2069薪誕 SCENT
“サプライズ、大成功でした。ご協力ありがとうございました!”
お礼とともに波多野から送られてきたのは薪の“きゅん顔”隠し撮りショットだ。
それを見た全管区室長は、思わず赤面して手を止め、釘付けになっただろう。
薪にそんな罪な顔をさせた張本人の大男ももちろん例外ではない。週明け初日の朝、恋人のマンションを後にしたのだが、管区に戻らずまだ近くにいる。しかも最終便の飛行機を逃してビジネスホテルを探そうと取り出したスマホに、件のメッセージが飛び込んだのだ。
「…………」
画面の中の愛しい人にしばし見惚れる。
この人の身も心も、前夜、いやその前の夜からずっと愛し、日付を跨いで真っ先に「おめでとう」と「あいしてる」を言葉と肌で伝えたのだ。こんな可愛い表情をみせられたら、そのときのアレコレが生々しく甦ってしまう。
今日は一日、刑事局に新しく配属された若手にMRI捜査の概要を教える研修の講師を務めた。
終了後はすぐに持ち場の管区へ戻るつもりだったのだが、盛り上がった刑事や捜査員たちと気づけば一緒に飲んでいて。
MRI捜査の潮流に興味を持ってもらうのは今後の連携に必要なことだし、こうして飲みに誘われるのも、無自覚な人たらしの青木にはよくあることだった。
こっちに留まるのなら当然薪のもとへ戻りたい。が、週末あれだけ付き合わせておいて、翌晩管区にも帰らず再びのこのこと出向く勇気もない。
平日の薪は、青木にとって恋人以前にに鬼上司なのだ。「何しに来た」と棘のある視線に突き刺され、下手をすれば蹴り出される可能性の方が高いだろう。
空港へのアクセスの良いビジネスホテルの予約を完了しようとしたスマホが、今度はバイブの振動とともに着信画面に変わる。
え、薪さん?
画面表示の文字にドキドキしながら、震える指で着信ボタンを押す。
『……はぁ……』
応答をタップした瞬間スマホから漏れた艶めかしい吐息に、青木はずり落としそうになった端末を持ち直して耳に押し付けた。
「青木です、どうしました?」
返事はすぐにかえらない。
乗り換えで降りたメトロのホームに立ち尽くす青木は、スマホから漏れてくる衣擦れと息遣いが外に零れていかないように大きな手で覆いながら、もう一度「薪さん?大丈夫ですか?」と呼ぶ。
何度電車が来て人波に押されようが、こういう時立ち止まって電話していられるのは頭一つ抜けた身長がなせる技だろう。
飛行機は最終便を逃しているが、こんな時間に薪が家にいるのも珍しい。てか、家からだよな?いや、家しか考えられない。衣擦れ、吐息…いや、喘ぎ?そしてクチクチと湿った粘膜の擦れるような音まで聞こえる気がするのはもはや、昨日までの淫らな生活でおかしくなった自分の錯覚だろうか?
『……ん、お前は何してるんだ』
「へっ?研修の帰りですが……」
俺のことはいいんです、あなたがどうしてるか死ぬ程知りたいんですが……とぼやく青木の脳内を、蕩かすような薪の声が吹き込まれる。
『これるか?』
「あ……はい!」
確定前のホテル宿泊予約画面を削除しながら、青木は返事した。
『……ふふ……』
媚薬みたいな薪の声が、蕩かされた青木の脳裏に響く。
『お前の香り、再現できたぞ』
通話を終えた青木は、乗り換えをやめたメトロにまた飛び乗っていた。
向かう先は薪のマンションだ。
こういう時の青木の嗅覚は凄い。
聴覚だけでかぎとった脳裏には、すでにハッキリと浮かんでいた。
ベッドの上。今朝脱いできた青木のパジャマにすっぽり裸身を包み、蜜を滴らせた股間や後ろを弄る薪の姿が。
通話の最後に薪を繋ぎ止める“オヤジ寄りの下ネタ” もすっかり板についている。
「薪さん、そのまま待っててくださいね」
『……うん……早くな』
「そこ、入れてくれますよね」
『……は、おまえ……認証通れるだろ』
「違います、あなたの中にです」
お礼とともに波多野から送られてきたのは薪の“きゅん顔”隠し撮りショットだ。
それを見た全管区室長は、思わず赤面して手を止め、釘付けになっただろう。
薪にそんな罪な顔をさせた張本人の大男ももちろん例外ではない。週明け初日の朝、恋人のマンションを後にしたのだが、管区に戻らずまだ近くにいる。しかも最終便の飛行機を逃してビジネスホテルを探そうと取り出したスマホに、件のメッセージが飛び込んだのだ。
「…………」
画面の中の愛しい人にしばし見惚れる。
この人の身も心も、前夜、いやその前の夜からずっと愛し、日付を跨いで真っ先に「おめでとう」と「あいしてる」を言葉と肌で伝えたのだ。こんな可愛い表情をみせられたら、そのときのアレコレが生々しく甦ってしまう。
今日は一日、刑事局に新しく配属された若手にMRI捜査の概要を教える研修の講師を務めた。
終了後はすぐに持ち場の管区へ戻るつもりだったのだが、盛り上がった刑事や捜査員たちと気づけば一緒に飲んでいて。
MRI捜査の潮流に興味を持ってもらうのは今後の連携に必要なことだし、こうして飲みに誘われるのも、無自覚な人たらしの青木にはよくあることだった。
こっちに留まるのなら当然薪のもとへ戻りたい。が、週末あれだけ付き合わせておいて、翌晩管区にも帰らず再びのこのこと出向く勇気もない。
平日の薪は、青木にとって恋人以前にに鬼上司なのだ。「何しに来た」と棘のある視線に突き刺され、下手をすれば蹴り出される可能性の方が高いだろう。
空港へのアクセスの良いビジネスホテルの予約を完了しようとしたスマホが、今度はバイブの振動とともに着信画面に変わる。
え、薪さん?
画面表示の文字にドキドキしながら、震える指で着信ボタンを押す。
『……はぁ……』
応答をタップした瞬間スマホから漏れた艶めかしい吐息に、青木はずり落としそうになった端末を持ち直して耳に押し付けた。
「青木です、どうしました?」
返事はすぐにかえらない。
乗り換えで降りたメトロのホームに立ち尽くす青木は、スマホから漏れてくる衣擦れと息遣いが外に零れていかないように大きな手で覆いながら、もう一度「薪さん?大丈夫ですか?」と呼ぶ。
何度電車が来て人波に押されようが、こういう時立ち止まって電話していられるのは頭一つ抜けた身長がなせる技だろう。
飛行機は最終便を逃しているが、こんな時間に薪が家にいるのも珍しい。てか、家からだよな?いや、家しか考えられない。衣擦れ、吐息…いや、喘ぎ?そしてクチクチと湿った粘膜の擦れるような音まで聞こえる気がするのはもはや、昨日までの淫らな生活でおかしくなった自分の錯覚だろうか?
『……ん、お前は何してるんだ』
「へっ?研修の帰りですが……」
俺のことはいいんです、あなたがどうしてるか死ぬ程知りたいんですが……とぼやく青木の脳内を、蕩かすような薪の声が吹き込まれる。
『これるか?』
「あ……はい!」
確定前のホテル宿泊予約画面を削除しながら、青木は返事した。
『……ふふ……』
媚薬みたいな薪の声が、蕩かされた青木の脳裏に響く。
『お前の香り、再現できたぞ』
通話を終えた青木は、乗り換えをやめたメトロにまた飛び乗っていた。
向かう先は薪のマンションだ。
こういう時の青木の嗅覚は凄い。
聴覚だけでかぎとった脳裏には、すでにハッキリと浮かんでいた。
ベッドの上。今朝脱いできた青木のパジャマにすっぽり裸身を包み、蜜を滴らせた股間や後ろを弄る薪の姿が。
通話の最後に薪を繋ぎ止める“オヤジ寄りの下ネタ” もすっかり板についている。
「薪さん、そのまま待っててくださいね」
『……うん……早くな』
「そこ、入れてくれますよね」
『……は、おまえ……認証通れるだろ』
「違います、あなたの中にです」