2067 薪誕 天使の企み

ここはどこだ?

浮かび上がる意識につられて開く目蓋。
薄暗さに徐々に慣れていく薪の視界が、見慣れない天井を捉える。

肩先辺りからすやすやと聴こえる寝息に視線を移すと、ちょうどこっちに寝返りをうった舞の寝顔が目に入る。
その向こうの大きな影は青木のシルエットだ。
つまり薪、舞、青木が川の字に横たわっている。
これは夢ではない。

“舞の望みなら叶えるしかないだろ、寝るぞ”

さっきの風呂上がり、腹をくくった薪がさっさとベッドに川の字に横たわって目を閉じた現実の続きなのだ。

寝具の中で共有する三人の体熱と、照れ混じりのいろんな感情が火照らす薪の内側の熱が、これ以上もなく快い適温をつくりだしている。


「………ん~……おトイレ……」

「ん。行こう、まい」

小さな舞の声にいち早く手を差しのべたのは薪だった。

寝ぼけ眼のふたりは手をつないでトイレに歩いていき、しばらくして手洗いを済ませ静かにベッドに戻ってくる。

「ムニャ……薪しゃん……」
戻ったベッドでは、青木が右手を二人のいない空間を手探りするように腕を大きく伸ばした格好で寝がえりをうっていた。

「マキちゃん、こっち寝て」

「まい、どうした?」

寝ぼけ眼の舞は、有無を言わさず薪を自分とコーちゃんの間に挟んで身を寄せてくる。
するとセンサーでも作動したかのように、青木の腕が舞と薪をまとめてギュウっと抱きしめてきて……
寝ぼけた舞の差し金とはいえ、あまりに仲睦まじい三人の寝相に照れが爆発しそうになるが、それより先に舞の素朴な呟きがそれさえ一気に吹き飛ばす。

「あれ?コーちゃんもマキちゃんのせっけん使ったんだぁ」

「………!!」

薪はギクリとして舞の顔を見るが、目を閉じた舞はもう幸せそうに夢のなかだ。

「マキちゃん、しあわせ?」

「……うん、幸せだよ」

「よかった……まいも、コーちゃんもだよ」

さぁ?コーちゃんはどうだかな、と微笑んだ薪は首を傾げる。が、舞には三人がおんなじくらいに幸せなことは、訊かなくてもわかってるのだ。

おトイレに行くときつないだマキちゃんの手がすこしひんやりしてたから、コーちゃんと舞で温めた。
そしたらマキちゃんもあったかくなって、今は三人おなじ温度の幸せに埋もれてると信じてる。

ここちよく巻き込まれるように、薪もまた目を閉じる。
翌朝のアップルパイも小さな一切れくらいなら軽くいけそうだ。ぺろりと平らげてみせて青木を驚かせてやろうともくろみながら。
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