空回りと焦燥
嵐のような結合がひとたび落ち着いたあとも、青木は薪を離そうとはしなかった。
「チュ……チュプ……」
リビングの照明の下、微かに続く濡れたリップ音。
大きく割られた薪のしなやかな脚の間に身を沈め、青木は愛しげにその白く滑らかな内腿の柔らかい皮膚に、まだ熱い唇で触れていた。
「……ヨガの効果ですかね。薪さん、めちゃくちゃ柔らかいです」
「黙れ……っ。お前のせい……だろっ……」
事後の余熱を孕んで痺れる秘部を労るように優しく撫でられ、薪は開かれた自らの脚の影に顔を隠すようにして、弱々しく身悶える。
そのあまりにも煽情的な恋人の姿を見上げ、青木は悪戯っぽく目を細めた。
「薪さん。……ヨガ、やめちゃうんですか?」
「やるわけないだろう。こんな不埒な男の餌食になるポーズなんか……っ」
「そうですか? 俺、自宅で始めてみようかな。薪さんのナカを、これから色んな角度や深さで攻めるために、もっと股関節の可動域を広げておきたいですし」
「お前は……どこまでその体躯を凶悪にするつもりなんだ…… 研究の方向性を間違えるなよ」
とにかく真面目に、一度取り掛かったものは徹底的に突き詰めがちな二人である。
ようやく身体をほどいた二人が並んで横たわるソファの上に、熱気冷めやらぬ重い呼吸が降りかかる。
「シャワーは……」
「朝でいい。もう動けない」
その言葉を聞いた青木は、微笑んで頷くとソファから身体を起こした。
残された薪は、一人ソファの上でゆっくり身体を丸める。
青木がいない数分間の静寂のなかで、一週間あんなに頑なに閉ざしていた己の心が、今は信じられないほど軽やかに開かれた幸福を、しみじみと噛み締めていた。
「お待たせしました」
スリッパの足音が戻ってくる。青木の手には、冷たい水が注がれたグラスがあった。
「喉、カラカラでしょう」
「うん、ありがたい……でもお前のは……」
「一緒に飲むんです。それぞれじゃ退屈ですから、俺が飲ませて差し上げますよ」
青木は自ら水を口に含むと、目を見開く薪の顎を優しく上向かせて、その唇を塞いだ。
隙間から、ひんやりとした清烈な水分が、薪の乾いた喉へと滑り込んでいく。
文字通り、心も身体もカラカラに渇ききっていた二人が、互いを通じてどこまでも潤っていくような、贅沢で官能的な水分補給。
一度では足りず、何度も、何度も、お互いの水分を確かめ合うように深いキスを繰り返した。
「でも……挿入をしないセックスなんて、考えてみたら絶対無理でした。こんなに素敵なあなたを前にして、俺が耐えられるわけがない」
「うん。お前は……僕の前では正直で、ありのままでいればいい。これは命令だぞ」
薪は優しく微笑んだ。
そのあまりに好みな顔に――すっきりと通った繊細な鼻筋や、艶めく唇に、青木は何度も何度も、狂おしいほどの愛を込めてキスをする。
「だが、お前……新入りの頃は、僕が女性だったという夢を見て、喜んでいたんだろう?」
「えっ……あ、あれは……っ! 違います、あの時はまだ、自分のなかの恋心が『恋愛=女性相手』という固定観念に縛られていて、そうなっただけで……」
青木は慌てて弁明しながら、薪の肩を包み込むように抱きしめた。
「つまり、もうあの時から、俺はあなたに恋をしていたんだと思います。自分でも気づかないうちに、あなたを見るだけで胸が高鳴っていましたし……その後、見るようになった夢だって……」
「ん? その後、どんな夢を見たんだ?」
薪が形の良い眉をピクリと動かし、探るように見つめてくる。
「あ……いえ、何でもありません」
流石に、これは引かれる。
男の姿のままの薪が、あられもない、いやらしい裸体を晒して自分を誘い、めちゃくちゃにのめり込んで貪り尽くすお色気たっぷりな夢を見ていたこと。そして翌朝早々、薪のいやらしい夢を思い浮かべながら自慰をし、その後何食わぬ顔をして出勤していたことなど――
(言えない……これだけは、一生秘密にしておこう)
薪さん、ごめんなさい……さっそく命令に背いてしまいました。
青木は脳内の最も深くにある秘密の保管庫に、頑丈な鍵をかけ仕舞い込んだ。
けれど、腕の中にいる最愛の人の体温だけは、何よりも確かで、温かい。
「薪さん」
「なんだ」
「……大好きです」
「知っている。……しつこいぞ」
呆れた声とは裏腹に、薪のしなやかな腕が青木の広い背中に回され、ぎゅっとしがみつく。
けなげな『空回り』も、狂おしい『焦燥』も、互いを思うがゆえだから。
また生まれてくるかもしれないけれど、きっとこうして、最短距離で解消できる気がした。
「チュ……チュプ……」
リビングの照明の下、微かに続く濡れたリップ音。
大きく割られた薪のしなやかな脚の間に身を沈め、青木は愛しげにその白く滑らかな内腿の柔らかい皮膚に、まだ熱い唇で触れていた。
「……ヨガの効果ですかね。薪さん、めちゃくちゃ柔らかいです」
「黙れ……っ。お前のせい……だろっ……」
事後の余熱を孕んで痺れる秘部を労るように優しく撫でられ、薪は開かれた自らの脚の影に顔を隠すようにして、弱々しく身悶える。
そのあまりにも煽情的な恋人の姿を見上げ、青木は悪戯っぽく目を細めた。
「薪さん。……ヨガ、やめちゃうんですか?」
「やるわけないだろう。こんな不埒な男の餌食になるポーズなんか……っ」
「そうですか? 俺、自宅で始めてみようかな。薪さんのナカを、これから色んな角度や深さで攻めるために、もっと股関節の可動域を広げておきたいですし」
「お前は……どこまでその体躯を凶悪にするつもりなんだ…… 研究の方向性を間違えるなよ」
とにかく真面目に、一度取り掛かったものは徹底的に突き詰めがちな二人である。
ようやく身体をほどいた二人が並んで横たわるソファの上に、熱気冷めやらぬ重い呼吸が降りかかる。
「シャワーは……」
「朝でいい。もう動けない」
その言葉を聞いた青木は、微笑んで頷くとソファから身体を起こした。
残された薪は、一人ソファの上でゆっくり身体を丸める。
青木がいない数分間の静寂のなかで、一週間あんなに頑なに閉ざしていた己の心が、今は信じられないほど軽やかに開かれた幸福を、しみじみと噛み締めていた。
「お待たせしました」
スリッパの足音が戻ってくる。青木の手には、冷たい水が注がれたグラスがあった。
「喉、カラカラでしょう」
「うん、ありがたい……でもお前のは……」
「一緒に飲むんです。それぞれじゃ退屈ですから、俺が飲ませて差し上げますよ」
青木は自ら水を口に含むと、目を見開く薪の顎を優しく上向かせて、その唇を塞いだ。
隙間から、ひんやりとした清烈な水分が、薪の乾いた喉へと滑り込んでいく。
文字通り、心も身体もカラカラに渇ききっていた二人が、互いを通じてどこまでも潤っていくような、贅沢で官能的な水分補給。
一度では足りず、何度も、何度も、お互いの水分を確かめ合うように深いキスを繰り返した。
「でも……挿入をしないセックスなんて、考えてみたら絶対無理でした。こんなに素敵なあなたを前にして、俺が耐えられるわけがない」
「うん。お前は……僕の前では正直で、ありのままでいればいい。これは命令だぞ」
薪は優しく微笑んだ。
そのあまりに好みな顔に――すっきりと通った繊細な鼻筋や、艶めく唇に、青木は何度も何度も、狂おしいほどの愛を込めてキスをする。
「だが、お前……新入りの頃は、僕が女性だったという夢を見て、喜んでいたんだろう?」
「えっ……あ、あれは……っ! 違います、あの時はまだ、自分のなかの恋心が『恋愛=女性相手』という固定観念に縛られていて、そうなっただけで……」
青木は慌てて弁明しながら、薪の肩を包み込むように抱きしめた。
「つまり、もうあの時から、俺はあなたに恋をしていたんだと思います。自分でも気づかないうちに、あなたを見るだけで胸が高鳴っていましたし……その後、見るようになった夢だって……」
「ん? その後、どんな夢を見たんだ?」
薪が形の良い眉をピクリと動かし、探るように見つめてくる。
「あ……いえ、何でもありません」
流石に、これは引かれる。
男の姿のままの薪が、あられもない、いやらしい裸体を晒して自分を誘い、めちゃくちゃにのめり込んで貪り尽くすお色気たっぷりな夢を見ていたこと。そして翌朝早々、薪のいやらしい夢を思い浮かべながら自慰をし、その後何食わぬ顔をして出勤していたことなど――
(言えない……これだけは、一生秘密にしておこう)
薪さん、ごめんなさい……さっそく命令に背いてしまいました。
青木は脳内の最も深くにある秘密の保管庫に、頑丈な鍵をかけ仕舞い込んだ。
けれど、腕の中にいる最愛の人の体温だけは、何よりも確かで、温かい。
「薪さん」
「なんだ」
「……大好きです」
「知っている。……しつこいぞ」
呆れた声とは裏腹に、薪のしなやかな腕が青木の広い背中に回され、ぎゅっとしがみつく。
けなげな『空回り』も、狂おしい『焦燥』も、互いを思うがゆえだから。
また生まれてくるかもしれないけれど、きっとこうして、最短距離で解消できる気がした。