2067 薪誕ss 特捜と特別な夜の特権

 滑らかな唇、薄く繊細な舌、狭く甘く熱い薪の口内をくまなく味わいながら、青木は名残惜しく唇を離して姿勢を戻す。
 いくら自分の身体が薪を覆い隠しているとはいえ、25cm超の身長差でキスにのめり込むのは後ろ姿でもあまりに不自然だ。

「すみません、神聖な職場でこんなこと……」

 放心した目を見開いたまま、濡れた口元を拳で拭う薪を前に、我に返った青木は殴られる覚悟で歯を食いしばり目を瞑る。

 しかし鉄拳は飛んで来ず、また薄っすらと目を開けた。

「これだけで、いいのか?」

「は……はい?」

「お前の“食べたい”というのはこれで充分・・・・・だというのか?」

「え?……あ、いえ……」

 たまにこの人がわからなくなる。
 暴走を制止されると思いきや、いつのまにか先を越されて背中を追いかけている。
 しかし今日はこっちも止まらず追いかけっこだ。

 どこまでが食事? で、どこからがコンプライアンス違反なのか。

 青木が無言で薪の手を引いて行き、例のソファーにすとんと座らせる。
 何をしたいか、されたいかなんて、熱に潤んだ互いの表情で一目瞭然だ。

「……あっ……待っ……」

 この仮眠場所はプライベートな一角として、あえてカメラの死角になっている。

「よ……せっ……」

 力ない抵抗を振り切って下半身の着衣をずらしていくと、発情した匂いが湿らかに暴かれていき……それを隠蔽すべく“幹部部下”が顔を埋めるのは“組織トップ”の震える脚の間だ。
 チュク、ジュプ、と口唇が奏でる淫らな音と、シャットダウン中の装置音が、混じり合う筈のない空間に響きだす。
 背徳感さえ促進剤になって、着衣のままの二つの肉体は昂り感度もあがるばかりだ。

「……あ……おきっ……」

 後頭部を鷲掴みで引っ張られながら、口内で捉えた薪の淫らなカタチを夢中でなぞって味わう。
 舌に伝わる微細な反応も、絶え間なく押しだされる甘い喘ぎも、全部が可愛いくてたまらない。

「まきさん……いって……」

 一旦離れた口唇が囁く熱い息に、敏感な尖端を撫でつけられた薪が身震いした。

「……そ……ん、な……むり……だっ」

 無理なのは達することより、それを我慢する方だろう。
 抗う言葉とはうらはらに、また啜られれば、さらに増す感度におののきながら、迫りくる快感に押し迫られ上り詰めるだけだ。



「チュ……自分でするの……我慢してたんですか?」

「知るか!もういいから早く口ゆすいでこいっ」

 苦味のある濃厚な液を愛しく舐め取る青木を、恥ずかしさも手伝って乱暴に押し返す。と、余裕ない薪の涙目と、まだ足りない青木の雄の視線が鉢合わせて、互いに気まずく逸らし合う。

「すみません、今ゆすいで…」

「いや。待て」

 着衣を直していた薪の手が、離れようとする青木のシャツの背を掴んで、ソファーに引き戻した。

「お前の味も、僕が確かめてやろうか」

「あっ、俺は、ダメです。風呂入ったの二日前ですし……」

 唇の端を悪戯っぽく吊り上げて、膝の上に乗り上がる薪を、青木は仰け反りながら抱き止める。

「シャワーならここにもあるぞ」

 そ、そんな可愛らしい顔を火照らせ見つめたって……駄目だ。
 ここから先は、他に気を取られることなく、大切なメインディッシュを二人でとことん味わい尽くしたい。

「それは知ってますが、今日はあなたの誕生日なので……」

 向き直った青木が、膝の上の薪の両肩に手を置いて大真面目に顔を覗き込んでくる。

「よろしければ、プレゼントをお持ち帰りください」

「は?」

「あなたを気持ちよくするためなら、何だってしますので……ぜひ俺を存分に使っていただけたらと……!」

「……ぷっ」

 丸くした目をぱちくりさせてから、薪は思わず小さく噴き出す。
 相変わらずの丁稚体質め。その割に図々しいときてる。
 そして、苦笑まじりにズボンの上から触れていた超硬度なアオキを、胸ポケットのスマホに持ち替えた。

「仕方ない奴だな。タクシーが来るまでにソレを落ち着けておけよ」

 アプリを操作しながら言いつける薪の声がどことなく弾んで熱い。

 今夜、年の差がさらに開いたこの男が唯一無二の“誕生日プレゼント”に名乗りを上げたのには驚いた。

 こっちこそ、はじめからそれを期待して呼び出したのだ。
 特捜と、特別な夜のために。
 大きなヤマも片付いたし自分の貪欲さにも目を瞑って、今夜は思う存分特権を使い倒そうと、薪は心に決めたのだった。
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