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「僕の話を全く信じてないって顔だな」

「いえ、そんなことは……でも何の実験なんでしょうか?」

「それは……個人的なことなんだが、三日前ふと気になったコトがあって……」

 不自然なの後に、薪が語りだす。

「自分の身体が男に抱かれてイけるかどうか、ということなんだが……」

「はあ、それで……俺とヤってみたいと?」

「ヤるとかいうな」

 青木は半信半疑で話の続きに耳を傾ける。
 話の中身には違和感しかない。薪がそんな個人的な思いつきの動機で、周囲を巻き込む筈がないからだ。
 つまりこれには秘密ウラがある、と―――

「気になり始めたら夜も眠れなくなってな。誰彼構わず相手を頼むわけにもいかないし、信頼できるお前なら、一晩だけ実験に付きあってもらい、後腐れなく元に戻れるだろうと考えたんだが……」

「……わかりました」

 聞けば聞くほど白々しい話を、青木は大きなため息とともに受け止める。
 この実験話はたぶん出鱈目だ。が、そこから薪の要望はハッキリと読み取れた。
 愛しい主人は、何も聞かず自分と一晩だけの関係を持ち、何事も無かったように元に戻れと言っているのだ。おそらくその裏に、また一人で大きな秘密を抱えながら。
 でもそれを明かせないのなら、せめてほんの一部でも自分が加担したい、と青木は切に思うのだ。

「実験にはお付き合いします。ただ……」

「何だ?」

 薪の要望を受け入れる代わりに、青木にもどうしても譲れない条件があった。

「俺にとって、抱くことは愛することと同義です。そこはご容赦願えればと……」

「フン、どうせ一夜限りだ。好きにしろ」

 ぶっきらぼうな返事だが、聞いた瞬間、解き放たれた鮮烈な衝動が青木の本能の重石を外した。

「ありがとうございます!薪さん……!」

 両肩に置かれていた大きな手がローブを剥いで、露わになった素肌になだれこむように大男の身体がベッドに倒れ込む。

「……っ、はぁ……」
 
 上官を掻き抱く違和感も緊張感も微塵もない。
触れるたび敏感に、物欲しげになる薪の肌の快感を熱心に探り当てるのに夢中だった。

「……や、そこ……あっ……」

 赤くなった耳や頬に口づけながら、至るところに手指や唇を這わせて瑞々しい感触を味わう。
 このひとがいざなうようにさらけ出してくる弱点を、一つひとつ攻めていくのが、今の自分に与えられた役目だ。
 触れたところの反応はことごとく悦くて、心も体もすぐさま深みに嵌まっていくのがわかる。
 涙を浮かべ余裕ない表情を晒して善がる薪に欲情を募らせ、逆らわないのをいいことに、青木は躊躇いなく蕩けた性器を玩びはじめた。

「……ぁ……っ……、うし……ろも……っ」

 先に逝くのを嫌い身体を捩る薪の後ろの口を探り当てて潜り込ませた指を、きゅん…と喰い締められて、昂る熱が増す。
 いつの間にか手渡されたローションを纏わせ、指を増やして狭い入口を拓いていくにつれ、苦悶のなか悦びに染まる薪の表情が、なんともいえなく艶めかしく映る。

「……お……まえ、どうすればいいか、わかるのか?」

「わかります!」

 嘘つけ、と苦笑しつつも解けきった身体を預ける薪を抱きしめ、そのナカを青木の怒張が時間をかけて圧し進んでいく。

「……くっ……」

 何だ……これ、めちゃくちゃ気持ちいい。
これがセックスなら、今まで自分は何をしてきたのだろうというほどに。
 震えと涙が止まらない薪を抱きしめ、繋がったままキスで涙を拭う。


「……動か……ないの……か?」

 お互いの体に両腕でしがみつき、頬を寄せ合った薪が訊く。
 近づき過ぎて視界に入らないが、複雑な表情で押し黙っているのがわかるからだ。

「いえ……」

 結合した身体が揺れるように細かく微動し、愛しい人のナカで交接する粘膜が擦れあう。それだけで二人とも上り詰めそうな快感に襲われるから、また止まる。
 進みたいし、終わりたくもない。

「あおき……?」

 浮かない表情ままの青木の脳裏を占めるのは、薪の相手が女性しか思い浮かばなかった時には無かった気持ちだった。
 今後薪の選択肢に自分以外の男が現れるのを想像しただけで、沸いてくる耐え難い嫌悪感。

 今だってこの美しい身体のナカに快楽を覚えさせたくない。
 なのに、自分を刻みつけたい。
 その欲望に負けて、青木の律動が薪のナカで徐々に激しさを増してしまう。
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