2070 薪誕 家族ぐらし

「ね、次はティーカップに乗ろうよ!」

​ メリーゴーランドから下りて駆けてきた舞が、興奮冷めやらぬ様子で薪のダウンの裾を引く。

「軽くてよく回るから、マキちゃんと二人がいい!」

 指名を受けた薪は、困惑に眉尻を下げつつ嬉しそうに頷く。
 結局、残された大男は、もっぱら荷物持ち兼写真係を引き受けることになる。

 パステルカラーのカップの中で、舞とハンドルを回す薪。
 ファインダー越しに見る二人の表情があまりに眩しくて、青木はシャッターを切る手を止めることができない。
 近頃はスマホだけでは飽き足らず、大枚叩いて入手したデジタル一眼カメラが、大活躍だった。

​ 容赦なくハンドルを回し続ける舞の小さな手に、薪も自分の手を添え無邪気に加速を楽しんでいる。

 さすがにやりすぎたか……高速回転するカップから降りた薪は、降り立った地面が回る感覚を楽しむ舞の傍らで、ふらりと青木の肩に凭れかかった。

「……酔った」

 そう言って目を瞑りながら青木の肩に額を押し付けてくる薪の顔は、とても満足げに見えて微笑ましい。
 青木は咄嗟にその細い腰を支えて、耳元で囁く。

​「薪さん、大丈夫ですか? ……ほら、そのまま深呼吸して」

​ 青木は空いた手で薪の冷たくなった耳を包み込み、そのまま親指でこめかみをゆっくりと、円を描くように解きほぐす。
 少しずつ落ち着きを取り戻していく薪の呼吸を、青木は自分の鼓動と重ねるように感じとっていた。

​(昔のデートも真剣だったはずなのに、今思えば本当にママゴトみたいなものだな)

​ さっき薪に突つかれたネタがふと頭をよぎり、青木は内心苦笑する。
 当時は、相手を気遣う余裕も、ここまで互いの体温や、魂の重みを預け合うような濃密なやり取りも、まったく知らない世界にいた。

​「薪さん……俺の世界、やっぱ信じられないくらい綺麗な超極彩色に見えますよ」

「……何の話だ。今度はお前の頭が回っているのか?」

​ 突然に漏れる青木の感慨深げな声に、怪訝そうに顔を上げる薪。
 見上げる潤んだ瞳と、見下ろすまっすぐな視線の熱が艶めかしく絡み合うのも束の間――

「マキちゃん、大丈夫?」

 心配げに寄ってくる舞を見て、青木はいつもの優しい表情に戻った。
 そして、舞の小さな手と青木の大きな手が薪の背中を支えて歩き出す。
3/4ページ
スキ