2067 薪誕 天使の企み
青木の張ったこの湯量の少なさには、何の意図があるのだろう?
バスタブの半分あたりまで張られた湯に指先を滑らす薪の後ろで、おもむろにドアが開く。
「おい、いくら男同士だからって声くらい掛けろ」
裸の薪が振り向くと、たちこめた湯気の中で半裸の青木が何かを手に持って立ってるのが見える。
「どうしてお前までそんな格好……」
眉をひそめながら手元に目を凝らすと、綺麗な水色の花束のようだ。って、なんでこんなところに花束を?
「どうぞ、舞からです。このまま湯船にどうぞ」
渡された花束はよく見ると造花だった。
いや、この甘い香りは……石鹸?
言われた通りにそれを手にしたままバスタブに浸かると、胸あたりの湯のうえに、はらはらと花びらが散って浮いて、ゆっくりとけていく。
「少し泡立てますね」
声と同時にバスタブ内が急に狭くなり、張った湯の嵩が増す。
勝手に一緒に入ってきた大男のせいだ。
「おい!何でお前まで入ってるんだ!?」
睨みつける薪の視線をものともせず、その男はカランを捻りシャワーの水圧と温度を調節しながら「あなたの入浴のお手伝いです」と屈託なく笑いかけてくる。
「これも舞のアイディアなのか?」
「ええ、花びらソープは年明けから考えてまして。いくつか候補を購入して、自宅でも試してみたんですよ」
カランから出るお湯に撹拌されたソープの泡が、バスタブをいい香りとともに包む。
「はぁ……」
心地よさと半ば呆れた気持ちがため息になって薪の唇から零れた。
「お前も色々とご苦労なことだな」
「いえ、舞と二人であれこれ考えるの、結構楽しかったですよ。この部屋もバスタイム重視で選びましたし」
「で?お前が一緒に入ってるのは?これも舞が考えたことなのか?」
「いえさすがにこれは……俺自身の判断です」
メガネのない青木が赤くなって答えるから、薪も気恥ずかしくなり横を向く。
「まずいだろ、舞がいるのにこんな……」
「いいえ、子どもにヘンに遠慮してたら、世の中に弟や妹が生まれてきやしませんよ」
背中から回る両腕が引き寄せた薪の身体をソープの泡で撫でつける。
「……っ……」
こういう意外性にやられるのだ。
業務遂行は危なっかしいくせに、妙なところで落ち着き払って人の領域にどんどん踏み込んでくるのだから―――
「……止せ……っ」
青木の大きな手は薪の肌を洗うにはとても都合よく、愛撫も兼ねられる一石二鳥ものだ。
「……は……ぁっ……」
堪え性のない男の唇が、白いうなじに貼り付いた髪を掻き分けてなぞる。
お前の若さには敵わないと言われるだろうが、薪の肌の極め細やかさは別次元の極上品だ。誰にも渡したくないし、知られたくもない。密かに心焦がした青木の鼻先がその首筋に埋もれて、ソープに上塗りされる前のいい香りをすんと吸い込んだ。
「っ……僕にこんなことしても何も生み出さないんだぞ」
「そうでしょうか?」
「…………?」
怪訝な顔で振り向く薪の身体を、青木の両手が湯のなかで抱き上げて向き合わせる。
「あなたは生み出してますよ。俺や舞の中に数えきれない幸せを……」
「あ……っ……」
股間に滑り込み、まさぐる手の動きにつられて、バスタブの中の薪の腰がびくびくと浮く。
もう二人とも思考より本能が先走りはじめていた。
泡のまとわりつく肌に腕を回し合い、唇や頬、額や顎、耳元や鼻、首筋や肩……いろんなところを手や舌や指でなぞり、刺激し合って。
「…………っ、はぁ…………ダメ、だっ……」
興奮を露わにした身体を開く薪の耳元で、青木が「大丈夫ですよ」となだめながら愛撫をつづける。
「週末もお忙しいあなたには、今日は俺、何もしませんから」
何もしない?
嘘、つけ。
感じる場所を丁寧に貪られる甘さに、薪は身体の奥を震わせ肌を粟立たせる。
「日曜は向こうで俺も勤務します」
「ばか、お前はいい……っ」
ふわふわと途切れた意識の頭を横に振りながら、薪は青木の腕に崩れて、とろけるように散らされた。
バスタブの半分あたりまで張られた湯に指先を滑らす薪の後ろで、おもむろにドアが開く。
「おい、いくら男同士だからって声くらい掛けろ」
裸の薪が振り向くと、たちこめた湯気の中で半裸の青木が何かを手に持って立ってるのが見える。
「どうしてお前までそんな格好……」
眉をひそめながら手元に目を凝らすと、綺麗な水色の花束のようだ。って、なんでこんなところに花束を?
「どうぞ、舞からです。このまま湯船にどうぞ」
渡された花束はよく見ると造花だった。
いや、この甘い香りは……石鹸?
言われた通りにそれを手にしたままバスタブに浸かると、胸あたりの湯のうえに、はらはらと花びらが散って浮いて、ゆっくりとけていく。
「少し泡立てますね」
声と同時にバスタブ内が急に狭くなり、張った湯の嵩が増す。
勝手に一緒に入ってきた大男のせいだ。
「おい!何でお前まで入ってるんだ!?」
睨みつける薪の視線をものともせず、その男はカランを捻りシャワーの水圧と温度を調節しながら「あなたの入浴のお手伝いです」と屈託なく笑いかけてくる。
「これも舞のアイディアなのか?」
「ええ、花びらソープは年明けから考えてまして。いくつか候補を購入して、自宅でも試してみたんですよ」
カランから出るお湯に撹拌されたソープの泡が、バスタブをいい香りとともに包む。
「はぁ……」
心地よさと半ば呆れた気持ちがため息になって薪の唇から零れた。
「お前も色々とご苦労なことだな」
「いえ、舞と二人であれこれ考えるの、結構楽しかったですよ。この部屋もバスタイム重視で選びましたし」
「で?お前が一緒に入ってるのは?これも舞が考えたことなのか?」
「いえさすがにこれは……俺自身の判断です」
メガネのない青木が赤くなって答えるから、薪も気恥ずかしくなり横を向く。
「まずいだろ、舞がいるのにこんな……」
「いいえ、子どもにヘンに遠慮してたら、世の中に弟や妹が生まれてきやしませんよ」
背中から回る両腕が引き寄せた薪の身体をソープの泡で撫でつける。
「……っ……」
こういう意外性にやられるのだ。
業務遂行は危なっかしいくせに、妙なところで落ち着き払って人の領域にどんどん踏み込んでくるのだから―――
「……止せ……っ」
青木の大きな手は薪の肌を洗うにはとても都合よく、愛撫も兼ねられる一石二鳥ものだ。
「……は……ぁっ……」
堪え性のない男の唇が、白いうなじに貼り付いた髪を掻き分けてなぞる。
お前の若さには敵わないと言われるだろうが、薪の肌の極め細やかさは別次元の極上品だ。誰にも渡したくないし、知られたくもない。密かに心焦がした青木の鼻先がその首筋に埋もれて、ソープに上塗りされる前のいい香りをすんと吸い込んだ。
「っ……僕にこんなことしても何も生み出さないんだぞ」
「そうでしょうか?」
「…………?」
怪訝な顔で振り向く薪の身体を、青木の両手が湯のなかで抱き上げて向き合わせる。
「あなたは生み出してますよ。俺や舞の中に数えきれない幸せを……」
「あ……っ……」
股間に滑り込み、まさぐる手の動きにつられて、バスタブの中の薪の腰がびくびくと浮く。
もう二人とも思考より本能が先走りはじめていた。
泡のまとわりつく肌に腕を回し合い、唇や頬、額や顎、耳元や鼻、首筋や肩……いろんなところを手や舌や指でなぞり、刺激し合って。
「…………っ、はぁ…………ダメ、だっ……」
興奮を露わにした身体を開く薪の耳元で、青木が「大丈夫ですよ」となだめながら愛撫をつづける。
「週末もお忙しいあなたには、今日は俺、何もしませんから」
何もしない?
嘘、つけ。
感じる場所を丁寧に貪られる甘さに、薪は身体の奥を震わせ肌を粟立たせる。
「日曜は向こうで俺も勤務します」
「ばか、お前はいい……っ」
ふわふわと途切れた意識の頭を横に振りながら、薪は青木の腕に崩れて、とろけるように散らされた。