2069 青誕 実りのとき

 昼下がりのガーデンカフェで、激務明けのランチデートに応じてくれた薪は、咲き誇る花々が霞むほど美しかった。
 見惚れながら青木は思ったのだ。
 捜査に没頭した二晩ほとんど寝てないし、ろくに食事も摂ってないのに、なぜこんなに瑞々しく可愛らしい顔で俺を見上げてくるのだろう、と。

「せっかくの週末だったのに、付き合わせて悪かったな」

「いいえ、当然のことですよ。俺たち付き合ってるんですから」

 そう。文字通り“付き合っている”二人。
 恋人であり部下なのだから、セックスはもちろん捜査にだって何にだって喜んで付き合うし、青木にとって薪と過ごす時間は、何をしていても“至福の時”には違いない。


「で?半月後はどうするんだ」

「へっ?」

「なにか欲しいものはあるのか」

 唐突に連投される短い問い。
 それが来月の自分の誕生日に関する質問だと気づいた青木は真面目な顔になり「“いつもの”でお願いします」と耳打ちする。

「……他には?」

「それが叶うなら何も要りません」

「……わかった。善処する」

 ランチの後、庭を散策する薪に、衝動買いした濃桃色のペルネッティアを渡した。
 カフェのレジに並ぶ可愛らしい実をつけた小さな木に妙に惹かれたのだ。
 存在自体が“花”に似た薪に、咲いたその先に実るものを贈りたい衝動。それと、そこに込められた気持ち――

 “この想いを実らせてくれたことに感謝します”
 “あなたと過ごすすべての日々が実りある時間です”

 意図が伝わったのかは不明だ。が、それを受け取った薪の初々しく可愛らしい反応は、別れ際の言葉とともに今日までずっと青木の心に残っている。

「次に会う時までは、さすがにこいつも生きてるだろうな」

 少し心配げな微笑み混じりに真珠の木を覗き込む薪の、子どものように無垢な横顔に見惚れながら、青木は贈った分の何倍ものお返しを貰った気持ちに胸を膨らませた。


 そして、今日は“約束の日”の前夜だ。

 一組織で全国をみていた時代と比べ、十倍以上に増えた捜査員が八つの管区に配置される今の第九は、当時とはレベル違いのホワイトな職場に“表向きは”なっている。
 何もなければ休日は休めるし、平日も人間らしいワークとライフを過ごせるなんて、当初のメンバーにとっては夢のようだ。

 死神と同棲していたようなかつての薪の住まいだって、今や生気や温もりが宿る愛の巣となっている。
 今日なんて特に、お花畑みたいに浮ついた匂いが薄っすらと漂ってさえいる。

 そんな中、“遅くなるので寝ていてください”と年下彼氏に言い付けられたとおりにベッドで微睡んでいた薪が、旨味のきいた出汁の匂いにゆっくり長い睫毛を上げる。

「……」

 音もなくベッドを降り立って台所を覗いた薪は、朝食の仕込みをしている風呂上がりの大男の背中に見惚れたまま動けないでいた。

「あ、こんばんは、お邪魔してます」

 薪の気配に感づいて振り向いた青木が照れた様子だったのは、新しいパジャマを纏った姿を初めて見せる面映ゆさからだ。

 明日は火曜だが、二人にとっては休前日の夜だ。
 暦上は平日だが、二人だけの休日。
 つまり青木へのプレゼントは、誕生日当日の薪の休暇というわけだ。

 ここ数年、この日は不思議と端からキレイに空いている。
 まるで予定を弾く見えない何かにブロックされているように。
 (そこにちらつく第三管区の敏腕室長の影に、二人は密かに感謝していた)
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