2069 father's day
週末泊まる予定の場所に相談をいれておく。
青木にとってそこは“父の日ならでは”の場所。薪を連れて行きたいと、ふと思い立ったのだ。
そしてなんとか仕事を終えて、土曜日に辿り着く。薪を福岡空港に迎えに行く前に、ちゃんと理髪店に寄るのも忘れない。
“青木さんはセットをアレンジすれば今のカットでも全然若返りますよ、元がイイですし”
若手理容師からおだてられ、いつもとイメージの違う髪型とコンタクトのカジュアルスタイルで、恋人との再会に臨む。
先のGWは突如勃発した事件のおかげで、青木家で余暇を過ごしていた薪は急遽帰京。その後月末までは、ほとんど休日も返上して捜査に当たった。
全管区の室長たちもリモートで協力体制を敷き、もちろん青木も連携しながら乗り切って、そこから半月経ち今に至っていた。
「あ、 薪さん!」
一ヶ月半ぶりの逢瀬に胸踊らせる青木は、ゲートを出てくる薪を見つけて思わず駆け寄る。が、薪はその大男を無視してスルーしていく。
「えっ、ちょ、薪さん……って、待ってくださいよ!」
すれ違ったままどんどん歩いていく薪の背中を呼び止めると、くるりとこちらを向く薪の眉間には思いっきり皺が寄っている。
「お前、なんだその若作りは?」
いや、だったらそちらこそいつも何なんですか、と言いたくなる。
163センチの身長、白い肌に栗色のサラサラヘアと、零れそうに大きな瞳。
自然のなかで休日を過ごそうと伝えたら、ちゃんとアウトドアコーデも決めてきて、若作りどころか、どうみたってお可愛らしい学生さんじゃないですか!
「いや、俺もたまには薪さんの見た目年齢に寄せようかと……」
「フン、くだらない。事実僕より一回りも若いお前がこれ以上若さをアピールして何の意味があるんだ」
「ハッ、そうか……」
そういやこの人ファザコンだった。
だから機嫌が悪いのか。やっぱり俺はいつもの“よきパパ”スタイルで来るべきだったのだ。
マジしくじったかもしれない。
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何でもないです」
ロック解除された車の運転席 に薪がさっさと乗り込む。
「えっ、薪さん!運転は俺が……」
「お前は寝てないだろ。僕がするからとにかく行き先を教えろ」
“薪さんを運転させて、隣で寝るなんてありえないです!”と助手席で姿勢を正していたのも束の間、青木は即刻眠りに落ちていく。
25kmの道程はあっという間だった。
信号が三つしかない上に足止めにもならないから、自然豊かな景色を横目で見送る他は、ゆっくり余所見もできない。
行き先として教えられた山のふもとの民家にあっけなく到着してしまった薪は、未舗装の砂利の路肩に停車し、助手席にいる大男の寝顔を食い入るように覗き込む。
ずっとこれがしたかった。
したくてハンドルを握ったのだ。
何を隠そう薪は、眠る青木をじっくり眺める常習犯なのだ。
真っ黒な髪に、意外と長い睫毛、鼻筋の通った、整然としたストレートなハンサム。しかも全くの無自覚ときているこの男。
眼鏡無しで髪を下ろした姿なんて風呂やベッドで飽きるほど見てるのに、こうまで胸がときめいてしまうのが何故なのかは、わかってる。
普段は無自覚なくせに、薪の気を引こうと必死で作ってきた初々しい張り切りに当てられたのだ。
色気づいた青木なんて自分しか知らない。惹きつけたい欲求を素直にぶつけてくる青木が、可愛くてしかたない。
おりた前髪を梳くように撫でた指を、額から頬に伝い降ろし、込み上げる甘酸っぱい熱情にせかされた薪は、覆い被さるように青木の唇に唇を近づける。と、背後でコツコツと窓を叩く音がするから、薪は助手席から飛び退くように振り向いた。
青木にとってそこは“父の日ならでは”の場所。薪を連れて行きたいと、ふと思い立ったのだ。
そしてなんとか仕事を終えて、土曜日に辿り着く。薪を福岡空港に迎えに行く前に、ちゃんと理髪店に寄るのも忘れない。
“青木さんはセットをアレンジすれば今のカットでも全然若返りますよ、元がイイですし”
若手理容師からおだてられ、いつもとイメージの違う髪型とコンタクトのカジュアルスタイルで、恋人との再会に臨む。
先のGWは突如勃発した事件のおかげで、青木家で余暇を過ごしていた薪は急遽帰京。その後月末までは、ほとんど休日も返上して捜査に当たった。
全管区の室長たちもリモートで協力体制を敷き、もちろん青木も連携しながら乗り切って、そこから半月経ち今に至っていた。
「あ、 薪さん!」
一ヶ月半ぶりの逢瀬に胸踊らせる青木は、ゲートを出てくる薪を見つけて思わず駆け寄る。が、薪はその大男を無視してスルーしていく。
「えっ、ちょ、薪さん……って、待ってくださいよ!」
すれ違ったままどんどん歩いていく薪の背中を呼び止めると、くるりとこちらを向く薪の眉間には思いっきり皺が寄っている。
「お前、なんだその若作りは?」
いや、だったらそちらこそいつも何なんですか、と言いたくなる。
163センチの身長、白い肌に栗色のサラサラヘアと、零れそうに大きな瞳。
自然のなかで休日を過ごそうと伝えたら、ちゃんとアウトドアコーデも決めてきて、若作りどころか、どうみたってお可愛らしい学生さんじゃないですか!
「いや、俺もたまには薪さんの見た目年齢に寄せようかと……」
「フン、くだらない。事実僕より一回りも若いお前がこれ以上若さをアピールして何の意味があるんだ」
「ハッ、そうか……」
そういやこの人ファザコンだった。
だから機嫌が悪いのか。やっぱり俺はいつもの“よきパパ”スタイルで来るべきだったのだ。
マジしくじったかもしれない。
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何でもないです」
ロック解除された車の
「えっ、薪さん!運転は俺が……」
「お前は寝てないだろ。僕がするからとにかく行き先を教えろ」
“薪さんを運転させて、隣で寝るなんてありえないです!”と助手席で姿勢を正していたのも束の間、青木は即刻眠りに落ちていく。
25kmの道程はあっという間だった。
信号が三つしかない上に足止めにもならないから、自然豊かな景色を横目で見送る他は、ゆっくり余所見もできない。
行き先として教えられた山のふもとの民家にあっけなく到着してしまった薪は、未舗装の砂利の路肩に停車し、助手席にいる大男の寝顔を食い入るように覗き込む。
ずっとこれがしたかった。
したくてハンドルを握ったのだ。
何を隠そう薪は、眠る青木をじっくり眺める常習犯なのだ。
真っ黒な髪に、意外と長い睫毛、鼻筋の通った、整然としたストレートなハンサム。しかも全くの無自覚ときているこの男。
眼鏡無しで髪を下ろした姿なんて風呂やベッドで飽きるほど見てるのに、こうまで胸がときめいてしまうのが何故なのかは、わかってる。
普段は無自覚なくせに、薪の気を引こうと必死で作ってきた初々しい張り切りに当てられたのだ。
色気づいた青木なんて自分しか知らない。惹きつけたい欲求を素直にぶつけてくる青木が、可愛くてしかたない。
おりた前髪を梳くように撫でた指を、額から頬に伝い降ろし、込み上げる甘酸っぱい熱情にせかされた薪は、覆い被さるように青木の唇に唇を近づける。と、背後でコツコツと窓を叩く音がするから、薪は助手席から飛び退くように振り向いた。