2067 薪誕 天使の企み

「マキちゃん、お誕生日おめでとう~!!」

バルーンや花で “happy birthday” と飾られた部屋をバックに、PCの画面を陣取るのは1本のろうそくが立ったアップルパイ。

単純明快なサプライズだ。
舞はコーちゃんがスケジューリングしたWeb会議で、薪所長の誕生日を祝うことに成功したのだ。

「マキちゃん、ロウソク消してぇ」

♪ハッピ バースデー トゥ ユー♪
ふぞろいなのに快く胸に沁みる叔父&姪のハーモニーのラストで、舞がリクエストする。

「え、ああ……」

所長室の椅子に腰掛けた薪が、めったに見せない甘い顔で、画面に息を吹きかけると―――
画面のむこうで舞が嬉しそうに、代理でろうそくの灯を吹き消した。

“マキちゃんはことし1本。こないだコーちゃんは9本だったね”
おめでとう!と笑う舞。
青木家のろうそくの法則は、下一桁の数をケーキにたてるらしい。
下一桁が0の年だけは、二桁目の数を。
つまり来年の青木の誕生日のろうそくは30になるから3本ということになる。

なんだアイツ。こっちに来るとかいって、舞と一緒にいたのか。つまり福岡に?その辺は謎のままだが、画面の向こうのほんわかした笑顔に絆されて、パーティーが終わった後も心がくすぐったいままだ。
10分にも満たない時間だったのに、天使といたひとときの影響力は絶大。まるで背に翼でもついたように、部屋を出る自分の足取りがふわふわしてるように感じる。

“仕事が済んだら連絡くださいね。何時になっても待ってます。日付が変わっても”

ログアウトの直前、青木にも念を押された。

今からこっちに来るとでもいうのだろうか?

何にせよ舞の前で青木に冷たく当たることもできずに、申し出を受け入れた。
もう十分満たされている僕に、あいつはこれ以上何を与えようというのだろう?と不思議がりながら。
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