところへ行きたい。
 日付が変わる前には捜査を絶対に終わらせて、薪さんのマンションを訪ねようと心に決めていたのだ。
 じゃないと心もカラダも、もうもたない。
 薪さんへと募る想いでバクハツしそうだったから。


「青木さん、先ほど小池さんからいただいた情報、見ていただけましたかね」

「ええ、神奈川県T市で拾得された鞄の情報ですよね」

「はい。届け出た少年の様子が不審だったため巡査が中身を調べたところ、A少年の物だと判明したそうで……」

「なるほど」

 先ほど書類にちらりと目を通したこの報告は、俺の意識に長く留まらなかった。
 ここ丸一日濃い霧の中を彷徨い続けている俺の、執念に似た集中力の前に一旦削ぎ落とされたのだ。

「でもあの子は……どうやって人を判別してたんでしょう? 両親でさえ視覚異常に気づかなかったんですよ?何か方法があったはず……」

 さっきから気になっていたことを独り言のように零す俺に、背後で腕組みをしていた山本さんが口を開いた。

「たぶん声ですよ。これで大体カバーできる」

「……えっ!?」

 まるでA少年が乗り移ったみたいにはっきりした自分事の語り口調に、俺は驚いて山本さんに振り返った。

「なるほど!でも声じゃ掴めない。あとは? あとは何かありますか?」

「そうですねぇ、なるべく沢山写真を撮って記録に残しておくとかですかね」

「写真!? そういえば……!!」

 何故山本さんがこんなに明確に語れるのかわからないが、これは……糸口になる。
 俺は会議室を飛び出し、捜査席に走っていって装置を立ち上げた。

「オイ、慌ててどうしたんだ。もう薪さんはいないぞ」

 奥の席に一人残っている岡部さんが声を掛けてくれるが、薪さんはここにいなくてもいい。
 あの人にはマンションで会えればいいんだ。この腕に思い切り抱くことさえ出来れば――

「自慢じゃありませんが私……小中高いじめられなかったことがありませんでした。それでこの少年と同じ異常が出て、心療内科に通ってましたので……」

「本当だ……あります。ありましたよ!」

 追いついた山本さんとともに覗く捜査モニター。
 次々と出てくる画に、俺の目が輝く。
 A少年が携帯カメラに残す写真の数々は、まるで日記のように見えた。

「医者の受け売りですが、ああいう風に人の顔が見えなくなる原因は、実際目の前にいる人に対するストレスや恐怖心なので……モニターや写真などに収めてしまえば異常なく見えるんです。だから私の場合は、撮った写真は後で記憶と照合するために使ってました」

 山本さんのリアルな経験談と、目の前のMRI画がパズルのように合わさって、俺の脳内で道筋が組み立てられていく。

「やはり、大した写真は無さそうですね」

「そこは問題じゃない……そうだ!山本さん、さっきの鞄!」

 ガタン! と捜査席から立ち上がる音と勢いに驚いて後ずさる山本さんに、俺は詰め寄った。

「拾得物のA少年の鞄を、両親に許可をとって押さえて下さい」

「わ、わかりましたが、もう今日は夜遅いので……」

「勿論明日の朝で構いません。A少年が撮った現場の写真が携帯に残ってるかも知れませんので!」

「青木さん、声が大きすぎますよ。また捜査室ここから情報漏洩とかが起きたりしたら……」

 いや、むしろそれは大歓迎。いい“仕込み”になるだろう。

「大丈夫です。さ、明日に備えてもう帰りましょうか!」

 顔をしかめて訝しむ山本さんと、奥で目を丸くしている岡部さんを残して、俺は薪さんのマンションへと一直線に飛んで来たのだ。
 そしてエントランスで部屋番号を呼び出した今に至る。


 ♪♪〜

 応答が繋がった瞬間、薪さんの息を呑む小さな声をインターホン越しに拾った俺はつい前のめりになる。

「青木です。入れてください」

 無言のまま少し間をあけてエントランスが解錠されると、俺は足早にエレベーターで薪さんの部屋をめざした。

 またほとんど・・・・身一つできてしまったな……と思いながらポーチに立ち息をついた瞬間、ドアが狭く開いて、そこから覗いた薪さんの頼りなさげな顔に、ドクンと胸が高鳴った。

「っ……失礼します!」

 ドアの隙間を抉じ開ける勢いで身体を割り込ませて入った玄関先で、俺は薪さんを腕の中に閉じ込めて思いっきり息を吸い込んだ。
 幸せと、切なさと、愛しさが一気に込み上げてくる。風呂上がりのシャンプーに混じる欲情の甘酸っぱい匂いが物語る……ああ、このひとも……もしかしたら俺と同じように……

 溢れ出す愛しさと欲望ごと薪さんを掻き抱いて持ち上げ、ベッドへと運んだ。

「おいっ、待て……っどうするつもりだ……っ」

「あれ?これ……何を抱きしめてるんです?」

「っお前の部屋着だ。着ろ」

「……ヘヤギ?」

 まさか部屋着を用意してくれてたなんて……
 薪さんが胸に抱いていた部屋着を俺が手にして嬉しさに震えている間、薪さんはまな板の上のコイさながらベッドの枕に頭を預けた可愛い姿勢で俺を見上げて待っててくれている。

「ありがとうございます……後で大事に着させていただきますね」

 そう言いながらシャツとスラックスを脱ぎ始めたのは、部屋着に替えるためじゃない。
 焼き切れそうな渇望を満たすのが、何より先決なのだ。
 

「あっ……おま……ぇ……何を……」

 じたばた抵抗する薪さんのズボンを下着ごと奪うと、白く綺麗で淫らなカタチをした性器が蜜を滴らせて屹立していた。
 その美しさに釘付けになる俺と、急にしおらしくなる薪さんが、動けなくなって涙目で見つめ合う。
 
「……風呂ぐらい……入ってこい」

「大丈夫です。昼間あなたがきれいにしてくれたでしょう。こうして……」

「あ……ッ……」

 あのときの返報とばかりに俺は、薪さんの性器を口内に包んで吸い上げる。と、薪さんは声すら出せずに腰を浮かして、頭頂から爪先までその感触を巡らせるように肢体を震わせ伸び上がる。

 ああ、薪さんて……なんて美味しいんだろう。
 滴る蜜も繊細な包皮の舌触りも、すべてが味わったことのない極上グルメ。夢中で撫で回し啜り上げると、可愛い悲鳴とともに、敏感な反応を示していた性器がびくりと硬直し、脈動に押し出された熱い吐液が俺の口内で散った。
 それはまるでキャラメルを焦がしたアングレーズソースみたいな甘美さで、俺の口腔を満たしながら、酔わせるように喉頭を通り抜けていく。

「……ば……か……のむな……っ」

 震える手に頭を押し返された俺は、薪さんの性器を解放した口唇で濡れた会陰をなぞって、臀裂に舌を割り込ませる。

「……ぁお……きっ……はぁッ……」

 俺は湿りと火照りで曇る眼鏡を外してベッド脇にかなぐり捨てると、身体を捩って逃れようとする薪さんの腰をうつ伏せに掴まえて、後ろの入り口を舌と指で蕩かしにかかった。
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