2nd初夜
「お前、金の使い方を間違ってないか」
一階降りるだけのエレベーターの扉と睨み合うように腕組みした薪は、眉間に皺を寄せてぼそりと呟く。
「いいえ、正しい使い途だと思います」
「は?おかしいだろ。僕みたいなただのセフ…」
青木の大きな手が薪の口を塞いで「降りましょう」と落ち着いた声で囁いた。
見開いた薪の目に映るドアの向こうには、絨毯敷の廊下とモザイクの壁が照明に照らされたラグジュアリーな空間が待ち受けている。
手が離れても目を丸くしたままの薪を連れ、青木は奥の部屋のキーを開けて入った。その瞬間、
眩しい―――
大きな窓の向こうに広がる夜景に、薪は今度は目を細めた。
“まるで宝石箱をひっくりかえしたような”
なんていうポエムな感覚が、しっくりなじんでしまう自分に驚く。
夜更けに光り輝く景色は、薪にとって街が眠らない証拠でしかなく、つまり四六時中潜む邪悪と睨み合っている気分にしかならなかったのに―――
「……どうして……こんな……」
暗いままの室内。吸い寄せられるように窓際に近づく薪を、背後から優しく大きな影とぬくもりが包み込む。
「お前は付き合う相手に贅沢をさせるのが趣味なのか?」
「……いえ、そうではなくて……」
抱き締められた薪の後頭部に当たる心臓の音がダイレクトに伝わって、なんだかこっちまで身につまされる。
「けじめ、っていうか……その、俺にとって……あなたとお付き合いするのはとても重大な人生の出来事なので、ここはしっかり受け止めてですね……」
「大げさだっ、体だけのカンケイなのに……」
「それでも!あなたに選んで貰えたのが、俺は嬉しいんです!」
「…………」
背後の頭上から降る真っ直ぐな告白に、グダグダと薪の脳内を渦巻いていた意地っ張りな言い訳も全部吹っ飛んでしまう。
気づけばガラスの向こうに散らばった宝石をぼんやりと見つめながら、エスコートされるようにスムーズにジャケットを脱がされていた。自然な流れでシャツやズボンにも手が掛かる。
純然たるヘテロセクシャルのくせに、僕が与えるものなら何でも有難く戴いてくれるなんて、全くコイツは忠犬の鏡だ……と、薪は愛しさと半々の罪悪感をほろ苦く噛みしめる。
「……薪さん」
「……ん……」
ネクタイを解かれ露わにされていく肌をなぞる口づけの心地よさに身を委ねているうちに、いつの間にかズボンをずり降ろされて、しとどに濡れた性器が青木の手の内でクチクチと淫らな音をたてていた。
「なんか……あなたのここ……すごいことになってる……」
「っ……」
あっちでもっとよく見せてください。と耳元に吐きかけられる熱っぽい声にぶるりと震え、顔を赤くして振り返った薪は、背伸びして大男の首に思い切りしがみつく。
シャツと下着とズボンを残して浮いた身体が移動して、ベッドに寝かされる。と、開かされた脚の爪先から、靴と靴下も床に落ちていく。
「……は……ぁ……見……るなっ」
ヘッドボードの間接照明が、脚の間で淫靡な音をたててうごめく青木の頭頂の眺めを昏く浮き上がらせている。
「見えてませんから」
愛しげになだめる言葉は半分嘘だ。眼鏡も外さず反応を確かめるようにじっくり嬲られているそこは、薪自身さえ見たことない欲情のかたちをしめしているにちがいない。それを口唇や手指で丁寧になぞられ、包んで擦られて、うしろの奥まで執拗にまさぐられている感触も、すべてが未知のものだった。
一階降りるだけのエレベーターの扉と睨み合うように腕組みした薪は、眉間に皺を寄せてぼそりと呟く。
「いいえ、正しい使い途だと思います」
「は?おかしいだろ。僕みたいなただのセフ…」
青木の大きな手が薪の口を塞いで「降りましょう」と落ち着いた声で囁いた。
見開いた薪の目に映るドアの向こうには、絨毯敷の廊下とモザイクの壁が照明に照らされたラグジュアリーな空間が待ち受けている。
手が離れても目を丸くしたままの薪を連れ、青木は奥の部屋のキーを開けて入った。その瞬間、
眩しい―――
大きな窓の向こうに広がる夜景に、薪は今度は目を細めた。
“まるで宝石箱をひっくりかえしたような”
なんていうポエムな感覚が、しっくりなじんでしまう自分に驚く。
夜更けに光り輝く景色は、薪にとって街が眠らない証拠でしかなく、つまり四六時中潜む邪悪と睨み合っている気分にしかならなかったのに―――
「……どうして……こんな……」
暗いままの室内。吸い寄せられるように窓際に近づく薪を、背後から優しく大きな影とぬくもりが包み込む。
「お前は付き合う相手に贅沢をさせるのが趣味なのか?」
「……いえ、そうではなくて……」
抱き締められた薪の後頭部に当たる心臓の音がダイレクトに伝わって、なんだかこっちまで身につまされる。
「けじめ、っていうか……その、俺にとって……あなたとお付き合いするのはとても重大な人生の出来事なので、ここはしっかり受け止めてですね……」
「大げさだっ、体だけのカンケイなのに……」
「それでも!あなたに選んで貰えたのが、俺は嬉しいんです!」
「…………」
背後の頭上から降る真っ直ぐな告白に、グダグダと薪の脳内を渦巻いていた意地っ張りな言い訳も全部吹っ飛んでしまう。
気づけばガラスの向こうに散らばった宝石をぼんやりと見つめながら、エスコートされるようにスムーズにジャケットを脱がされていた。自然な流れでシャツやズボンにも手が掛かる。
純然たるヘテロセクシャルのくせに、僕が与えるものなら何でも有難く戴いてくれるなんて、全くコイツは忠犬の鏡だ……と、薪は愛しさと半々の罪悪感をほろ苦く噛みしめる。
「……薪さん」
「……ん……」
ネクタイを解かれ露わにされていく肌をなぞる口づけの心地よさに身を委ねているうちに、いつの間にかズボンをずり降ろされて、しとどに濡れた性器が青木の手の内でクチクチと淫らな音をたてていた。
「なんか……あなたのここ……すごいことになってる……」
「っ……」
あっちでもっとよく見せてください。と耳元に吐きかけられる熱っぽい声にぶるりと震え、顔を赤くして振り返った薪は、背伸びして大男の首に思い切りしがみつく。
シャツと下着とズボンを残して浮いた身体が移動して、ベッドに寝かされる。と、開かされた脚の爪先から、靴と靴下も床に落ちていく。
「……は……ぁ……見……るなっ」
ヘッドボードの間接照明が、脚の間で淫靡な音をたててうごめく青木の頭頂の眺めを昏く浮き上がらせている。
「見えてませんから」
愛しげになだめる言葉は半分嘘だ。眼鏡も外さず反応を確かめるようにじっくり嬲られているそこは、薪自身さえ見たことない欲情のかたちをしめしているにちがいない。それを口唇や手指で丁寧になぞられ、包んで擦られて、うしろの奥まで執拗にまさぐられている感触も、すべてが未知のものだった。