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 希はちゃんとわかっている。
 青木舞と、薪希。
 自分の父は舞の叔父でもあり、舞の父母の姓は倉辻。
 それでも舞と自分が姉弟なのは間違いなくて、青木と薪がパパとママなのも正しい。そして舞が倉辻家の娘でもあり、倉辻実家で七五三を祝うのも善いこと。
 この家の複雑な要素が、幸せを妨げるものではないことを、よく知っているのだ。

 楽しかった行事の夜、隣にお姉ちゃんがいなくても「まいちゃんは?」とは訊かない。
 舞の布団にうずくまり寄り添ってくれるママの、いい匂いと温もりを独り占めできる特別感に、ただ満たされて目を閉じるのだ――

 
 台所では、風呂を済ませた青木が明日の朝食作りを終えようとしていた。
 休日の朝に向け、薪の気に入りの店で購入済みのバゲットに、ピッタリの具だくさん野菜スープ。漂う匂いに、襖が開いて、薪が顔を出す。

「……希、寝ましたか?」

「うん」

 いい具合に煮込まれた朝食のスープ鍋。
 青木の隣に立って寝惚け眼で覗き込む薪は、そこに潜む作り手の別の“魂胆”も、嗅ぎとっているに違いない。

「気が早いな」

「……ええ、まあ。お味はどうですか?」

 猫舌の薪に、何度も息を吹きかけて冷まされた小皿が手渡される。

「……ん、おいしい」

 返事を聞くと、大きな手が迷いなく火を消し止め、スープ鍋の蓋を閉じた。

 
「酒でも……呑みましょうか」

「いや……いい」

「じゃあ寝る前に、歯を磨きに行きましょう」

 まるで子どもを相手するように洗面所へと導く青木の誘いにも、薪はやけに素直についてくる。
 じわじわ感じる“手応え”が、青木の手元で小さなガッツポーズになっている。一方の薪も、朝食の支度を早々に済ませて青木が何に“ヤル気”を漲らせているのかは、とっくにご存知・・・だった。

「薪さん」

 濯ぎ終えた口元を拭いながら、薪は何も知らない子どもみたいに惚けた顔で青木を見上げる。

「……なんだ?」

 薪の行く手で両手を広げた大男は、顔を赤くして大真面目に言った。
「ここから俺は、薪さんだけのものです。だから……抱っこさせてください」と。

「……ばか」

 薪は一瞬ぽかんとしてから、俯いて小さな声を吐く。
 しなやかな腕が大男の首に巻きつくと、身体がふわりと宙に浮いた。

 身を任せる薪を大事に運び、包み込むように背中を丸めて鴨居をくぐれば、そこは常夜灯の点いた大人の寝室だ。 
 抱きあったままベッドに崩れ、同時に唇が重なって、同じミントの香りと消泡剤の刺激が甘い熱と溶け合い、互いの感触に呑まれていく。

 肌は触れあう前から沸き立って、こうなることをずっと待っていた。
 触れられる場所はどこも甘く痺れてもう堪らない。
 薪の手が怒張する青木の股間をまさぐり、惹き寄せられるようにそこへと顔を埋めていく。

「……っ、まきさん、待って……」

 大きな手が宥めるように頭を撫でながら、薪を身体から離した。引出しを開け奥でゴソゴソ手探りする音は避妊具の用意だろう。

「貸せ。僕がやる」

「え?」

 返事する間もなく胸ぐらを掴まれ、持ってきたそれ・・を奪われた青木が、20cm以上小さい相手に仰向けに倒される。
 眼鏡も奪われて、ぼやけた天井を映す視界のなか、身体の上で小さく四角い包装を片手と口で破るワイルドな仔猫に可愛く見下ろされて、途轍もない欲望がアオキを益々強固に隆起させる。

「駄目です……って……我慢もキツいけど……準備……はちゃんとしないと……」

 装具を付けた凶器にすぐさま跨ろうとする薪の腰を掴んだ大きな手が、パジャマのズボンをずり下げ左右の丸みを掴み、その指を割れ目に滑らせる。

「ん……あ……っ……やめ……ろっ、自分でやる」

「えっ……」

 手を振り払われた次の瞬間、青木は唖然と目を見張った。
 淫らと穢れなさはこの人のなかで、両立するのだ。禍々しい屹立の上で、自らの体内にそれを突き立てるための入口を性急に拓いていく綺麗な指に見惚れる。

「っ……なんで……こんなにお……きく……っ……」

 息を弾ませながら、蕩かした秘部をそこに宛てがった薪は、身体を縦横に微動させながらじりじり腰を落とす。そして体内でアオキとの淫靡な接触が密になるにつれ……艶めく唇から吐息が漏れ、眉根を寄せた顔が美しく歪む……

「………はぁ……」

 付け根まで繋がった身体の力を、薪がふと抜いた瞬間、上体を起こした青木の至近距離の雄の顔と熱い視線に直面し、驚いた猫みたいにギクリと身を竦めた。

「ウッ……! まきさん……それダメ……」

 交接部を思い切り締め上げられた青木は喉奥で呻き、薪の身体を抱きしめながら、なんとか暴発を回避する。


「……あなた……まさか、動けないんですか?」

 繋がった身体を不規則に締め上げたまま動けない薪を、青木が労わるように撫でながら、ため息混じりに訊く。

「……」

 肯定とも否定ともつかない様子で首を振る薪を撫で下ろす手が、その両脚をそっと掴んだ。

「なら俺がするんで、ここに脚回して……ほら」

 言われた通り、青木の背中に薪の脚が交差してしがみつく。

 青木の手が薪の腰を支え、もう片方の手で背中を撫でながら、身体をゆっくり上下に揺すりはじめる。

「……あ……奥……っ……」

 全部繋がったつもりだったのに、さらに深まる結合に薪は思わず甘い声をあげ、青木は奥歯を食い縛る。

 絶頂はすぐそこにあるのだが、極力遠回りで連れて行きたいのだ。
 せっかく繋がったばかりの薪のナカを、まだ味わっていたいから。
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