僕の可愛い忠犬一行

 最終便でたどり着いた福岡空港。

「まきさーん!」

 ターミナルの出口に向かう途中、青木が大げさに手を振っているのがもう見える。
 まだ先のゲートの向こうにいるのに身長も好感度も高い男はやけに目立ってる。が、本人はそんな人目も気にせず、喜色満面でめいっぱい自分を歓迎しているのが、薪にはこのうえなく可愛く映る。

 でも距離が近づくにつれ、トキメキとともにじわじわと湧いてくるのは“不服”という感情。

「お疲れ様です」

「ああ」

 身の回りのものは青木家に揃ってるから手荷物もなく、いつも通り仕事帰り風の二人が肩を並べる……と言っても実際肩は並んでなんかない。
 自分の頭頂が青木の肩にさえ届いていない身長差。
 それが今、薪の不服の種になっているのだ。

「さて、どこ行きましょうね。有名な屋台にお連れしたかったんですが、車なので今日は夜景スポットかな」

「……」

 頭上で浮かれる声を聞きながら、“不服”はみるみる膨らんで“欲望”に変わる。

「だとすると、福岡タワーか海浜公園、門司まで足を伸ばしてもいいですし……」

 だめだ。夜景なんかより、今僕が見たいのは……

「まきさん、どうします?」

 黙ったまま足を止めた薪に、青木が振り返る。

「おすわり」

「…………は?」

「聞こえなかったのか」

 ポカンとした顔で見下ろす長身の年下男に、薪はすぐ横のベンチを真顔で指差し、もう一度言い放った。

「おすわり、だ。青木、ここ!」

「……はい」

 青木は戸惑いながらも、数歩戻って素直にそこへ腰を下ろす。

 その動作を見守る薪の目がもう、うっとりし始めている。
 そう、このアングルが欲しかったのだ。

 “薪さん、出ました、見てください。ここです”

 一体制時代の第九では定番だったこのポジション。
 捜査席の青木の元へ歩み寄り傍らに立てば見放題のどストライクな顔かたち、視線、細かな表情……甘酸っぱい熱情を心身に甦らせながら、薪は目線の少し下にある青木の顔をじっくり堪能する。

「あの……薪さんは座らないんですか?」

「大丈夫だ、気にするな」

 気を遣い気味の上目遣いに気をよくした薪が微笑んで、忠犬の頭に手を置いた。

「一応母や舞には先に寝ておくように伝えてあるので、今夜は時間があるんです。どこかあなたの好きなところへお連れしたいんですが……」

「そんなの……どこだっていい」

 見上げてくる真っ直ぐな視線をぞくぞくしながら見下ろす薪は、頭を撫で下ろしてそっと頬に触れながら、ぽろりと本音を零す。

「おまえと二人きりなら」

 薪の見惚れる顔に見惚れ返している青木。
 艶かしい熱を帯びたその返答が、アラサー男のスイッチを刺激しないわけが無い。

「え……っと、じゃあ……夜景とかの見える……」

「ホテル?」

「ええっ……と……ハイ。そうしましょう!」

 煽りをやめない薪に青木がついに乗っかった。
 大きな手の内にあるスマホは素早く“夜景の見える近くのホテル”のブッキングを始めている。

「そういえば食事は?」

「そんなの“お預け”でいいです」

「……」

 いつの間にか青木の方が前のめりになっている。
 ホテルの予約確定画面をタップし立ち上がった青木が、進行方向に身体を向けながら薪に振り返る。

「薪さんはもうご存知ですよね。俺が好物から真っ先にいただくタイプだって……さあ、行きましょう!」

 この後すぐに送迎の自家用車に乗せられ連れ去られた薪が、夜景の見えるホテルの一室で、ナカもそとも隅々まで存分に味わいつくされたのは、言うまでもない。
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