2069 青誕 実りのとき

「さすがこれは……荷が重すぎる」

 11月半ばの日曜真夜中、薪が自宅で一人きり、ぽつりと弱音を零した。

 週末の逢瀬のために上京してきた部下兼恋人を、とっ捕まえて巻き込んだ二人きりの極秘捜査。
 離れ離れになる今日になって、ようやく一段落して漕ぎ着けたランチデート。
 その置き土産が「これ」だった。

 シンプルで広々とした自室のテーブルに、ぽつんと置かれた、それは直径十数センチほどの小さなテラコッタ鉢。
 そこに咲く・・、いや生る・・のは……
 学名 Pernettya mucronata。
 和名を「真珠の木」というだけあって、1センチ程度の濃桃色の球体が細い枝葉をにぎやかす、見ているだけで微笑ましい植物だ。
 南米高地に自生する常緑性低木で、水はけの良い酸性土壌で日当たりを確保すれば、比較的強くて育てやすいらしい。
 幹を持たない株立ちの樹形は剪定もしやすく、春は花を、秋冬は実を、鉢植えのままずっと楽しめそうだ。

 ただしそれは「枯らさなければ」の話――!
 
 鈴生りの小さな実の群れとにらめっこしながら、複雑な思いがため息になってさっきから幾度も零れる。

 限られた土の表面から控えめに伸びる細かな枝葉に見え隠れしながらひしめき合う小さな実は、死者の脳から取り出す記憶映像に潜む虚無感とは真逆の、瑞々しい生命力に溢れている。

​ 普段駆使する科学的な脳の働きとはまるで異質な部分くすぐるその健気な生命力が、「癒やし」という名の色彩を添え、知らず知らずのうちに薪の口元を微笑みで綻ばせる。
 
 同時に胸を痛ませ、気を重くもする。

 だって、これは愛しい男から与えられた大切な生命。

 もし枯らしたりしたら……と、考えるだけでゾッとする、いや考えたくもなくて、思わず頭を抱えてしまうのだ。
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