☆2065←→2064 手紙。

抱き合いながらベッドに倒れ、乱れた着衣の隙間で互いの肌を擦り合わせる。

実体のない二人が出会うこの場所がどこなのかハッキリわからない。
陽光の射す大きな窓の明るい部屋は、薪のアパルトマンなのか、もしくはいつか居たことのある懐かしい場所にも似ていた。

「あ……っ」

露わになった薪の胸元に見惚れながら口唇でなぞって包むと、びくんと粟立つ感触が舌先に伝わって。青木はこみ上げる情動に任せて薪のシャツを剥ぎ取る。
白いなだらかな胸を控えめに飾る薄桃色の突起は、シャワーで洗った時とはまるでちがう艶めかしい熱に震えて、触れる青木の情慾を煽った。

「っ……止せっ!それはダメだ」

腰を撫で下ろす手が勢いよくズボンをずらして落とすと、蒼ざめた薪が身を捩らせて抵抗する。

「どうしてです?さっき後腐れなくって仰ったのは、ここでしたこと全部忘れてしまうからってことですよね?」

「え、忘れる!?」

既に真っ裸の青木は、同性で交わる知識もないくせに、やる気満々だ。

「ええ、ほんのしばらく覚えているだけで、すぐに薄れてしまう。一晩で消えてしまうような儚い記憶だからこそ、あなたは今、しがらみを気にされないのかと……」

「そうなのか……」

薪は青木の身体を押しのけてベッドに座り、腕を組んで考え込む。
自分の記憶は全く消えも薄れもしていない。が、青木は違うようだ。
つまり未来あおき過去ぼくの記憶の上書きはできても、過去ぼくには未来あおきの記憶を上書きできないということか。
考えてみれば、過去が未来を変えるのは時の流れに準じた現象だから、自然に更新され続ける。対して未来から過去に爪痕をのこすなんて本来できない分、つけた痕は上書きもされないのだ、多分。

「……どうしました?」

「青木。お前はたまにいい事を言う」

「へっ??」

ベッドで正座待機していた青木は、悪戯を思いついた子どもみたいな顔をしてにじり寄る薪にギクリと身構えて後ずさる。

「あいにく僕の思念は、身体から離れていた時の記憶は消えないんだが」

「ええっ?そうなんですか?」

「お前は、後腐れなく忘れられるんだな?」

「えっ、ちょっ、まきさ……」

青木の股間に薪の手が伸びる。

「ちょ、っ待っ……!」

伸びた手が猛る性器を掴んで、青木の脚の間に薪の顔が埋められる。

「ぅあ……っ……駄目、です。俺が忘れても、あなたが覚えてるなら、こんなことは……」

「ん……チュプ……」

「……うっ……」

困惑を遥かに凌駕する快感に震える青木の脳裏に、ダイレクトに薪の思念が届く。

“大丈夫だ。お前が忘れるなら、僕が秘密にすれば無かったことと同じになる”

「で……もっ……、く……はッ」

もう、この人は本当にずるい。今まで微塵も見せなかった思いをこんな時、ここぞとばかり出してトドメを刺しにくるのだから。

“ずっとしたかったんだ、許せ”

「……え?」

“お前にしかこんなこと……しないから”

オマエニシカシナイ、という言葉が青木のハートのど真ん中を射止めたせいで、薪が手と口で包含していたモノがドクンとまたはみ出す。
先端に喉を突かれてえずきながら、前後に運ぶ手と口の動き。味わうように先端を転がす熱い舌に翻弄される青木の快感の呻きとともに、大きな両手がしがみつくように薪の頭に添えられた。

「……く……っ……はッ……まきさッ……」

ベッドに据えた青木の腰が、薪の愛撫の動きに誘われ微動をはじめる。その動きと荒い息遣いに煽られた薪も、口と手を駆使して応え、血流が増しイキの良い反応を示す肉棒と奮闘しながら、絶頂へと向かっていく。

「うっ……ああっ……はぅ……ッ」

愛する男の絶頂の声に身震いする薪の口内で、弾けて広がる温かい粘液がごくりと喉を通った。
愛しげに先端を吸いながら離れていく薪のぬくもりに、青木はハッと我に返った。

「……ま、薪さん、そんなの飲んじゃ……」

「……ハァ……」

恍惚と茫然に包まれた青木の目線が、白濁を伝わせた口角を僅かに吊り上げた薪の潤んだ瞳に釘付けになった。
可愛くて、妖艶で、愛しくて。
こみ上げる胸の熱が一気にキャパを越えて、目眩する青木の視界がぐらりと揺れてホワイトアウトしていく。
あ、マズい。思念が溶ける―――


「もう、二度と来るなよ」

「っ、薪さん……」

「これは僕だけの“秘密”だからな」

「ちが……います!」

薄れる思念の中で、青木は薪の両手首を掴んで引き寄せ、青臭い苦みのある口づけを交わす。
そして触れたままずらした唇が漏らす言葉に、薪の心が激しく揺さぶられた。

「そうはさせません。俺が戻ってからあなたと本当にそういう関係になれば、秘密にする必要なくなるでしょう?」

「っ、寝ぼけた事言ってないでまず傷を治せよ。あと入院中体を拭く時には、オニヅカさんに頼め。必ずだぞ」

「はあ……オニヅカ?」

自分の気持ちに真正直な青木と、徹底的にはぐらかす薪。
想いが通じたはずの二人の思念は、交わった場所から消えて、元の身体に戻った。
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