2069 青誕 RING
夕食におでんをつまんだ青木がそそくさと自室に向かうと、壁に貼られた新しい画用紙に描かれた絵を眺める薪の横顔が目に飛び込む。
「この絵は?」
「ああ、これは舞からの誕生日プレゼントです。今朝一番に貰ったんですよ」
平日は仕事がいつ終わるかわからない青木に、確実に渡せるのは朝しかない、と舞なりに考えたのだろう。
絵の中には笑顔の青木と薪がいて、気になるのはその二人のいでたち だ。どう見てもこれは―――
「なんだか、描くたびに腕を上げてますよね」
「ああ、丁寧に特徴を捉えてよく描けているな。ただこの衣装は……」
青木はギクリとして、反射的に頭を下げる。
「す、すみません勝手にこんな……でも舞は最近これ ばっかり描いていてですね……」
白タキシードに白蝶ネクタイ姿の二人。
舞が想像で描いた絵だが、薪は綺麗なブーケを持っていて、まるで結婚式みたいに見える。
生みの両親の結婚式の写真を、舞がお嫁に行くとき青木が持たせようとしていることは、薪も知っている。でも、育ての両親のポートレートを作って一緒に持って行こうという企みまでは、青木は薪には知らせていなかった。舞の描く絵に便乗して自分の願望を薪に突きつけているようで、照れ臭くなんとも心苦しかったのだ。
「さてと、白石からのデータ……あれ?」
顔を紅潮させたままデスクのPCを立ち上げ、メールやデータを確認しはじめた青木は、ポカンと口を開けた驚きの表情で、薪に振り返る―――
「し、仕事が全部終わってる。てかこれ、もしやあなたが……」
「うん、他に誰がいるというんだ?」
二時間そこそこで、ここまで進んでるとは。
青木になりすまして関係各所にコワいメールまで送りつけて、次の動きまで全部指示してるし……その間、母と夕食も摂りながらの薪の手際と采配に、青木は今さらながら舌を巻く。
「これで事態が急変しない限り、しばらく寝て待てる状態だろ。早く風呂でも入ってこい」
「いえ、風呂はいいです」
「はあ?」
「だって薪さん。これって……」
焦れったげに青木を見上げる薪の頬を両手で包んで、青木は真顔で問いかける。
「あなたから俺への“誕生日プレゼント”ってことですよね?」
鈍感な青木もようやく気づいたようだ。
薪が突然福岡に来て、色々助けてくれた上に今この部屋にいてくれる理由に。すぐに気づいた舞は気を利かせておバアちゃんと一緒に寝る支度をしている。これはつまり、アレだ。
「これ、とは?」
「“二人で過ごす時間”です」
だとすれば風呂に入る時間なんて勿体ないです、と薪の耳元で青木が熱っぽい息を吐く。
「あなたはお風呂を済ませたんだし、もう離れる必要なくないですか?」
仄かなソープのまじった薪のうなじに鼻を埋めて思い切り良い匂い吸い込みながら、青木は薪を両腕で掻き抱き首筋に唇を押しつける。
釣られるように薪の肩がぴくりと震え、青木の頚に腕を回して自分の身体を密着させた。
互いの着衣を解きあい、青木の体温と風呂上がりの薪の肌が程よい熱を伝え合う。
速まる鼓動と呼吸にせかされた唇が溶けるように互いを味わい始めれば、もうストッパーなどどこにもない。
青木の両手が薪の背中を撫で降りて、ズボンに滑り込む。右手は下着の中の臀裂をなぞり蕾を探り当てて内側の熱を指先でそっと侵す。が、左手は薪に掴まれ引っ張り出されて、その薬指に、体温と同化した金属の感触がぴたりと収まった。
「この絵は?」
「ああ、これは舞からの誕生日プレゼントです。今朝一番に貰ったんですよ」
平日は仕事がいつ終わるかわからない青木に、確実に渡せるのは朝しかない、と舞なりに考えたのだろう。
絵の中には笑顔の青木と薪がいて、気になるのはその二人の
「なんだか、描くたびに腕を上げてますよね」
「ああ、丁寧に特徴を捉えてよく描けているな。ただこの衣装は……」
青木はギクリとして、反射的に頭を下げる。
「す、すみません勝手にこんな……でも舞は最近
白タキシードに白蝶ネクタイ姿の二人。
舞が想像で描いた絵だが、薪は綺麗なブーケを持っていて、まるで結婚式みたいに見える。
生みの両親の結婚式の写真を、舞がお嫁に行くとき青木が持たせようとしていることは、薪も知っている。でも、育ての両親のポートレートを作って一緒に持って行こうという企みまでは、青木は薪には知らせていなかった。舞の描く絵に便乗して自分の願望を薪に突きつけているようで、照れ臭くなんとも心苦しかったのだ。
「さてと、白石からのデータ……あれ?」
顔を紅潮させたままデスクのPCを立ち上げ、メールやデータを確認しはじめた青木は、ポカンと口を開けた驚きの表情で、薪に振り返る―――
「し、仕事が全部終わってる。てかこれ、もしやあなたが……」
「うん、他に誰がいるというんだ?」
二時間そこそこで、ここまで進んでるとは。
青木になりすまして関係各所にコワいメールまで送りつけて、次の動きまで全部指示してるし……その間、母と夕食も摂りながらの薪の手際と采配に、青木は今さらながら舌を巻く。
「これで事態が急変しない限り、しばらく寝て待てる状態だろ。早く風呂でも入ってこい」
「いえ、風呂はいいです」
「はあ?」
「だって薪さん。これって……」
焦れったげに青木を見上げる薪の頬を両手で包んで、青木は真顔で問いかける。
「あなたから俺への“誕生日プレゼント”ってことですよね?」
鈍感な青木もようやく気づいたようだ。
薪が突然福岡に来て、色々助けてくれた上に今この部屋にいてくれる理由に。すぐに気づいた舞は気を利かせておバアちゃんと一緒に寝る支度をしている。これはつまり、アレだ。
「これ、とは?」
「“二人で過ごす時間”です」
だとすれば風呂に入る時間なんて勿体ないです、と薪の耳元で青木が熱っぽい息を吐く。
「あなたはお風呂を済ませたんだし、もう離れる必要なくないですか?」
仄かなソープのまじった薪のうなじに鼻を埋めて思い切り良い匂い吸い込みながら、青木は薪を両腕で掻き抱き首筋に唇を押しつける。
釣られるように薪の肩がぴくりと震え、青木の頚に腕を回して自分の身体を密着させた。
互いの着衣を解きあい、青木の体温と風呂上がりの薪の肌が程よい熱を伝え合う。
速まる鼓動と呼吸にせかされた唇が溶けるように互いを味わい始めれば、もうストッパーなどどこにもない。
青木の両手が薪の背中を撫で降りて、ズボンに滑り込む。右手は下着の中の臀裂をなぞり蕾を探り当てて内側の熱を指先でそっと侵す。が、左手は薪に掴まれ引っ張り出されて、その薬指に、体温と同化した金属の感触がぴたりと収まった。