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「どうしたらこんなに素敵な子どもたちが育つの? 環境?教育?食べ物……ああ、やっぱ血筋なのかなぁ〜」

 利発な姉に、綺麗な弟。
 幼いながらに上品さと清らかさが溢れてやまない二人を着飾りながら、涼は感嘆のため息をつく。

「えっと、血筋だったらさ、ダイちゃんとユウちゃんはノンちゃんとハトコでしょ? だからみんなイケメンなんだね」

「ありがと、舞。あんた本当に見た目も中身も天使だよ」

 今日は七五三詣りの日だ。
 今年舞は来週6歳、希は3歳と、それらしい年齢になる年。だから“荻窪に皆で住んでる間に、晴れ姿でお詣りしよう”と、正月におバァちゃんが発案してずっと準備を進めてきたのだ。
 おバァちゃんが愛情こめて誂えた舞の着物と希の羽織袴は、これ以上なく二人にお似合いだった。
 伝統色が織りなすめでたくも奥ゆかしい古典柄の着こなしが、舞と希それぞれの可愛らしさと才色を引き立てている。
 聞き分けのいい二人だから、おバァちゃんの着付けも、涼がほどこすメイクも難なく完了。
 想像以上の出来栄えに、薪と涼とおバァちゃんはすっかり心を奪われた様子で、ぽかんと口を開けてしばし見守った。

「ああ……めちゃ可愛い。ちょっと二人とも、このまま写真撮らせてくれる? ウチの家族にも自慢するから」

 我に返った涼が、高揚気味に自分のスマホを二人の天使に向けて構えた。

「え、じゃあ舞も、ダイちゃんとユウちゃんの七五三のときの写真も見たい〜」

「あ、いいよ。ちょっと待ってて」と、軽く引き受けて探し始めたものの、涼のスマホのフォルダは、仕事も含め色んな写真のごった煮状態。目当ての写真がなかなか出てこない。

「あ〜ごめん、すぐに出てこないからまた今度……って、あったあった、これだ」

 涼のスマホが舞に手渡される。

「わぁ、カッコいいね。なんかだいぶ大きい〜」

「ああそれ、ダイキが7歳でユウキが5歳の時だから」

「そっかぁ、この写真……ダイちゃんが舞より1コお兄ちゃんで、ユウちゃんはノンちゃんより2コもお兄ちゃんなんだ……」

 舞が見入る涼のスマホを、希も背伸びして覗き込んでいる。そんな可愛い二人のショットを、薪が目尻を下げて自分の携帯のカメラに収めている。

 剛もすごく良い顔してるじゃん……
 無意識に空のポケットを探ってしまった涼は、苦笑まじりのため息をつく。
 今自分の手にスマホがあったら絶対隠し撮りしていただろうシャッターチャンス。
 青木さんに、この三人の光景見せたら間違いなく号泣だろうな、と思いながら。

「あれ? 今日は青木さんは?」

「今仕事が立て込んでいて、直接神社に来ると言ってた」

「ふ〜ん、なるほどね……」

 休日に出勤と子どもの行事の両立、ご苦労なことだ。青木が仕事中ということは、自ずと上司の薪も……おめかし中の子どもたちの横目に、たまに電話したりタブレットのチェックが必要だった理由を、涼は改めて理解する。

「あ、そういや……」

「ん?」

「……まあいいや、うん、やっぱなんでもない」

 舞と希の育児にあたり、日頃から薪と青木、青木の母、涼の夫妻とその親の鼓海まで、ガッツリ協力して貰っている。
 だからそれぞれ個別でやりとりしてることがあっても不思議じゃない。

 今、涼が青木のことを何か言いかけて止めたのも、きっとそんな軽い日常の一端として薪も軽く受け流していたからだ。


「まきさーん! こっちです」

 日柄の良い土曜だから、出向いた神社も予想していた通り人出が多かった。
 そんな人混みもものともせずに、どこから見ても目立つ男が、社務所の前で手を振っている。

 タクシーを降りた子どもたちも、大きなパパをすぐに見つけて一斉に駆け出していく。といっても、着物と袴ではいつもと勝手が違い、気持ちだけ前のめりになりながら、小股で足を運ぶ奇妙な格好になっているのだが。

 その後ろ姿に思わず溢れる笑みを噛み殺しながら、薪も二人の後に続いた。

「あれ? 母さんは……」

「先に倉辻の家に行って待たれるそうだ。着付けでかなりお疲れの様子だったからな」

「そうなんですね。薪さんも……今日はありがとうございました」

 屈託なく頭を下げた青木は「手続き済ませたんで、行きましょう。ご祈祷はあっちです。あ、その前に手水舎……」と、人だかりの中、薪と子どもたちを庇いながら歩き出す。

「ねぇ〜パパ、かたぐるまぁ」

 お清めを済ませて鳥居をくぐり、拝殿に向かう四人。人垣の視界の悪さに痺れを切らした希が、パパに向かって背伸びして両手を差し伸べる。

「う〜ん、その服じゃ、さすがに肩車は無理かな」

 そう答えるパパの声とともに、希の身体が浮いて視界が一気に開けた。

「うふふ、ノンちゃんってコドモだね」

 抱っこで顔を輝かせ、あちらこちらを指さしながら大好きなパパと話す希を見て、舞が笑っている。
 でもそういう舞も、薪と繋いだ手を離さないままだった。

 着物姿に相応しくお澄まし顔の多い周囲の子たちと比べると、ずいぶんと自然体な二人だ。
 おバァちゃんが同行してたら「希はもう大きくなったんやけん、一人で歩かな」などと小言の一つもでたに違いないが、そんな母に育てられた青木は随分と大らかだ。

 そして二人も肝心なお祓いや祝詞の間は、しっかりと大人しくしていて、玉串も上手に収めた。

 祈祷後は貰った千歳飴を手に、青木が勝手に申し込んだオプションで、家族写真まで撮ってもらって。
 倉辻のパパママと青木のおじいちゃん、荻窪では澤村さんの仏壇にも毎日手を合わせている子どもたちはは、混雑の中お参りもお手のものだった。

「ねぇ、ママ、あれ何?」

「ああ、絵馬だよ」

「何書くの?舞も書きたい!」
「え、ノゾミも書く!」

 そうこうしているうちに参拝客も減っていき、着崩れてぐずつきはじめる子どもも出てくる中を、来た時同様折り目正しく神社を後にする舞と希はさすがの風格だった。

 帰りのタクシーは二台に分かれた。
 舞を倉辻へ送る青木と、家に帰る薪と希。
 青木家に引き取ってはいるが、舞は倉辻の子でもある。晴れの日を倉辻で祝う流れも、青木が仕事を理由にそこに入らない事情も……ありのままでいい。受け止めながら、その日その日の自分たちらしいかたちを繋いでいけたらいい。

 薪は帰宅してすぐに、希の羽織袴を脱がしてやる。と、その解放感に満ち溢れた顔が堪らなく可愛くて、つい腕の中にぎゅ〜っと抱きしめる。
 そして、タイマーで沸かしてあったお風呂へ、二人で直行だ。

 風呂から上がると、台所からいい匂いがたちこめている。
 不思議に思いながらダイニングに踏み込むと、誰もいないはずのテーブルに夕食が並んでいた。
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