☆一線〜悪魔の贈り物

「お前、いつ澤村さんが僕の生物学上の父親ルーツだということを……」

「え?知りませんよ。サワムラさんとお話してそんな気はしてましたが、やはりそうだったんですね」

 余計なことを口走ってしまった、しかも不穏な含みのある言い方で。
 だが青木があまりに自然に、ありのままを受け止めるので空気は変わらなかった。

 薪のマンションに戻り、テーブルで向かいあう二人は、少し早い食事を摂っていた。
 青木も薪といることで随分落ち着いて、寛いだ表情でワイングラスを傾けている。

 新しく調達した食材も、作ったのは薪自身が食べ切れる分だけだ。パスポートも持たず着の身着のままのこの男の食事は、後ほど別で提供・・してやらなければならないのだから。
 しばらく滞在させるための衣類や靴など、日用品もこっそり取り揃えた。
 吸血による催淫作用のことを知った今、この男を自分が“囲う”しかない、と薪も腹をくくったのだ。



「さあ、次はお前の番だ、来い」

「……え? ちょ、薪さ……」

 風呂上がりの薪が、ローブの紐を解きながらベッドに腰を下ろす。

「待って!だめです。そんなことはもう……」

「じゃあお前は何を食べる? どうやって生きていくつもりだ?」

「っ……それは……」

 この人に近づいてはいけない。でも追いかけずにはいられない。
 清純と艶めかしさが同居する薪の色香に理性を溶かされた青木は、ベッドの前に崩れるように膝をつく。

「昨夜のように僕から摂取すればいいだろ」

「いえっ……あ、あれは、スミマセン……非常事態でつい……」

「だったらお前が吸血鬼でいる限り、ずっと非常事態じゃないか。僕が許可する。お前の好きなだけ僕を……」

「だ、ダメです。吸血は……せ、性行為に繋がるので……」

「それでも構わない」

「な……っ」

 首筋から漂う美味しそうな匂い。魅入られつつ葛藤して頭を抱える青木を見下ろしながら、薪はわざと頸動脈をさらすように首を傾ける。
 目に見えて惑わされてる青木の前で、紐を解いたローブをするりと脱……ごうとして、慌てて伸びる大きな両手に止められた。

「なんでそんなに冷静なんです? 食欲であなたを犯すなんて身勝手なこと、俺にはできません」

「お前は身勝手じゃない。昨夜だってあんなに余裕無いなかで、極力僕を傷つけまいとして……」

 頬にチュッと青木のキスが触れ、そのままずれていって薪の唇を包む。

「そうやってまた、他の体液で補うのか?本当は血が欲しいくせに」

「キスも充分……美味しいです」

「ウソつけ」

「ホントです」

 啜るような口づけの音とともに、二人の身体がベッドに倒れ込む。

「あなたの純潔を……こんなカタチで奪うのは嫌なんです」
 
 純潔?今さら笑わせる。内心悪態をつく薪のとろんとした目尻に浮かぶ涙を吸い取りながら、青木の唇が、気持ちを言葉に繋いでいく。

「こんなカタチじゃなく、本当は俺……」

「お前、視力も良くなったようだな」

 聞きたいのに、聞きたくない言葉。
 遮り断ち切るように、薪が青木の頭にしがみついて話を逸らした。
 “告白より先に食事だ”と云わんばかりに。
 
「ええ、何なら鼻も耳も利きがよくなりました。でも色々変わっても、気持ちだけは変わらないんです」

 薪の腕の中で立ち込める芳しい香りを胸いっぱいに吸い込む。顔を横に向ければ極上の液体が流れる血脈。すぐにでも牙を立てられる体勢に、これ以上堪える自信は無い。

「食欲が性欲と合体した今……あなたしか食べられないという状況下で、気持ちはもうバレバレなんですけど……」

 食欲を我慢してるせいなのか、告白中だからなのか、真っ赤になった青木の耳介に、薪は思わず唇を押し当てる。
 
「でも、告白とかセックスとかは、ちゃんと元通りになってから、けじめをつけてからじゃないと……」

「もういい、わかった。とにかく早く食え。でなきゃ、そのけじめとやらをつける前に、お前死ぬぞ」

「俺のハナシ、聞いてますか? 食うということはですね……」

「ヤルんだろ? それでいいと言ってるんだ。その後でまたお前のやりたかった段取りで、改めて仕切り直せばいいじゃないか」

「でもそれじゃ、あなたの気持ちは……」

「どうでもいい! まずは“食事”に集中しろ。これだけは云っておくが、お前が僕を傷つけることはないから心配する……な……ぁっ……」

 云い終わらないうちに、首筋に青木の牙が食い込んだ。芳しい血が喉を潤し、恍惚感とともに体内に取り込まれていく。
 催淫作用のせいか身体が熱い。

 身体を震わせて喘ぐ薪も、きっと同じだ。

 青木は喉を鳴らしながら、悶える薪と自分の身体から着衣を剥ぎ取り、火照る肌を擦り合わせながらシーツに沈んだ。
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