2066 青誕 大人の階段

職務に没頭しているうち、あっという間に夜になっていた。
日付けが変わるまで、もうすでにあと一時間を切っている。

誕生日を目前に控えた大男は、ホテルの部屋に一人きり、ガックリと項垂れていた。
ダブルを二つ並べたベッドの端に座り、孤独を噛み締めながら。


捜査の方は随分と進展した。

他管区での経験やノウハウをもつフレッシュな戦力の投入は、第三管区の今までの試行錯誤とうまく噛み合い、長い迷宮に疲れきっていた面々には、ようやく見えてきた出口への道筋に、久々の笑顔が戻った。

だが、あのまま姿を消した薪が、その輪に入ってくることはなくて。
プライベートはさておき、せめて職場で同じ空気を吸いたかったのに、それすらも叶わないなんて寂し過ぎる。


ハァ、東京って、こんなに寒かったっけ。

風呂で温まり、分厚いローブを羽織って暖房をきかせているのに、こんな日の肌寒さは半端ない。

呼ばれた瞬間から滾らせていた情も欲も、すっかり行き場を失くした。
薪の肌に優しいオーガニックな潤滑剤や、自分の装着具だって、スーツケースの中に潜ませたまま活躍の見込みはない。

いっそ今日がいつもどおりの福岡での一日だったなら、薪に会えなかったとしてもそれはそれでやり過ごせたのに、呼んでおいてこれはない。


♪♪~


どこかで呼び鈴が鳴っている。

どうせ空耳か、隣室の客だろう。

いや待て、そんなはずない。そういえば隣室に音が漏れないように広い角部屋を選んだんだった。

♪♪~、♪♪~

やはり、鳴っているのは間違いなくこの部屋だ。
ルームサービスが部屋を間違えて届いたのか、もしくは真冬の怪奇現象か?

♪♪~、♪♪~、♪♪~

苛ついたように何度も呼ぶベルに、青木はしかたなく重い腰をあげる。
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