2nd初夜

「俺、わかったんです」

「……だから、何が?」

 二人の腹の間で散った白濁をティッシュで拭い、役目を果たした自らの装備を片付ける男の背中を、乱れたシーツの中で横座りしながら見つめる薪は、呆れるあまり眉をひそめている。
 
「“カラダだけの関係”の奥深さです」

「はあ?お前な。何を誤解してるか知らないが……」

 やけにキリッとした顔で振り返り迫ってくる男を押し返そうとする身体は、尺の長い両腕に甘く絡め取られて、情事の余韻ただようシーツの中に逆戻りしてしまう。

「こういう関係をもつようになって、あなたと交わる方法を調べたり、顔色を気にしたり、言葉で気持ちを探ろうとしていた……俺が馬鹿でした」
 
 まだ熱い身体が重なる感触にぞくりと震え、まだ離れたくなかった自分の本心を肌で思い知る。
 ねだったわけじゃないのに欲しいところに降るキスの、求める以上の優しさに、またほだされそうだ。

「……こうやって……表面ばかりに気を取られず、本質や思いはカラダにきけば良いんですよね」

「え。違っ……」

 どうしてそうなる。お前に何が分かると?

「あ、そこ、よせっ……」

「でもほら、ここすごい反応……」

「やっ……ぁあっ……」

 この忠犬の嗅覚を甘くみていた。もともと観察眼が鋭い上に、薪に対して鼻が利きすぎるのは、昔からわかってた。
 持て余すとわかっててなぜ一線を踏み越えさせたのか―――


「薪さん、眠っていいですよ。俺ずっとそばにいますから……」

 傍にいろなんて、頼んでない。

 でも何故か満たされて、いやホットラズベリーソースに溺れるバニラアイスのように、甘い後戯に溶かされながら目を閉じる。

 そのソースはドイツ語でHeiße Himbeeren、別名はHeiße Liebe(熱い愛)だ。

 まさか自分がそんなものにどっぷり溺れているなんて自覚する余裕さえないまま、薪は甘い眠りに崩れていくのだった。
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