Device

「よ……せっ、僕は男……だ……ぞ」

 シャツのボタンに掛かった長い指を、薪が掴んで遮る。

「……知ってます……でもあなたは……」

 戸惑いと必死の交錯する眼差しが熱っぽく絡み合った瞬間、発しかけた言葉も迷子になってしまう。


「薪さんこそ……俺にこんなことされて気持ち悪くないですか?」

「…………」
 
 薪の手をほどき、シャツを剥いだ平らな胸に手指や舌を這わせた青木は、ふと顔を上げ心配げにこっちを見る。
 薪は目を閉じてため息を吐き、苦笑混じりに何度も首を横に振った。
 どストレートなこの男は、僕がまさか心の奥底で狂いそうな程こうなることを切望していたなんて、想像だにしていないのだろう、と。

「…………っ」

 続行を許されて辿りついた両胸の尖端を恣にする口唇と指先に、薪はびくびくと大きく仰け反る。

「っもう無理です、可愛い……」

「あっ、よせ……」

 興奮にまかせたキスが勢いよく腹筋を撫で降りていき、しまいには下腹から脚の間にまで忍び込んで激しさを増していく。

「……あ……っ……」

 同じの器のはずなのに。

 薪のそれは芳しい白百合の雌蕊の先のように、穢れなく淫らな蜜に溢れ、青木の雄をけなげに刺激してくる―――
 その淫美の前に、若い青木のノンケバイアスなんて、ひとたまりもなく吹き飛び、まるで極上グルメを味わうかのように夢中で慾り尽くしてしまう。

「……あっ……はぁっ………ああっ!」

 脳裏に火花が散り弓なりに腰が浮き、頭頂から爪先まで痺れるような快感が疾走る。
 節度を知らない青木の愛撫が、薪をたやすく絶頂に追い詰め、散らせてしまったのだ。



「あ、おき、いれ、て……」

 ビジネスホテルらしからぬ、淫らな水音と喘ぐ吐息が充満した室内。
 薪の片膝を持ち上げながら、シングルベッドに収まりきらない長身が乗り上がり、発情した声で苦しそうに訊ねる。

「何を、どこへです……?」

 腥くほろ苦い口づけに塗れながら、薪の手が青木の手を掴んで後ろへと導いた。
 日頃から買われてる忠実な部下の物わかりの良さ。それがここでも発揮され、散らしたばかりの白濁を纏う長い指が、一本、二本と滑り込み薪の奥を捜索しはじめる。

 あっ、もっと、ふやして……
言葉とも喘ぎともつかない声に、忠実に応えて増幅し、深まる愛撫の指。
 薪自身も知らない身体の奥の“感覚”を次々掘り当てて絆していくのも、この男ならではの嗅覚に違いない。

 いれていい、から……

 え、っと、入れる?ってだからなにを……

 口づけの合間の熱い吐息で交わす会話とともに、青木の股間で立派に滾る器を薪の手がぐっと掴んだ。

「これ……」

と、薪の唇から零れた瞬間、バイブの振動が遠くから次第に大きくなってくる。
 床の上に落ちた衣服の中からだ。

 薪は“青木”を掴んでいた手を離して、床から携帯を広い上げた。


『もしもし、薪さん?今井です』

 薪は大きく一呼吸して、返事を押し出した。

「……ああ」

『なんかおかしなことになってます?』

「……え?」

 愛しい男の長い指を体内に招き入れたまま、薪はとぼけて訊き返す。そんな光景を想像だにしない今井は大真面目にかぶせて訊いてくる。

『あなた、30分程前に装置を強制終了しましたよね?』
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