2069 青誕 RING

 県警の方も、証拠となる画があれば動きは早かった。

 取り調べがスムーズに再開したのを見届けた青木は、近くのパティスリーで焼菓子の詰め合わせを買って、タクシーを拾う。
 自分はどうしたって“ママ友”にはなれない立場。だから都度お礼して、なぁなぁにしないのが鉄則なのだ。

「本当にありがとうございました!」

 大きな身体をぺこぺこと折り曲げてお友だち一家を恐縮させながら、ゴキゲンな舞を引き取った帰り道。

「かりんちゃん家のハンバーグ、ハート型ですごく美味しいの。あと飲み物はオレンジジュース!舞がいるからトクベツなんだって」

「そっか、それはよかったね」

 タクシーの中、舞と優しくやりとりしながら、青木がちらりと腕時計を見る。
ついでにその左手の薬指に光るもの・・・・・・・・・・を外して、定位置の皮財布のポケットへそっと仕舞った。



「おかえり」

「たっ、ただいま帰りました」

 ジェラピケを全身にまとった風呂上がりの薪に出迎えられて、あまりのお可愛らしさに直立不動でお辞儀する青木。何なら、かりんちゃん家でのお辞儀より角度が大きいかもしれない。

「あれぇ?マキちゃん!」

 舞は顔を輝かせた後「あ、そっか」と一人で呟き、青木を見上げて、また薪に視線を戻す。

「うふふ……コーちゃん、よかったね」

「ん?」

薪の頬に赤みが差し、青木は首を傾げる。
つまり青木だけが状況を理解できていない、自分のこと・・・・・なのに。

「コーちゃん、おやすみっ!今日は舞、お風呂も音読のしゅくだいもオバァちゃんとするからっ!」

 洗面所で一緒に手洗いうがいをする青木の袖をくいくいと引いて耳打ちをした舞は、ニッコリ笑って、おばあちゃんがくつろぐ居間へと張り切ってかけていく。

 いつもならマキちゃんが居ようものなら寝るまでべったりなのに、どうしたというのだろう?
 青木は不思議そうに、また首を傾げた。
4/9ページ
スキ