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「かせっ、自分でやる」

 薪はハッと我に返り、青木の手から匙と椀を取り上げてお粥を口に運ぶ。

「お前も他人ひとのことばかり構ってないで、自分の食事に集中しろ」

「はぁ……」

 体調が回復してきた証なのだろう。
 とろけて無防備だった薪の瞳には、人を寄せ付けない目ヂカラが戻ってきていた。
 これじゃ拗ねてる理由も訊けなくて、青木も仕方なく黙って自分の椀に手をつける。
 簡易な食事は、すぐに終わった。


「……パパの方が早く出てきたな」 

「え?」

「言葉……ご飯はマンマと言えるが、あいつはまだ僕のことをママとは呼ばない」

 リビングのソファに投げ出すように身体を預けて薪が零す。
 え?まさか拗ねてる原因ってそれ? と青木は目を丸くする。

「でも“マァ”って薪さんのことですよね。しきりに呼んでるじゃないですか」

 そう応える自分の声が、熱く震えているのに気づくがそっと蓋をする。本当は肌身で知っている。子どもが「パパ」とか「ママ」とか呼べる存在があること自体、とても幸せだということを。
 知ってるからこそ薪も、それを満喫すべく拗ねてるのかもしれない。

「それに、男性のあなたを“ママ”と呼ぶ人が、今まで周りにいなかったでしょうから……」

 青木はソファの前で膝を折り、薪の腰に両手を回して下腹部に顔を埋めた。

「これからは俺が呼びます。賢い希はすぐに言えるようになりますよ。あなたのこと“ママ”って」

 一蹴されると思った提案を、薪は眉をひそめて顔をそらしただけで、意外にも受け容れてくれたようだった。

「……お前、間違っても公の場で呼ぶなよ」

「わかってます」

 嬉しさの笑みを噛み殺しながら、大きな手が薪のパジャマを捲って下腹を撫で回す。

「っ……よせっ……て」

「すみません、触れたいんです、もう一度」

 愛撫の手に部屋着のズボンをするりと下ろされると、上気した肌が外気にさらされ気持ちよく感じる。
 悦いところに触れられて仰け反る身体が浮きあがって、いつの間にかソファに座った大男の膝の上に載せられていた。

「何をっ……僕は出産してないし、体も元に戻って……」

「でも身籠ったんですよね?俺の子をここに」

「……んっ」

 背中から全身を閉じ込める腕のなかで撫でられる下腹がじわじわと熱を持つ。耳殻に押しつけた唇から「俺の子」とか「身籠る」とか官能を形どりながら、その声とともに体内に吹き込まれるのが堪らなくて、薪は震えて目を閉じた。

「一週間……着床するまでここにいた……その後はポッドに移ったけど……」

「ポッドに?どうやって移したんですか? ここから……?」

「よせ……っ、きたな……ぃからっ」

 後ろから長い指が這入ってきて蠢く。まるで内側から尋問されてるような感覚に、昂る肌の熱が押さえられない。

「どうして、俺に黙ってたんです?」

「……はぁ……それは……っ」

 受精やその後の成長が順調とは限らないし、第九新体制立ち上げで大変なお前に心配は掛けたくなかった……と零した本音に、薪の内側で蠢く愛撫の指が、ピタリと止まる。

「本当に? あなた一人で全部背負うおつもりだったんですか? 俺の子でもあるのに?」

「……ん……はぁ」

 薪は首を横に振り、艶めかしい息を吐く。
 自分のはしたなさには呆れるばかりだ。焦らされる肌の疼きのせいで、青木の詰問さえまともに頭に入ってこないのだから。

「そんなのずるいです。俺たちにそんな絆が出来てたのなら……気持ちだけでもあなたの傍にいたかったのに」

「だ……からっ!言ってるだろっ。大事なものを失う辛さや不安を、万が一でもお前にはもう……っ、」

 ずるいのはお前の方だ。こんなふうに追い詰められれば、自分が悪いことをした気になってしまう。だからお仕置きを受け入れるみたいに、身体が淫らに応えてしまう。

「そういうのを一緒に受け止めるのが、家族ですよね?」

「……ぁ、お……きっ……やめ……」

 再び動き出した手指に、内側と屹立の尖端を同時に捏ねられれば、言葉は失われる。代わりに後ろと前の敏感な場所の反応だけが過剰に熱を帯びていく。

「手紙の返事のかわりに、一つお願いがあります」

 唐突に撃ち込まれた“手紙”のワードとその申し出に、薪は耳を疑った。

「第三管区に異動させて下さい」

と、大真面目でこの男は云ったのだ。

 即却下しようと足掻いた瞬間、吐精の快感で頭が真っ白に塗り潰された。
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