Device

 平穏無事とはいかないが、第九の2061年も終わろうとしていた。

 仕事納めの日は、大事件の山場でもない限り、部下連中で飲みにいくのが恒例だった。いわゆる忘年会だが、誘っても来ない上司抜きだから、一応非公式な“飲み会”と称して。だが今年はどういうわけか「たまたま仕事が片付いた」とか言って、鬼上司がしれっとついてきたのだ。
 つまり突然に第九の再構築以来初の“忘年会”の開催の日と相成ったのだ。

 薪剛と酒を酌み交わすことに始めは少し緊張気味だったメンバーも、酒が回るとすっかり素になってくつろぎ始め、普段は殆どできない“仕事以外の話”で大いに盛り上がりをみせている。

 「おいおい、今晩大雪降るんじゃねぇか?」
 
 和気藹々とした忘年会の空気のなか、チラリとスマホを見て天気をチェックしたのは、明日新潟に帰省予定の岡部だ。上司との初飲みに色めき立つ連中の中で唯一薪と飲むのが初めてじゃなかったし、第九内での人望の厚さも随一。東北出身にしては酒に弱く泣き上戸になるのを、意外と酒豪の宇野と青木に慰められながら、なぜか学生時代の恋愛話に熱が入っていく。
 
 一方で、薪を取り巻く三人の間でも、ふとしたことから恋バナ?が始まろうとしていた。

「あれ?今井さんってスマホ二台持ちなんすか」

「え〜なんかヤラシイ」

「はあ、何でやらしいんだ。それにスマホは一台だ」

 飲んでも変わらない小池の隣で、曽我は目が据わってイケメンへの当たりが強めだ。

「でも机の上に出してるヤツと、ズボンのポケットのコレって……」

「ああ、これか。これはスマホじゃない」

「スマホじゃなかったら何なんすか、今井さんにしてはベタな嘘を……てか何で隠すんです?やっぱアヤシくないですか?」

 小池の素朴な質問をオオゴトにする曽我の余計な追及。今井は「助けてくださいよ」とばかりに薪に困惑の視線を送る。

「落ち着け曽我。今井は嘘はついてない。それは脳下垂体の働きをコントロールする装置なんだ」

「はい!?コントロールってことは……まさか生きてる脳?」

「ああ、そうだな」

 曽我の返しに薪は失笑を噛み殺す。日頃の業務のことを思えば“生きてる脳”の話は確かに珍しい。

「近赤外分光で脳波と会話して必要な指令を出し、傍受したデータが実証結果としてサーバーに蓄積されるしくみになっている」

「ハイ、あの薪さん。データって……実証の目的って何なんでしたっけ?」

 傍らで説明を聞いていた小池が小さく挙手して尋ねると、薪は大真面目な顔で答えた。

「まあ、簡単に言えばパートナーとの性の不一致解消だ」
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