2069薪誕 SCENT
今日は日曜だ。日付が変われば自分の誕生日が来る。そうなれば真っ先に浴びるであろう青木からの祝福をつい先読みしてしまう薪は、夜が近づくにつれそわそわしはじめる。
青木が薪の部屋にいる週末は、買い物以外の外出はほとんどしない。
外に出なければ二人きりの時間が作れない九州での休日とは正反対に、ここはずっと二人きりで何をしても許される禁断の密室なのだ。
滞在の間、青木は存分に薪を愛する。情交はもちろんのこと、料理や洗濯、掃除など、有り余る愛情を家事にもせっせと費やすのだ。
そして、やがて来る明日は月曜だ。
乱れまくった一日のしめくくりに、充足と疲労が入り交じる身体をバスタブにゆっくり沈めた薪は、新品みたいにピカピカになった風呂場を見渡して口の端を緩めた。
「……あの薪さん、これ」
「何だ?プレゼントは要らないと言ったろ」
「いえ、そういうんじゃなくて。これだけお渡しできたらと……」
「??」
風呂上がりに渡された小さな厚手の紙袋の中を見ると、見覚えのあるトム・フォードのオードパルファムの箱がある。
薪はさらに顔をしかめた。
「これを僕にどうしろと?マーキングのつもりか?お前の香りを僕の身体に纏わせようとしても無理だぞ。個々の体の温度や匂いによって、同じ香りの再現は不可能……」
「あの、それはわかってます。ただ……同じものをあなたの傍に置いておきたい、というのと……薪さんがものすごく幸せそうに俺の匂いを嗅ぐのでつい……」
青木の声がどんどん小さくなる。付き合って二周目の誕生日の時だったか“贈り物は要らない”とベッドで言われた。部下が普段どれだけ忙しいかは、上司としてよくご存知だ。だからプレゼントは物じゃなく“お前の時間”が欲しいと伝えたのだ。
聞いたときは舞い上がった。
自分を真底から求めてくれる薪をこの上なく愛しく思う。
でもやはり、祝う方としては……大好きな人のために何かを手渡したい気持ちにも逆らえない。
「すみません、身勝手なプレゼントで」
「そうだな、後者としては全く役立たない。だが前者なら“小学生女子の心情”としてはアリだ」
そう。“同じものを持ってたい”という気持ちは、舞のお陰でふたりともよく知っていた。
ちょうどそんなお年頃の舞は、マキちゃんの今回の誕生日のプレゼントに“ペアの髪飾り”を一生懸命作った。
仕上げたものを青木に託そうとも考えたが、やっぱり今度来てくれた時に自分で渡したい、となってまだ温めてあるのだが―――
「いや、やはりナシだな。ペア願望もオジサン同士だとかなり気色悪い」
「……はい。すみません」
しょげている青木の前で、薪はターコイズブルーの箱を開ける。
気に入らないわけでも、気に入った様子でもなく……ただ好奇心に駆られたようにバスローブを肩から落として、左胸あたりにそれを吹き掛ける。
そして「せっかくだから試してみよう」と呟いたのだ。
青木が薪の部屋にいる週末は、買い物以外の外出はほとんどしない。
外に出なければ二人きりの時間が作れない九州での休日とは正反対に、ここはずっと二人きりで何をしても許される禁断の密室なのだ。
滞在の間、青木は存分に薪を愛する。情交はもちろんのこと、料理や洗濯、掃除など、有り余る愛情を家事にもせっせと費やすのだ。
そして、やがて来る明日は月曜だ。
乱れまくった一日のしめくくりに、充足と疲労が入り交じる身体をバスタブにゆっくり沈めた薪は、新品みたいにピカピカになった風呂場を見渡して口の端を緩めた。
「……あの薪さん、これ」
「何だ?プレゼントは要らないと言ったろ」
「いえ、そういうんじゃなくて。これだけお渡しできたらと……」
「??」
風呂上がりに渡された小さな厚手の紙袋の中を見ると、見覚えのあるトム・フォードのオードパルファムの箱がある。
薪はさらに顔をしかめた。
「これを僕にどうしろと?マーキングのつもりか?お前の香りを僕の身体に纏わせようとしても無理だぞ。個々の体の温度や匂いによって、同じ香りの再現は不可能……」
「あの、それはわかってます。ただ……同じものをあなたの傍に置いておきたい、というのと……薪さんがものすごく幸せそうに俺の匂いを嗅ぐのでつい……」
青木の声がどんどん小さくなる。付き合って二周目の誕生日の時だったか“贈り物は要らない”とベッドで言われた。部下が普段どれだけ忙しいかは、上司としてよくご存知だ。だからプレゼントは物じゃなく“お前の時間”が欲しいと伝えたのだ。
聞いたときは舞い上がった。
自分を真底から求めてくれる薪をこの上なく愛しく思う。
でもやはり、祝う方としては……大好きな人のために何かを手渡したい気持ちにも逆らえない。
「すみません、身勝手なプレゼントで」
「そうだな、後者としては全く役立たない。だが前者なら“小学生女子の心情”としてはアリだ」
そう。“同じものを持ってたい”という気持ちは、舞のお陰でふたりともよく知っていた。
ちょうどそんなお年頃の舞は、マキちゃんの今回の誕生日のプレゼントに“ペアの髪飾り”を一生懸命作った。
仕上げたものを青木に託そうとも考えたが、やっぱり今度来てくれた時に自分で渡したい、となってまだ温めてあるのだが―――
「いや、やはりナシだな。ペア願望もオジサン同士だとかなり気色悪い」
「……はい。すみません」
しょげている青木の前で、薪はターコイズブルーの箱を開ける。
気に入らないわけでも、気に入った様子でもなく……ただ好奇心に駆られたようにバスローブを肩から落として、左胸あたりにそれを吹き掛ける。
そして「せっかくだから試してみよう」と呟いたのだ。