2069薪誕 SCENT

 ふわふわと惚けた空気が漂うダイニングで、ブランチをしっかりめに摂る。
 好みの和風だし、炭水化物もタンパク質も、ちゃんと身体が欲していた。
 白菜と鶏むね肉の重ね蒸しを口内に含んだ薪は、柚子あんかけの香りとともにうっとりと舌の上で溶かす。根菜と蒟蒻お揚げだけの粕汁も、こっくりと五臓六腑にしみわたる美味だ。

「博多めんたいも解凍しましたのでどうぞ」

「……ん」

 滋味豊かなのは手料理だけじゃない。すでに半日以上も甘い肉弾戦を繰り広げたこの空間が、滋養分で満たされている。なにより一番美味そうに薪の目に映るのは、自分の向かい側でニコニコしながら同じ食事を頬張るこの男で―――


「どうしたんだ?」

「……えっ、ああ」

「顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないのか?」

「い、いえその……」

 気まずそうに横を向く青木の耳は真っ赤だ。

「薪さんの食べ方が……すごくセクシーで……俺、何だか変な気分になってきまして……」

「は??」

 呆れて目をぱちくりさせてる薪自身からだだ漏れる色香。青木が堪えられないのも無理はない。

「自覚がないようなのであえて言わせていただきますが、餡かけ顔負けのとろっとろな表情で、そんなにお可愛らしく唇を動かして。潤んだ上目遣いで俺をちら見するとか、反則でしょう?」

「…………」

 薪の返事はなく、目の前の食事を黙々と片付ける二人。
 その後、一言も交わさないままどちらからともなく手を伸ばし、ダイニングを離れて抱き合いソファーに縺れ込む。デザート代わりのイチャイチャなんて、どれだけ自堕落を極めた休日なんだろう。

「……まきさん……しわ……よってますよ」

 青木の唇が薪の眉間を優しいリップ音でなぞる。

「気にせずやりたいことやりましょう。たまに会えたときくらい……」
「っ……」
 肌を這う青木のキスにうっとり身を任せるのが今まさに“やりたいこと”だと見透かした発言に、カッと顔が火照る。

「まあいつも、俺の我儘を押しつけてばかりなんですけど……」

 力なく抗う薪の四肢を押さえつけてくる体重も、露わになる肌のいたるところを撫で回すキスも、腹立たしいほど気持ち良くて。
 溺れていく。
 “たまに”の間隔だって、舞や青木の誕生日、Xクリスマスや年末年始など何かと行き来が増える冬場はかなり短い。だからこうやって馴らされてしまうのだ。互いの家でともに暮らす休日の心地好さに―――
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