☆一線〜悪魔の贈り物
元々並々ならぬ想いを寄せ合う同士だけに、抑制を解いただけでどこまでも堕ちていける。
そこに催淫作用も加われば、底なし沼だ。
「まきさん……かわいい……」
薪の血にありついた吸血鬼とはいえ、青木だからあくまで優しい変異種だ。
愛しげに微笑む唇が、いろんな体液の混じった匂いを纏い全身にキスを降らせる。
もちろん唇にも優しく……それを受け止めて胸ときめかせる自分も自分だ。
吸血する側される側に同時発生する催淫作用に任せ、あっと言う間にカラダを繋げて、食欲から派生する性欲をぶつけ合ってるだけのはずなのに。
結局青木はコップ一杯分も吸血しないうちに、薪から溢れる他の体液を貪る方に夢中になっていく。
血液は確かに極上グルメだが、副作用もあるし、量だって限られる。
愛しい人かつ唯一の補給源を守るためにも、他の体液の方が、心置きなく摂取できるのだ。
まあ、心置きなく……というのは語弊があるけれど。
盛りのついた二十代の大男はまだしも、一回り年上かつ身体が二回り小さい側は、明らかに苦しい。
「……あぁ……も……っ……と……」
見た目より強靭とはいえ、角度や深さを変えながら執拗に肉襞を擦る律動は、気持ちよさと同時に骨身を軋ませる。
頭のどこかで「よせ」と言ってるのに、口から零れるときには「もっと」になっていて。
快楽の壮絶なアップダウンを繰り返し、悲鳴をあげながら研ぎ澄まされていく感度が、じぶんを擦り減らしてでも青木を求めてやまず、果敢に上り詰めては散ってを繰り返す――
もう何時になった? 真夜中、零時過ぎ……って、日付の感覚も不確かになっている。
湿った肌を穿つ律動に揺らされ、体内に注がれる熱と脈動につられて自分も精を吐く。
これも……何度目だろう。
身体の奥から熱い杭が引き抜かれていく快感にうち震え、頭の方まで持ち上げられていた両脚を元に戻されながら、薪はうっとりと甘い息を吐いた。
その間にも、薪の肌に滲み散りばめられた体液を、青木が愛撫で啜り取るうちに、またアツくなってきて。
そして、箱の中身が残り少なくなった避妊具に、大きな手がまた忙しなく伸びるのだ。
「もう……こんなことばかりしてちゃ駄目ですね」
そう漏らしながらもキスをやめない熱い唇に、幾度快楽の渦へと巻き込まれたことだろう。
まさにセックスに明け暮れた休日だった。
唯一外に出たのは、薪が息を弾ませたまま近くのストアに避妊具の買い足しに行った時だけ、という不健全極まりない週末を過ごして。
明日からは、夢から醒めなければいけない。
だがその点はさすがの二人だ。週明け仕事に臨む、切替えぶりは完璧だった。
元上司の立場を駆使して、青木がしばらくリモートワークになることを元職場に強制的に告げ、自宅の一室で仕事をさせながら囲う。
一つ屋根の下にいてはどうしても引き摺られるから、と薪は日中研究所に出向いて仕事に邁進した。
そして勤務時間が延々長かろうと、出張が重なろうと、毎晩自宅に一度は戻る。
全ては自分を唯一の補給源とするこの男を養うためだ。
でも頑張ってはいるものの、気持ちだけでは追いつかないのが現実だ。
薪の表情の翳りが色濃くなってきた金曜日。
目眩が酷く早めに職場を後にした薪が、自宅マンションのエントランスに差し掛かった足を止める。
コツコツと聞き覚えのあるヒールの音が近づいて来たからだ。
それが“愛する男の餌食になって迎える死”という甘美な夢想を踏みにじる足音であることに、もう気づいていた。
わかってる。
青木がこんな状況を良しとするはずが無いのだ。
「つよしくん」
「…………」
観念したように息を吐き、解錠センサーの前に立った薪の身体が、突然フロアに崩れた。
「ちょっ、どうしたの?あなた……」
薪を抱き止めた雪子はそのまま、目の前で開いたエントランスの自動扉をくぐり抜ける。
肩を貸してエレベーターホールに運びながら「ちょっと、大丈夫なの?部屋は何階?」と、この状況に驚かず薪を揺さぶって訊いてくるあたり、彼女が既に色々と事情を知っていそうなことが伺えた。
気づいた時には、自室のベッドにいた。腕には用意のいいことに、栄養剤の点滴が施されている。
「お察しのとおり、栄養不足と貧血よ」
前もって話を聞いといてよかったわ。
あなた、加減してるとか言ってるけど何だかんだで吸い取り過ぎってことなのよ。禁欲なさい……などと、キッチンで話す雪子の声がベッドまで聞こえてくる。
やはり青木が雪子の助けを借りるために、彼女をここへ呼んだのだ。二人をよく知り秘密も守れて、血液のことを相談できる相手となると、彼女くらいしかいない。
「つよしくんが採血できる状態になったら、貯血パックを作るから。今後は容量を守って定期に摂取することね」
「はい」
「一日200ccが限度。あなたが飲んで催淫作用がでても基本自己解決で。守れる?」
「もちろんです。容量はもう少し小分けでも。100ccずつにできますか」
「わかったわ。まあそれでも、もってせいぜい一週間……あなたの身体も心配だけどね」
「大丈夫です。問題解決に一週間もかけるつもりはありません。薪さんやサワムラさんに、愚図愚図してるとこ見せれませんし」
青木の宣言に重ねて、アハハ……と雪子の笑い声が響く。
「も〜何よ、そのケーサツ魂。それにアナタ“厳しいお義父さんにお嬢さんを頂きに行く婿”の悲壮感丸出しだし」
「そうかもしれないです。薪さんは俺にとって今“かぐや姫”なんです。サワムラさんが難題出して俺をためしたくなる気持ちもわかるし……でも絶対月には返しませんけど」
青木のヤツ、また可笑しな世界観を語ってる。
でも本当は澤村さんにお前を試す権利なんてないんだぞ。薪家はそんなに厳しくないんだ、むしろとても優しい。
だから、無理をするな――
祈るように、目を閉じる。
これしきのことで、身体が動かなくなる自分の不甲斐なさを噛み締めながら。
そこに催淫作用も加われば、底なし沼だ。
「まきさん……かわいい……」
薪の血にありついた吸血鬼とはいえ、青木だからあくまで優しい変異種だ。
愛しげに微笑む唇が、いろんな体液の混じった匂いを纏い全身にキスを降らせる。
もちろん唇にも優しく……それを受け止めて胸ときめかせる自分も自分だ。
吸血する側される側に同時発生する催淫作用に任せ、あっと言う間にカラダを繋げて、食欲から派生する性欲をぶつけ合ってるだけのはずなのに。
結局青木はコップ一杯分も吸血しないうちに、薪から溢れる他の体液を貪る方に夢中になっていく。
血液は確かに極上グルメだが、副作用もあるし、量だって限られる。
愛しい人かつ唯一の補給源を守るためにも、他の体液の方が、心置きなく摂取できるのだ。
まあ、心置きなく……というのは語弊があるけれど。
盛りのついた二十代の大男はまだしも、一回り年上かつ身体が二回り小さい側は、明らかに苦しい。
「……あぁ……も……っ……と……」
見た目より強靭とはいえ、角度や深さを変えながら執拗に肉襞を擦る律動は、気持ちよさと同時に骨身を軋ませる。
頭のどこかで「よせ」と言ってるのに、口から零れるときには「もっと」になっていて。
快楽の壮絶なアップダウンを繰り返し、悲鳴をあげながら研ぎ澄まされていく感度が、じぶんを擦り減らしてでも青木を求めてやまず、果敢に上り詰めては散ってを繰り返す――
もう何時になった? 真夜中、零時過ぎ……って、日付の感覚も不確かになっている。
湿った肌を穿つ律動に揺らされ、体内に注がれる熱と脈動につられて自分も精を吐く。
これも……何度目だろう。
身体の奥から熱い杭が引き抜かれていく快感にうち震え、頭の方まで持ち上げられていた両脚を元に戻されながら、薪はうっとりと甘い息を吐いた。
その間にも、薪の肌に滲み散りばめられた体液を、青木が愛撫で啜り取るうちに、またアツくなってきて。
そして、箱の中身が残り少なくなった避妊具に、大きな手がまた忙しなく伸びるのだ。
「もう……こんなことばかりしてちゃ駄目ですね」
そう漏らしながらもキスをやめない熱い唇に、幾度快楽の渦へと巻き込まれたことだろう。
まさにセックスに明け暮れた休日だった。
唯一外に出たのは、薪が息を弾ませたまま近くのストアに避妊具の買い足しに行った時だけ、という不健全極まりない週末を過ごして。
明日からは、夢から醒めなければいけない。
だがその点はさすがの二人だ。週明け仕事に臨む、切替えぶりは完璧だった。
元上司の立場を駆使して、青木がしばらくリモートワークになることを元職場に強制的に告げ、自宅の一室で仕事をさせながら囲う。
一つ屋根の下にいてはどうしても引き摺られるから、と薪は日中研究所に出向いて仕事に邁進した。
そして勤務時間が延々長かろうと、出張が重なろうと、毎晩自宅に一度は戻る。
全ては自分を唯一の補給源とするこの男を養うためだ。
でも頑張ってはいるものの、気持ちだけでは追いつかないのが現実だ。
薪の表情の翳りが色濃くなってきた金曜日。
目眩が酷く早めに職場を後にした薪が、自宅マンションのエントランスに差し掛かった足を止める。
コツコツと聞き覚えのあるヒールの音が近づいて来たからだ。
それが“愛する男の餌食になって迎える死”という甘美な夢想を踏みにじる足音であることに、もう気づいていた。
わかってる。
青木がこんな状況を良しとするはずが無いのだ。
「つよしくん」
「…………」
観念したように息を吐き、解錠センサーの前に立った薪の身体が、突然フロアに崩れた。
「ちょっ、どうしたの?あなた……」
薪を抱き止めた雪子はそのまま、目の前で開いたエントランスの自動扉をくぐり抜ける。
肩を貸してエレベーターホールに運びながら「ちょっと、大丈夫なの?部屋は何階?」と、この状況に驚かず薪を揺さぶって訊いてくるあたり、彼女が既に色々と事情を知っていそうなことが伺えた。
気づいた時には、自室のベッドにいた。腕には用意のいいことに、栄養剤の点滴が施されている。
「お察しのとおり、栄養不足と貧血よ」
前もって話を聞いといてよかったわ。
あなた、加減してるとか言ってるけど何だかんだで吸い取り過ぎってことなのよ。禁欲なさい……などと、キッチンで話す雪子の声がベッドまで聞こえてくる。
やはり青木が雪子の助けを借りるために、彼女をここへ呼んだのだ。二人をよく知り秘密も守れて、血液のことを相談できる相手となると、彼女くらいしかいない。
「つよしくんが採血できる状態になったら、貯血パックを作るから。今後は容量を守って定期に摂取することね」
「はい」
「一日200ccが限度。あなたが飲んで催淫作用がでても基本自己解決で。守れる?」
「もちろんです。容量はもう少し小分けでも。100ccずつにできますか」
「わかったわ。まあそれでも、もってせいぜい一週間……あなたの身体も心配だけどね」
「大丈夫です。問題解決に一週間もかけるつもりはありません。薪さんやサワムラさんに、愚図愚図してるとこ見せれませんし」
青木の宣言に重ねて、アハハ……と雪子の笑い声が響く。
「も〜何よ、そのケーサツ魂。それにアナタ“厳しいお義父さんにお嬢さんを頂きに行く婿”の悲壮感丸出しだし」
「そうかもしれないです。薪さんは俺にとって今“かぐや姫”なんです。サワムラさんが難題出して俺をためしたくなる気持ちもわかるし……でも絶対月には返しませんけど」
青木のヤツ、また可笑しな世界観を語ってる。
でも本当は澤村さんにお前を試す権利なんてないんだぞ。薪家はそんなに厳しくないんだ、むしろとても優しい。
だから、無理をするな――
祈るように、目を閉じる。
これしきのことで、身体が動かなくなる自分の不甲斐なさを噛み締めながら。