2069 father's day
そういえば、今は一年で一番昼が長い時期だ。
明るいうちにロッジに到着した車から降りた二人は、のんびり荷物を運びはじめる。
「意外と色々揃ってるんだな」
「そうですか?でも冷蔵庫がないんです。あと空調も。ストーブと扇風機しかないから、気候が良い季節じゃないと泊まれないんですよ」
洗面台と洗濯機のある風呂場を覗く薪が感心しているのを見て、大きなクーラーボックスを縁側に置いた青木が、苦笑いしながら答えた。
「贅沢をいえばきりがない。雨風が凌げればまずは十分だろう」
「そうですね、俺は薪さんと一緒なら野ざらしでも幸せですけど」
「は?そんなの僕がお断りだ」
冷たい返事もものともしない青木が軽い足取りで車に戻るの後目に、薪は奥の部屋を覗いてみる。
そこにはマットレスだけの木枠のベッドがぴったりくっついて二つ並んでいた。
「寝具は持ち込みなので、これ買っちゃいました♪夢のファミリー用シュラフ!!だいぶ大きいんで、中で動いても大丈……ぶフッ!」
調子に乗って口を滑らせた下ネタは鋭い腹パンチで即刻封じられる。が、衝撃をくらった内臓を服の上から擦りながらも、そっぽを向いた薪の耳が真っ赤なのに気づいた青木は、胸のドキドキが収まらないままだ。
庭先には手作りの木製ベンチと大きなテーブル。そして隅には本格的なピザ窯が据えられていた。
「あ~あ、丸太のまま置いといてくれれば俺がやるって言ったのに、おいちゃん全部割ってくれてるし……」
窯の横に綺麗に積み上げられた薪を見て、青木が申し訳なさそうにため息をつく。
「お前、薪割れるのか」
「ええ、一応。クスッ、てか薪さんが薪割りとか、、、面白いです」
「何を一人でツボに嵌まってるんだ」
笑いを堪える青木を薪が肘で小突いた。
夕方だがまだ明るい空の下で、ピザ窯に火を入れた青木は、張り切って顔でテーブルの薪に振り向く。
「さあ、作りますか」
「何を?」
クーラーから取り出されたのは、お饅頭みたいな白くて丸いものが一つ、二つ……全部で六つ。
「舞と一緒にこれ、作ってきたんです。伸ばしていただけますか?」
「…………耳は?」
「ボリューム抑えたいなら無しでいいですよ」
薪は綿棒を浮けとると、打ち粉を振ったまな板シートの上で手際よく伸ばし始める。
「具材はそのミニクーラーの中です」
大きなクーラーの隣にある小さなボックス。
薪はまるで昔話の“小さなつづら”を開けた人みたいに、宝物に魅了された顔で中身を見つめている。
「モッツァレラ、ゴルゴンゾーラ、パルミジャーノ。クラシックが好きなあなたにはペコリーノ・ロマーノと、変わり種でラベンダーを練り込んだゴーダです」
「こっちは?」
「ああ、それはマスカルポーネとナッツを漬けた蜂蜜です。デザート風に食べるチーズもお好きでしょう?」
古賀のおばちゃんから貰った野菜をスライスしながら答える青木をみて頷く薪の目がキラリと輝く。その瞬間は見逃した。が、なんとなく空気で分かる。
ここに来た薪が、見た目以上に童心に帰っていることくらい―――
明るいうちにロッジに到着した車から降りた二人は、のんびり荷物を運びはじめる。
「意外と色々揃ってるんだな」
「そうですか?でも冷蔵庫がないんです。あと空調も。ストーブと扇風機しかないから、気候が良い季節じゃないと泊まれないんですよ」
洗面台と洗濯機のある風呂場を覗く薪が感心しているのを見て、大きなクーラーボックスを縁側に置いた青木が、苦笑いしながら答えた。
「贅沢をいえばきりがない。雨風が凌げればまずは十分だろう」
「そうですね、俺は薪さんと一緒なら野ざらしでも幸せですけど」
「は?そんなの僕がお断りだ」
冷たい返事もものともしない青木が軽い足取りで車に戻るの後目に、薪は奥の部屋を覗いてみる。
そこにはマットレスだけの木枠のベッドがぴったりくっついて二つ並んでいた。
「寝具は持ち込みなので、これ買っちゃいました♪夢のファミリー用シュラフ!!だいぶ大きいんで、中で動いても大丈……ぶフッ!」
調子に乗って口を滑らせた下ネタは鋭い腹パンチで即刻封じられる。が、衝撃をくらった内臓を服の上から擦りながらも、そっぽを向いた薪の耳が真っ赤なのに気づいた青木は、胸のドキドキが収まらないままだ。
庭先には手作りの木製ベンチと大きなテーブル。そして隅には本格的なピザ窯が据えられていた。
「あ~あ、丸太のまま置いといてくれれば俺がやるって言ったのに、おいちゃん全部割ってくれてるし……」
窯の横に綺麗に積み上げられた薪を見て、青木が申し訳なさそうにため息をつく。
「お前、薪割れるのか」
「ええ、一応。クスッ、てか薪さんが薪割りとか、、、面白いです」
「何を一人でツボに嵌まってるんだ」
笑いを堪える青木を薪が肘で小突いた。
夕方だがまだ明るい空の下で、ピザ窯に火を入れた青木は、張り切って顔でテーブルの薪に振り向く。
「さあ、作りますか」
「何を?」
クーラーから取り出されたのは、お饅頭みたいな白くて丸いものが一つ、二つ……全部で六つ。
「舞と一緒にこれ、作ってきたんです。伸ばしていただけますか?」
「…………耳は?」
「ボリューム抑えたいなら無しでいいですよ」
薪は綿棒を浮けとると、打ち粉を振ったまな板シートの上で手際よく伸ばし始める。
「具材はそのミニクーラーの中です」
大きなクーラーの隣にある小さなボックス。
薪はまるで昔話の“小さなつづら”を開けた人みたいに、宝物に魅了された顔で中身を見つめている。
「モッツァレラ、ゴルゴンゾーラ、パルミジャーノ。クラシックが好きなあなたにはペコリーノ・ロマーノと、変わり種でラベンダーを練り込んだゴーダです」
「こっちは?」
「ああ、それはマスカルポーネとナッツを漬けた蜂蜜です。デザート風に食べるチーズもお好きでしょう?」
古賀のおばちゃんから貰った野菜をスライスしながら答える青木をみて頷く薪の目がキラリと輝く。その瞬間は見逃した。が、なんとなく空気で分かる。
ここに来た薪が、見た目以上に童心に帰っていることくらい―――