きもちいいこと
病院近くのベーカリーから、バゲットを抱えた舞と、付き添う薪さんが出てくる。
弾ける笑顔の舞が見上げる薪さんの顔もほころんでいて、二人を路肩で待つ車内でデレデレ見守る俺も皆んな、傍からは幸せな家族に見えるんじゃないかと思う。
パンペルデュとフレンチトーストの呼び名の違いは、調理に使うパンの新旧だけだ。
舞が「バゲットって何?」と興味津々なので、呼び名はともかくバゲットで作ってみよう、ということになったのだ。
「この大きさなら、半分はバゲットサンドにしてもいいな。余ったパンを金曜の間卵液に浸して、土曜の朝にフレンチトーストでも……」
「ええっ、バゲットサンドも食べてみたぁい」
なるほど、じゃあ今日の夕食はバゲットサンドの付け合せにパスタを作ろうかな。トマトソースは母さんも好きだし……と運転しながら俺は考える。
後部座席で舞と話す薪さんが、珍しく饒舌なのが俺の心を弾ませた。
二人の会話に耳を傾けていた俺は、ふと薪さんの台詞を脳内で一時停止し、巻き戻して……興奮のあまり後部座席に振り返った。
「ま、薪さん……今なんて?……ど、土曜にフレンチトーストぉ!?」
「っ、バカ!前を向けっ!!」
いやいやいやいや、落ち着け、俺。
前を向いてハンドルを握り直しながら、胸を高鳴らせる。
たしかにもう一泊してほしいと、お願いした覚えはある。それが土曜……って、何であと三泊も滞在していただけるってことなのか? しかも俺に何の相談もなくお決めになるなんて……不可解でもあるが、何倍もの嬉しさに秒で掻き消される。
薪さんを交えた青木家四人で囲む楽しい夕餉の食卓も、薪さんお手製のバゲットサンドの有り難いお味も、すべて上の空で過ごした罰当たりな俺。
そもそも延泊のご意向を知る以前から、今日一日、俺の頭から薪さんが離れることはなかった。
仕事でも、運転中でも、病院でさえも……集中力はなんとか保てても、会いたさと触れたさだけは無限に募るばかりだった。
だから、この時を心待ちにしていたのだ。
母と舞が寝静まり、薪さんの後に入浴を済ませた俺は、一心不乱に自分の部屋に戻って襖を開ける。
そして、ベッドの上で膝を抱えて座っている薪さんを裸眼の視界に捉えた瞬間、そのしなやかな身体をほどくように押し倒して乗り上がり、キスをむさぼっていた。
「……っ……ぷはっ……」
夢中でむさぼる俺の唇から離れて、苦しげに息を弾ませる薪さんの仕草が妙に初々しい。
襟を乱したパジャマは下着とともに、日中の移動の合間に俺が誂えたものだ。勿論すぐ脱がすつもり満々だけど。
「すみません……もっと、ゆっくりしますね」
「っ、ちがっ……」
反論する唇を唇で塞ぐと、またすぐにとろけてしまう薪さんが可愛い。
甘く繊細な口唇に夢中になる俺の身体の下で、着衣を脱ぎたげにもぞもぞと動く肢体にそそられて……俺は意を決して一旦体を離した。
この先に進んだら、反論を受け止める理性なんて吹っ飛んでしまうから。
「……っ、なぜ……やめる?」
「え、あなたが今……違うと仰ったので」
「……ああ……それは……」
荒らぐ息を抑えながら答える俺を心配した薪さんが、乗り出すように身体を起こし、熱っぽく潤んだ瞳で覗き込んでくる。
「今、お前の都合のいいユメの中にいるんじゃないんだぞ? 僕のカラダは正真正銘の……」
「知ってます!薪さんの身体だから……欲しいんです、ダメですか?」
訊きながら、堪え性のない両手が薪さんの両腕を掴んで引き寄せる。
「男とか、女とか関係ない。あなたが好きなんです」
言葉と一緒に薪さんの身体を揉みくちゃに抱きしめていた。
返事を聞くまで先には進まないと、決めたのに。気持ちを告げる唇は薪さんの耳元を撫で、両手はパジャマの下に潜って、滑らかな肌をまさぐりはじめてる。
「……ぁっ……やめ……っ……」
「お嫌なら……やめますが、どうします?」
「……やっ……」
「嫌じゃ……ないですよね?だってこんなに……」
好きな人の震える身体を暴きながら、いやらしい問いかけをする自分の浅ましさに呆れる。それほど余裕が無く、ただ先を急ぐばかりなのだ。
だって薪さんの表情はとろとろで、触れた胸元も股間もしっかり反応 してるのがわかるから。
「……こんなとこ、みられたら……かぎ……はっ」
「鍵? ありませんが、明かりを消しますね」
俺は乱れた薪さんの身体を逃さないように体を重しにしながら、リモコンで部屋の照明をオフにした。
弾ける笑顔の舞が見上げる薪さんの顔もほころんでいて、二人を路肩で待つ車内でデレデレ見守る俺も皆んな、傍からは幸せな家族に見えるんじゃないかと思う。
パンペルデュとフレンチトーストの呼び名の違いは、調理に使うパンの新旧だけだ。
舞が「バゲットって何?」と興味津々なので、呼び名はともかくバゲットで作ってみよう、ということになったのだ。
「この大きさなら、半分はバゲットサンドにしてもいいな。余ったパンを金曜の間卵液に浸して、土曜の朝にフレンチトーストでも……」
「ええっ、バゲットサンドも食べてみたぁい」
なるほど、じゃあ今日の夕食はバゲットサンドの付け合せにパスタを作ろうかな。トマトソースは母さんも好きだし……と運転しながら俺は考える。
後部座席で舞と話す薪さんが、珍しく饒舌なのが俺の心を弾ませた。
二人の会話に耳を傾けていた俺は、ふと薪さんの台詞を脳内で一時停止し、巻き戻して……興奮のあまり後部座席に振り返った。
「ま、薪さん……今なんて?……ど、土曜にフレンチトーストぉ!?」
「っ、バカ!前を向けっ!!」
いやいやいやいや、落ち着け、俺。
前を向いてハンドルを握り直しながら、胸を高鳴らせる。
たしかにもう一泊してほしいと、お願いした覚えはある。それが土曜……って、何であと三泊も滞在していただけるってことなのか? しかも俺に何の相談もなくお決めになるなんて……不可解でもあるが、何倍もの嬉しさに秒で掻き消される。
薪さんを交えた青木家四人で囲む楽しい夕餉の食卓も、薪さんお手製のバゲットサンドの有り難いお味も、すべて上の空で過ごした罰当たりな俺。
そもそも延泊のご意向を知る以前から、今日一日、俺の頭から薪さんが離れることはなかった。
仕事でも、運転中でも、病院でさえも……集中力はなんとか保てても、会いたさと触れたさだけは無限に募るばかりだった。
だから、この時を心待ちにしていたのだ。
母と舞が寝静まり、薪さんの後に入浴を済ませた俺は、一心不乱に自分の部屋に戻って襖を開ける。
そして、ベッドの上で膝を抱えて座っている薪さんを裸眼の視界に捉えた瞬間、そのしなやかな身体をほどくように押し倒して乗り上がり、キスをむさぼっていた。
「……っ……ぷはっ……」
夢中でむさぼる俺の唇から離れて、苦しげに息を弾ませる薪さんの仕草が妙に初々しい。
襟を乱したパジャマは下着とともに、日中の移動の合間に俺が誂えたものだ。勿論すぐ脱がすつもり満々だけど。
「すみません……もっと、ゆっくりしますね」
「っ、ちがっ……」
反論する唇を唇で塞ぐと、またすぐにとろけてしまう薪さんが可愛い。
甘く繊細な口唇に夢中になる俺の身体の下で、着衣を脱ぎたげにもぞもぞと動く肢体にそそられて……俺は意を決して一旦体を離した。
この先に進んだら、反論を受け止める理性なんて吹っ飛んでしまうから。
「……っ、なぜ……やめる?」
「え、あなたが今……違うと仰ったので」
「……ああ……それは……」
荒らぐ息を抑えながら答える俺を心配した薪さんが、乗り出すように身体を起こし、熱っぽく潤んだ瞳で覗き込んでくる。
「今、お前の都合のいいユメの中にいるんじゃないんだぞ? 僕のカラダは正真正銘の……」
「知ってます!薪さんの身体だから……欲しいんです、ダメですか?」
訊きながら、堪え性のない両手が薪さんの両腕を掴んで引き寄せる。
「男とか、女とか関係ない。あなたが好きなんです」
言葉と一緒に薪さんの身体を揉みくちゃに抱きしめていた。
返事を聞くまで先には進まないと、決めたのに。気持ちを告げる唇は薪さんの耳元を撫で、両手はパジャマの下に潜って、滑らかな肌をまさぐりはじめてる。
「……ぁっ……やめ……っ……」
「お嫌なら……やめますが、どうします?」
「……やっ……」
「嫌じゃ……ないですよね?だってこんなに……」
好きな人の震える身体を暴きながら、いやらしい問いかけをする自分の浅ましさに呆れる。それほど余裕が無く、ただ先を急ぐばかりなのだ。
だって薪さんの表情はとろとろで、触れた胸元も股間もしっかり
「……こんなとこ、みられたら……かぎ……はっ」
「鍵? ありませんが、明かりを消しますね」
俺は乱れた薪さんの身体を逃さないように体を重しにしながら、リモコンで部屋の照明をオフにした。