2nd初夜

 蕩ける。これはまるで―――自分のカラダがとけて無くなったような錯覚にとらわれた薪は、甘い余韻に痺れる手を夜景の窓にかざし、五本の指のシルエットをたしかめて深い息を吐く。
 
 決してスマートな運びではない。いや、むしろ間抜けだ。薪を裸にして唇と手で愛情たっぷりに撫で回し、ついには性感帯を刺激しすぎて逝かせてしまった大男は、今は遅れて自分の服を脱ぎ避妊具を装着するのに忙しい。それを待つこのビミョーな空気さえ満たされて感じるのは、たった二杯の酒に酔ったのか、不本意にもこのバカが作り出したハネムーン劇場で踊らされているからなのか?


「薪さんっ……あの……」

 ようやく準備が整った青木が、薪に覆いかぶさって……ハッと怯む。

「……どうした?」

「いえ……あなたがあまりにお綺麗で、俺どうしようかと。一度イった後すぐに挿れると痛いと言いますし……」
 
 照れたり心配したりと忙しい青木を「フ、」と鼻で笑い、薪は首に腕を回してもう片方の手を眼鏡に伸ばした。
 
「こんなものをしてるから惑わされるんだ」

 外した眼鏡がサイドボードに収まり、二人の唇が薪のほうから重なる。

「表面が見えないからこそわかる、本質や思いがあると……誰かが言っていた」

「……ん、それって……チュ……」

 誰だろう?山本さんかな……ふと浮かんだ思考はみるみるうちに熱い口づけに流されていく。


「ああ、ホントだ」

「……っ……は……」

 薪の反応は確かに男の体を抱くために調べた事前知識とは違う。ローションに塗れた指を次々きつく呑み込んでいく後ろの口は、上り詰めた直後もなお物慾しげな熱を帯びて深い方へと誘おうとする。

「薪さん、俺、わかりました」

「ま……てっ、く……っ青木ッ!」

 身を捩って自分の下から這い出そうとする薪の腰を掴まえた青木は、そのしなやかな身体を引き寄せ、充分に解した蕾に猛る自身を押し当てじりじりと拓いていく。

「やめ……ろっ……」

 言葉とは裏腹にきつく喰い締めてくる薪との結合を、今更解けるはずもない。じっと抱き竦め内側が馴染むのを待っていると、杭打たれた薪の腰が微動をはじめるから堪らない。

「すみません、もう、動きます」

「あっ、あっ……ま……てっ……あぁっ……」

 つられた青木が律動を始めれば、そのまま止まれるはずもなく激しくなるばかりで。
 後ろから存分に奥まで味わいながら、最後は繋がったまま向き合い直した身体を起こす。
 座って抱き合い口づけしながら、甘い口づけで互いを蕩かしていく。
 ただ、愛したいだけのキモチに任せて、送り合う快楽に絆されて、一気に絶頂へと駆け上がった二人は、ほぼ同時に果てた。


「ハァ………おまえ……こんな好き勝手して……ゆるされるとおもうなよ……」

「えっ、でも俺、あなたのボディランゲージを受け取っただけで……」

「はあ!?」

 呆れ顔の薪が真っ赤になって青木を見上げる。

 たしかに青木の全てを欲しがった。
 そしてナカを掻き混ぜられる快楽にまみれながらも、吐精の瞬間、シーツの汚れを一瞬気にした……かもしれない。
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