2069 青誕 RING

「オカモトさん」

 時計は15時5分前の福岡県警科捜研。
午後の休憩を取ろうとしていた岡本研究員主任に、背後から声が掛かる。彼は今日も朝から鑑定に忙しく、昼食もそこそこに分析のきりがつくまで頑張った矢先のことだ。

「その甘いモルティ香はアッサムですね、素敵なティータイムをお過ごしで。ということは……例の急ぎの頼み事への対応は完了してるんですね、いや仕事がお早い」

 聞き慣れない声に岡本が振り向くと、性別不明の、未成年にも見える美人がニッコリ微笑み佇んでいる。

「な、何のことでしょう?」

 今年38歳の研究主任は、目の前の美人が自分より結構年上だなんて夢にも思わず、ただ圧に押されて椅子ごと後ずさる。

「あなたがいつも“第九の青二才”と呼んでる男から、何か聞いていませんか?」

あっ、と短い声を零し、岡本は少し決まり悪そうな顔をした。

「ええ、それは……夕方の便で対象物を第九に届ける手配が済んでます」

「夜?」

「……はい、青木室長はお子さんの世話で一旦離れられるようなんで。定期便でちょうど夜までには届くかと」

「ふぅん……」

 緊急依頼の対応が定期便とは青木もなめられたものだ、と薪は小さくため息をつく。

「おかしいな。その室長が、どこにいようと部下にMRIの画を送らせて捜査を進めるつもりなのを、あなたはご存じない?それとも青木が伝えていないのか……」

「…………」

「まあどちらでもいいです。今から運搬手配をしましょう」

「……はあ」

「何もあなたに飛脚をしろと言ってる訳じゃない。連絡一本さえすれば、紅茶が冷める前に依頼も片付きますよ、ね」


 何だか面倒臭〜い香りをプンプン感じた岡本は、顔を引きつらせながらすぐに搬送の手配をかけた。



 さて、と。

 気を取り直して。

 例の美人が立ち去った後で、岡本はお気に入りの紅茶を解放感とともに味わう。

 そこへ血相変えた科捜研所長が部屋に入ってきた。

「おいっ、さっきここへ科警研所長がみえてなかったか?」

「へっ?」

知らぬが仏の岡本は澄まして答えた。

「さあ?なんか第九の新入りは来てましたけどね。可愛い顔して態度はデカイ……」
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