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 いつまで掛けてるつもりだ、と薪の手に眼鏡を外されるまで、そのことにさえ気づかなかった。
 美味な肌をむさぼるのに夢中すぎて、それどころじゃなかったのだ。
 しまった! そういえば、装着すべきものもしていない……と焦った瞬間「出せ」と命令されて、思考が止まる。

「……え?」

「このまま、……だ……せっ」

「……でも……」

 思考を止めても腰の動きが止まらないなんて、まるで獣みたいだ。
 それだけこの人に魅惑されている。ずっと前から募らせてきた感情もぜんぶ溢れ出して止まらない。

「……い……から、早くっ」

「……はい……あの、薪さん……」

「……ん……はぁっ……」

「愛してます」

 愛の告白をするには、あまりに横暴な態勢だった。
 相手を全身で覆い潰すように乗り上がり、貫いた局部を容赦なく奥まで突き落としながら、想いまでぶつけるなんて不躾にもほどがある。が、言葉を受け止めると同時に薪のナカが収縮し、重なる体の間で白濁が散る。
 それにつられるように、結合の奥深くで青木の欲望も盛大に爆ぜたのだった。

 
「……あの……そんなお顔をしないでください」

 並んで横になっている薪が露骨に迷惑そうな顔で天井とにらめっこしてるのを見かねて、青木は子どもをあやすように優しく囁いた。

「心配しなくても大丈夫ですよ。ちゃんと後腐れなくしますから」

「……ん……」

 薪は少し表情を緩めて目を閉じた。
 そんなことはわかってる。お前は賢い忠犬だ、と心の中で呟いて。

 難しい顔をしていたのは、その心配じゃない。
 “本当の実験”のことだ。
 モニターしてるわけじゃないから、転換さえ上手く行ってるかどうかわからない。
 もしスイッチできていたとすれば、排卵はネコのように性交の刺激で起こるらしいから、今頃自分の体内では、注がれた精子を受けとるために様々な変化が起きているのだろう。

 青木はいい仕事をした。
 煽れば煽るほどのめり込んできて、愛の言葉とともに種を送り込んでくるなんて……まさに理想の子づくりじゃないか。

 まだ生命にも至らない “望み”でしかない存在。だけど、まずは繋がったのだ。

 受精に関する期待と不安を残しつつ、満たされた心地よい疲労感とともに、意識が眠りの底に沈んでいく―――
 


 あたたかい。

 守りたいもの、守られたいものを丸ごと包む、大きな手のぬくもり。
 しあわせな夢をひと晩じゅうみていたのだと思った。

 瞼にほんの僅かに薄明るい光が届く明け方。
 温もりの正体に気づき、それが夢じゃなかったことに驚く。

「……お前……」

「……あ、薪さん。大丈夫ですか?」

 無意識に下腹部に置いていた自分の手。
 それごと全部を撫でているのは、青木の大きな手だ。

「……ああ、大丈夫だ」

「良かった。ずっとここに手を当ててらしたので、俺、酷くしすぎたのかと……」

「気にするな、本当に大丈夫だから」

 大丈夫だと何度も言ってるのに腹部から手を離そうとしない青木の方へ、薪は微笑んで身体を起こす。
 やけに悪戯っぽい笑みだな、と不思議に思う間もなく青木の身体の上に薪が軽やかに跨がる。そして、慌てて上体を起こす青木の首に両腕を絡め、耳元で囁いたのだ。
「もう一回、するか」と。

「え……えええっ!?」

 驚きとは裏腹に、下半身は準備万端だった。
 薪のナカも待ち侘びていたかのように、その上に腰を下ろしただけで、淫靡な音をたてて交接が再開する。

「あっ……うぁ……っ薪さ……」

「あ……おきっ……」

 繋いだ身体を揺らしているだけでも、狂いそうに気持ちいいのに。
 唇から零れる薪の甘い喘ぎ声にも、誘うような腰の動きにも煽られて。のめり込んでいくうちに、いつの間にか繋がったまま後ろから深く突く格好になっている。

 そしてまた愛の告白と抽送を繰り返し、薪の身体の奥へと、熱い飛沫をまた注ぎ込む。
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