2066 青誕 大人の階段
翌朝は平日なのに、やけに爽やかに始まる一日。
閉めたままの遮光カーテンと開かない窓。
外の天候はわからないが、捜査も新たなフェーズに進んだと報告が来ていたし、くだらない自分の憑き物も落ちて、気分はとても晴れやかだった。
裸で抱かれて眠りについた広いベッドには、今は薪が一人で横たわっている。
ちっとも寒くないのは、もこもこのローブを着せられ、ぐるぐるに毛布でくるまれているからで。きっとこれは先に起きたお節介な部下の仕業だった。
「誕生日おめでとう」
支度を終えた後、カーテンを開けた窓の外を見ながら呟く薪に、クローゼットの鏡の前でシャツの袖のボタンを止めてる青木が驚いて振り向く。
「え、あ……ありがとうございます」
「お前いくつになった?」
「えぇ、と……29ですが……」
何だ、やっぱり覚えててくださったんだ。
戸惑いながらも青木は胸を踊らせる。
「昨夜はおかしなことに付き合わせて悪かったな」
「いいえ、寧ろ嬉しいですよ」
「え?」
「昨夜。あなたも一緒に、俺と大人の階段を上ってくださったんでしょう?」
「…………!?」
薪が窓から視線を離して、青木の顔を見る。
「階段?何だそれは……」
怪訝な顔で訊ねる薪に、青木が無邪気に返した。
「いえ、あなたも何かを吹っ切って、次のステップに上られたのかなってなんとなく思ったんで」と。
全く、こいつの嗅覚は恐ろしい。
薪は肩を竦めながら、優しい顔で青木の立っているクローゼットへと歩み寄った。
「待て、青木」
「はい?」
いつものタイを締めようとする青木の手をはたいて、薪の両手が首元にふわりと伸びた。
「ど、どうしたんですか?この超カッコいいネクタイは……」
「そうだろう?僕からのプレゼントだ。お前、大人びたスーツを新調した癖に、ネクタイが代わり映えしなかったからな」
「エッ、マキさんが俺に……誕生日プレゼント……」
あまりのことに青木の返答が棒読みになっている。
フランコ・バッシのシルクツイルのソリッドタイ。しかも色は今のスーツによく合うダークネイビーだ。
薪が締めてくれたネクタイを身につけた鏡の中の自分の姿は、感涙でぼやけてしまってよく見えない。
大人の階段を一段上ったくらいでは、まだまだこの人には追いつける気がしない、感無量の朝だった。
閉めたままの遮光カーテンと開かない窓。
外の天候はわからないが、捜査も新たなフェーズに進んだと報告が来ていたし、くだらない自分の憑き物も落ちて、気分はとても晴れやかだった。
裸で抱かれて眠りについた広いベッドには、今は薪が一人で横たわっている。
ちっとも寒くないのは、もこもこのローブを着せられ、ぐるぐるに毛布でくるまれているからで。きっとこれは先に起きたお節介な部下の仕業だった。
「誕生日おめでとう」
支度を終えた後、カーテンを開けた窓の外を見ながら呟く薪に、クローゼットの鏡の前でシャツの袖のボタンを止めてる青木が驚いて振り向く。
「え、あ……ありがとうございます」
「お前いくつになった?」
「えぇ、と……29ですが……」
何だ、やっぱり覚えててくださったんだ。
戸惑いながらも青木は胸を踊らせる。
「昨夜はおかしなことに付き合わせて悪かったな」
「いいえ、寧ろ嬉しいですよ」
「え?」
「昨夜。あなたも一緒に、俺と大人の階段を上ってくださったんでしょう?」
「…………!?」
薪が窓から視線を離して、青木の顔を見る。
「階段?何だそれは……」
怪訝な顔で訊ねる薪に、青木が無邪気に返した。
「いえ、あなたも何かを吹っ切って、次のステップに上られたのかなってなんとなく思ったんで」と。
全く、こいつの嗅覚は恐ろしい。
薪は肩を竦めながら、優しい顔で青木の立っているクローゼットへと歩み寄った。
「待て、青木」
「はい?」
いつものタイを締めようとする青木の手をはたいて、薪の両手が首元にふわりと伸びた。
「ど、どうしたんですか?この超カッコいいネクタイは……」
「そうだろう?僕からのプレゼントだ。お前、大人びたスーツを新調した癖に、ネクタイが代わり映えしなかったからな」
「エッ、マキさんが俺に……誕生日プレゼント……」
あまりのことに青木の返答が棒読みになっている。
フランコ・バッシのシルクツイルのソリッドタイ。しかも色は今のスーツによく合うダークネイビーだ。
薪が締めてくれたネクタイを身につけた鏡の中の自分の姿は、感涙でぼやけてしまってよく見えない。
大人の階段を一段上ったくらいでは、まだまだこの人には追いつける気がしない、感無量の朝だった。