2069薪誕 SCENT

 愛欲に任せて散々絡み合った直後のベッドで。どうやらこの男のエロスは、めくるめく性愛と純粋無垢なプラトニックの間を容易く行き来できるらしい。

「……あの、薪さん、」

「……ん、」

「先程はありがとうございます」

「……それはいつの“先程”だ?」

 朦朧とした頭で受け止めるマトモな会話。
 快楽の極みにさんざん追い詰め、果てた後も体内でまだアツく拍動する杭を引き抜きながら、青木は大真面目に「昨日夕方のニューロン修復の件」を語りだす。
 あの状況でどうして自分たちでやり切れると考えたのか、振り返るとゾッとする。画を見れるようになるのがあと一時間遅ければ、犯人はこの世にいなかったかもしれないのに、そこまで考えが及ばなかった……と猛反省しているのだ。
 頬は紅潮し肉体もまだ性的興奮の余韻を残しているくせに、勝手に切り替えた頭を抱えて仕事の話を始めるなんて、興ざめもいいところだ。が、薪も青木にはとことん甘い。

「お前の愛する者への鋭い嗅覚が、僅かでも犯人に向けば解かると思うぞ」

「……はあ」

「匂わなかったか?」

「え?」

「まあいい。向こう側・・・・は、僕の領域だ」

「…………」

 薪の言葉に青木の胸の奥が焦げる。
 “愛する者への鋭い嗅覚”とか“僕の領域”とか。
人を遠ざけておいて、あくまで薪にとって向こう側は愛惜しい場所なのだ。
 口元に拳をあてブツブツ呟く薪の横顔を、青木はじっと見る。

「今回の手口からは犯人の自暴自棄ぶりが至る所に見えていた。トラブルの相手を証拠もろとも消そうと次々と手に掛けたものの、多少の破損じゃ隠滅できない技術を我々が持つことを知る。そうなれば次に消そうとするのは自分自身だと……」

「もういいです。よくわかりました」

 不意に青木に強く抱かれて、薪は息を呑む。

「ちょっと俺……ムラムラきたので、もう一度あなたを逝かせていいですか?」

「は?煽った覚えは少しも……」

「負担は掛けません。ただ素直に感じて戴ければいいので……チュ……」

「あ……ま…てっ………はぁ……っ」

 腕の中に閉じ込めた薪の身体を這い回る、青木の手指と口唇。感じ易い場所を巧妙に狙う熱い愛撫に芯まで溶かされて、さっきの交合いの余韻もさめやらぬ身体は、もう何分も持ちそうにない。

 何が青木のスイッチになったのか。
どうしてそんなに嫉妬にかられた顔で、愛しげに肌をむさぼってくるのか。
 わからないまま快楽に流され、またぐちゃぐちゃに堕ちていく。
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