2066 青誕 大人の階段

青木が上司に呼ばれて東京に出張したのは、12月の誕生日前夜のことだ。

その美しい人と肉体的な一線を越えてから、これで四度目の上京。
過去は三度ともすべて、真夜中までには行きつくところまで行きついた。

噛み合わない言葉とはうらはらに、抱き合う肌は熱く溶け合って。
まるで次に逢う約束みたいに、離れていてもずっと余韻を残したまま今に至ってる。


「こんにちは――!」

こないだ新調したばかりのダークスーツに身を固め、青木が姿を表した午後イチの第三管区。

開いたドアから辺り一帯に響く威勢のいい挨拶に、薪もすぐさま顔を上げた。

そして青木と視線を合わせた瞳を無言で見開いたまま、作業中のノートPCをパタンと閉じて立ち上がる。

「……あ、薪さん。えっ、どこ行かれるんです?」

所長席を離れ、別のドアから立ち去ろうとする背中を、青木が慌てて追いかける。

「あの、俺今夜こっちに泊まる予定なので」

「…………」

無言の薪は声のトーンを落として訴える必死の小声を、振り払うようにそっぽを向く。

「で、その、二名で部屋を、っ……!」

急にネクタイを引っ張られてつんのめった大男は、言葉を失った。

「イテテ……」

前屈みの青木の耳元に、薪が刺々しい口調で囁く。

「応援要請されて来たのに、何も手をつけないうちから卑猥な夜のお話しか?余裕だな、第八管区室長様は」

「……す、すみません。すぐ捜査に入ります!」

薪の手を離れたネクタイを直しながら青木は姿勢を正し、くたびれたメンバーが重い空気のなかで働くモニター室へと向かった。


“俺としたことが、軽率だった。薪さんの仰る通りじゃないか”

緊急招集を受け、自分の管区を部下に任せて駆けつけた身なのに、任務をさしおいて真っ先に薪さんのお尻を追っかけるなんて。
いや、でも、お尻だけ狙ってた訳でもないし……ん?そういや卑猥、って何で?そういう意味合いもなくはないけど、宿泊の話をしただけで、なんでそこまで言われないといけないんだ??
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