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「あの真っ直ぐな魂を持つ男に殺されたい」

 そう思っていた自分に、あの男が与えたのは「甘美な死」ではなく「再生」だった。

 変わらないものと、変わるべきもの。
 鈴木への想いは前者でいい。が、青木には未来があるから後者であるべきだ。
 青木はいつまでも僕に囚われていてはいけない。
 胸の内に秘めた想いも昇華した。
 あの命を賭したやりとりで。
 懸命に抱きしめてくる腕の中で、僕は再生したのだ。

 愛するということは、その相手を自分のもとに縛り付けることでは決してない。
 共にいようが、離れようが、ただ幸せを願い続けること。
 心からそう思えるから、今はもう、この脳の中を誰に見られても構わない。

 想いの昇華を手伝っているのは、今の自分がいるこの場所の特殊な居心地良さだろう。
 M.D.I.P。
 この国際プロジェクトは、様々な世界で抜きん出た才能が集まり、日々化学反応を起こしながら進化し続ける場所だ。
 興味深いことが絶え間なく起こって、息つく暇もない。
 各々の常識が食い違うこともあるが、尖ってる分、擦れてない人間のあつまりだ。
 社会、科学の発展のためなら心も体も、命さえも差し出すのを当たり前としているという共通点が、不思議と新たな着地点を生み出すのだ。

 そんな環境の中で薪も、自分という個体を切なく疼かせる熱や、奥深く貫かれるような胸の痛みもすべて、俯瞰する世界のどこか他人事のような感覚になっていた。

 いそがなくていい、待っているから。

 別れ際アイツにそう伝えたのも嘘じゃない。

 でも、その言葉を吐かせたとてつもなく大きく重たい感情は、まだ自分の中心に在るのに、不思議と実感が薄れていたのだ。

 あの ”実験“ に手を出すまでは――
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