☆一線〜悪魔の贈り物
いつも誰かに見られているのはわかっていた。
第九の殺伐とした不夜城に籠もっていたときも、身を潜めるようにMRI開発国際プロジェクトで研究に邁進しているときも、心を殺さずにいられない孤独な夜も。
そして、見ている相手が誰なのかも――
『ようやく姿を見せてくれたんですね、澤村さん』
『……知ってたのか』
『ええ、天国があるとすれば、僕の父は母とそこで幸せにしているでしょうから。僕の傍を彷徨っているのはあなたくらいのものでしょう』
刺のある物言いから滲み出す慕情に、いつもの和装で腕を組んだ澤村の、癒着した皮膚がマスクの下で笑むように緩む。
『一つ剛に伝えたいことがある。お前が気にかけているあの男 のことだが……』
『……!!』
聞き終わらないうちに薪の顔色が一変する。
『あいつに近づくな!!あなたとは全く無関係だ!!』
思考と切り離された感覚で身体がぴくりと微動し、これが夢の中だと悟る。
澤村が何故そんな……? 嫌な予感しかしない。
この人がくれる愛情は、深いけど真っ直ぐとは言い難いから。
『もう遅い。あのひよっこには試練を与えることにした。おそらくお前を頼ってここに来るだろう』
『……どういう意味です?あなた一体……』
眉をひそめて澤村に詰め寄る薪の足元が大きくぐらつく。
空間を塗り潰していくのは、尻尾を振って自分を一直線に追いかけてくるあの大男の笑顔だ。
待って。
話は終わってない。僕の……青木に何を……!?
視界が暗転し、動かそうとする手足を自身の重みが遮る。
夢から覚めたのだろう、澤村の気配も当然消えていた。
「っ……」
ベッドで上体を起こし、辺りを見渡すが、いつも通りの静かな室内が暗闇の中徐々に浮かび上がるのみだ。
広いベッドを這って、サイドボードに置かれた携帯を震える手で掴む。
青木は無事なのか? 画面の時計表示を読み替えれば日本 は土曜の昼前か……携帯番号は、部下でなくなった時点で削除したから、まずは職場に電話だ。休日出勤してる誰かを掴まえれば……などと考えた瞬間、大きな塊が崩れ落ちるように眼前に現れて、ベッドが自分以上の重みでスプリングした。
「……あお……き?」
「ま、まきさん!? えっ、ちょっと待っ……」
互いに信じ難い状況で、互いを認識し合ってる。
暗がりの中、薪は驚きながらも青木の様子を視覚以外の感覚で探ろうとする。慌てふためくズボンの衣擦れとジッパーの音とか、顔をあげた時の若干血生臭い匂い、そして……
「お……前……どうした?メガネ……落としたのか?」
「いえ、あの……」
心配げに薪の両手が青木の顔を撫で回す。
今の青木は夜目が利くから、油断して眉尻を下げ目を潤ませる薪の表情が、はっきり見えていた。
「……何か食べてるのか」
薪の指に干からびた血のついた唇をなぞられて、青木は思わず口内の生肉を丸ごと呑み込んだ。
背中からベッドに落ちてきた体勢のまま、薪をオカズに発奮していたモノだけは何とか着衣の下に押し込んである。が、唇に触れた薪の指先の芳しい香りに魅了され、美しい顔が近づき潤んだ目に覗き込まれた瞬間、理性の糸がプツンと切れる。
「………ん……っ」
大きな手が小さな後頭部を掴まえて、唇が重なった。
「んむ……おま……えっ………ジュル……」
口づけというより、吸われてる。夢中で割り込んでくる青木の舌に舌を絡め取られ、口内の水分を美味しそうに吸い取られていくのが、とてつもなく気持ちいい。
「……チュ……はぁ……っ、あお、き……っ!」
身悶えしながら青木の口唇を吸い返した途端、チクリと下唇に痺れるような痛みが走った。
「……っ……ぁ」
青木が小さく喉を鳴らす音と吸い上げられる独特の感触に全神経が甘くざわめき、体内に急激に淫らな熱が疼きだす。
「あ……もっと……それ……」
薪はうっとりしながらパジャマを脱ぎ捨て、裸の腰を青木に擦りつけた。青木も夢中で血と唾液の混じった口づけを貪りながら、屹立した薪の性器を手の内で扱きはじめる。
「……ぅあ……っ……ハァ……っあ……あっ!」
そこから、何度上り詰めたかわからない。
快楽に塗り込められた朧げな意識のなか、開かれた脚の間で青木がジュル、ピチャ、と音をたてて薪の精液を啜り舐め取っている。
どう考えても異様だが、愛する男に貪られる快感には抗えず、あるだけの体液を惜しみなく与えてしまう。
どれだけ時間が経ったのだろう。
カーテン越しの陽光にうっすらと目を開けた薪は、上半身だけベッドに乗りあがった格好で自分の腰に抱きついて眠りこけている年下の元部下を見おろして、その黒い髪を指先で梳く。
「青木、ほらこっち。そんな寝方じゃ休まらないだろ」
声をかけても揺すっても、青木はぴくりとも動かない。
大きな身体をベッドに引き上げてやると、そのまま乗り上げられ、キスで口内を貪られてしまう。
喉が渇いているのだろうか?
巻き付く腕を振り解いて抜け出した薪は、ペットボトルの水を手に戻ってくる。
「青木、水を……」
「いえ、あなたをください……」
「おいっ、ふざけるな……っ、」
ペットボトルを持つ手を掴んでまた腕の中に引き摺り込まれて貪られる。今度は下の方まで執拗に。
「……あっ…………はぁ、っ……」
この腕、この手、この唇は駄目なんだ。
自分のカラダを介してしか摂取してくれない青木に身を預けながら、薪は持ってきたペットボトルを諦めて自分で口にする。
こんな快楽に克てっこない。
でも異様で荒んだこの状況を脱しなければ、共倒れするのは時間の問題だ。これが澤村の与えた青木への試練というなら、自分への試練でもあるのは間違いない。
「お前も……澤村さんの夢をみたのか?」
「……サワムラさん……ああ……」
薪の肌を撫でる唇が発した信じられない言葉に、薪は唖然とした。
「あの、薪さんにそっくりな方……ですよね?」
「え……!?」
どうしてですか、澤村さん?
何故青木の前にだけ、火災前の姿で現れるんです?
明らかにおかしいですよね!?
第九の殺伐とした不夜城に籠もっていたときも、身を潜めるようにMRI開発国際プロジェクトで研究に邁進しているときも、心を殺さずにいられない孤独な夜も。
そして、見ている相手が誰なのかも――
『ようやく姿を見せてくれたんですね、澤村さん』
『……知ってたのか』
『ええ、天国があるとすれば、僕の父は母とそこで幸せにしているでしょうから。僕の傍を彷徨っているのはあなたくらいのものでしょう』
刺のある物言いから滲み出す慕情に、いつもの和装で腕を組んだ澤村の、癒着した皮膚がマスクの下で笑むように緩む。
『一つ剛に伝えたいことがある。お前が気にかけている
『……!!』
聞き終わらないうちに薪の顔色が一変する。
『あいつに近づくな!!あなたとは全く無関係だ!!』
思考と切り離された感覚で身体がぴくりと微動し、これが夢の中だと悟る。
澤村が何故そんな……? 嫌な予感しかしない。
この人がくれる愛情は、深いけど真っ直ぐとは言い難いから。
『もう遅い。あのひよっこには試練を与えることにした。おそらくお前を頼ってここに来るだろう』
『……どういう意味です?あなた一体……』
眉をひそめて澤村に詰め寄る薪の足元が大きくぐらつく。
空間を塗り潰していくのは、尻尾を振って自分を一直線に追いかけてくるあの大男の笑顔だ。
待って。
話は終わってない。僕の……青木に何を……!?
視界が暗転し、動かそうとする手足を自身の重みが遮る。
夢から覚めたのだろう、澤村の気配も当然消えていた。
「っ……」
ベッドで上体を起こし、辺りを見渡すが、いつも通りの静かな室内が暗闇の中徐々に浮かび上がるのみだ。
広いベッドを這って、サイドボードに置かれた携帯を震える手で掴む。
青木は無事なのか? 画面の時計表示を読み替えれば
「……あお……き?」
「ま、まきさん!? えっ、ちょっと待っ……」
互いに信じ難い状況で、互いを認識し合ってる。
暗がりの中、薪は驚きながらも青木の様子を視覚以外の感覚で探ろうとする。慌てふためくズボンの衣擦れとジッパーの音とか、顔をあげた時の若干血生臭い匂い、そして……
「お……前……どうした?メガネ……落としたのか?」
「いえ、あの……」
心配げに薪の両手が青木の顔を撫で回す。
今の青木は夜目が利くから、油断して眉尻を下げ目を潤ませる薪の表情が、はっきり見えていた。
「……何か食べてるのか」
薪の指に干からびた血のついた唇をなぞられて、青木は思わず口内の生肉を丸ごと呑み込んだ。
背中からベッドに落ちてきた体勢のまま、薪をオカズに発奮していたモノだけは何とか着衣の下に押し込んである。が、唇に触れた薪の指先の芳しい香りに魅了され、美しい顔が近づき潤んだ目に覗き込まれた瞬間、理性の糸がプツンと切れる。
「………ん……っ」
大きな手が小さな後頭部を掴まえて、唇が重なった。
「んむ……おま……えっ………ジュル……」
口づけというより、吸われてる。夢中で割り込んでくる青木の舌に舌を絡め取られ、口内の水分を美味しそうに吸い取られていくのが、とてつもなく気持ちいい。
「……チュ……はぁ……っ、あお、き……っ!」
身悶えしながら青木の口唇を吸い返した途端、チクリと下唇に痺れるような痛みが走った。
「……っ……ぁ」
青木が小さく喉を鳴らす音と吸い上げられる独特の感触に全神経が甘くざわめき、体内に急激に淫らな熱が疼きだす。
「あ……もっと……それ……」
薪はうっとりしながらパジャマを脱ぎ捨て、裸の腰を青木に擦りつけた。青木も夢中で血と唾液の混じった口づけを貪りながら、屹立した薪の性器を手の内で扱きはじめる。
「……ぅあ……っ……ハァ……っあ……あっ!」
そこから、何度上り詰めたかわからない。
快楽に塗り込められた朧げな意識のなか、開かれた脚の間で青木がジュル、ピチャ、と音をたてて薪の精液を啜り舐め取っている。
どう考えても異様だが、愛する男に貪られる快感には抗えず、あるだけの体液を惜しみなく与えてしまう。
どれだけ時間が経ったのだろう。
カーテン越しの陽光にうっすらと目を開けた薪は、上半身だけベッドに乗りあがった格好で自分の腰に抱きついて眠りこけている年下の元部下を見おろして、その黒い髪を指先で梳く。
「青木、ほらこっち。そんな寝方じゃ休まらないだろ」
声をかけても揺すっても、青木はぴくりとも動かない。
大きな身体をベッドに引き上げてやると、そのまま乗り上げられ、キスで口内を貪られてしまう。
喉が渇いているのだろうか?
巻き付く腕を振り解いて抜け出した薪は、ペットボトルの水を手に戻ってくる。
「青木、水を……」
「いえ、あなたをください……」
「おいっ、ふざけるな……っ、」
ペットボトルを持つ手を掴んでまた腕の中に引き摺り込まれて貪られる。今度は下の方まで執拗に。
「……あっ…………はぁ、っ……」
この腕、この手、この唇は駄目なんだ。
自分のカラダを介してしか摂取してくれない青木に身を預けながら、薪は持ってきたペットボトルを諦めて自分で口にする。
こんな快楽に克てっこない。
でも異様で荒んだこの状況を脱しなければ、共倒れするのは時間の問題だ。これが澤村の与えた青木への試練というなら、自分への試練でもあるのは間違いない。
「お前も……澤村さんの夢をみたのか?」
「……サワムラさん……ああ……」
薪の肌を撫でる唇が発した信じられない言葉に、薪は唖然とした。
「あの、薪さんにそっくりな方……ですよね?」
「え……!?」
どうしてですか、澤村さん?
何故青木の前にだけ、火災前の姿で現れるんです?
明らかにおかしいですよね!?