僕の可愛い忠犬一行

 舞が夏休みの宿題で、 “家族” というお題の詩を書いて提出したらしい。
 タイトルは「マキちゃんとコーちゃん」
 学校ではママとパパのこと?と聞かれて「まあ、そんな感じかな」と得意げに答えているようだ。

マキちゃんはコーちゃんのたいよう
マキちゃんがわらうと
​コーちゃんも元気にピンとなる
​マキちゃんがおこると
コーちゃんは 地めんにたおれちゃう
​マキちゃんが歌を歌うと
コーちゃんはスキップする
​マキちゃんがさみしそうだと
コーちゃんは大きな手をさしだす
​マキちゃんはコーちゃんのたいよう
コーちゃんはマキちゃんのひまわり
​いつもいっしょに
くるくるまわる

2年2組 青木まい


「これ、凄く上手くないですか?俺泣きました」

「ふぅん……確かに凄い。お前がアドバイスしたのか?」

「いえ……まあ、始めにほんの少しだけ軌道修正しましたが」

 軌道修正? と不思議そうな顔をする薪に、青木は“修正前”の文を諳んじる。

「はじめは “マキちゃんは小さなかいぬし。コーちゃんは大きなワンコ。マキちゃんがなでてあげると、コーちゃんは元気にピンとなる” ってやつを書いてました」

「……直して正解だったな」

「ええ。でも当たってるし味わい深いので、こちらも大切に保管しています」

 提出の前の晩、青木と薪は舞の成長に二人して目を潤ませ語り合ったりもしていたのだ。


 そして夏休みが明けた登校初日。
 宿題を褒められた舞はご機嫌で、下校後も例の詩のイラストを書いていた。

「ただいま。あれ、母さんは……」

「北町なでしこ会だ」

 台所から聞こえる薪の声に、青木は壁掛けカレンダーで「なでしこ懇親会」の走り書きを目で追った。
 今日は薪さんと舞と三人の夕食だ。

 機嫌よく自室で着替えを済ませた青木は、今日一日この家でリモートワークしていた薪の夕食の支度を加勢しようと踏み出した足を、ふと止める。

 食器棚を開けて、腕をいっぱいに伸ばして、つま先立ちで背伸びする薪。まるで獲物を狙う猫が後ろ足で立ち上がるように、身体の軸を細くしてしなやかに伸びて……

「ねぇコーちゃん、どうしたの? 手伝ってあげないの?」

 結びかけて止まってたエプロンを代わりに蝶々結びしてあげた舞は、デレデレしている叔父パパの顔を見上げてせかす。

「ああ、そうだね……俺疲れてるかも。薪さんがなんか可愛い仔猫に見えてたよ」

「ねこ……」

 独り言ともつかぬ青木の残した言葉を舞が繰り返す。


「カレー皿、三枚でいいですか」

 最上段の皿に手を伸ばしていた薪の頭上で、容易く目当ての物を取ってあげる大きな手。

「うん」

 たしかに大型犬と、仔猫だ。
 犬猫が仲良く暮らすお気に入りのネット動画と重ねながら、舞は仲睦まじく夕食の支度を整える二人を目を丸くして見つめていた。

 温かで幸せな食卓。
 ツンとしてるくせに、たまに心地よさそうにゆるりと口角を上げる薪の表情。

 食後のソファに座る青木の身体と背もたれと座面の間3点の中にすっぽり嵌ってくつろぐ薪の観察を続けながら、舞は瞬きして目をこする。
 飄々としてるのに、いつも青木の傍があたかも自分の居場所で、液体みたいにぴとりとくっついている。
 そんな薪はたしかに猫だ。そして青木は……

 
 青木が食事の後片付けをしてる間に風呂を済ませた薪と舞。
 薪は読書の傍ら、ふとテーブルの舞の絵に目をやった。

「舞。これは、どこの家の猫?」

「え?ねこじゃないよ、マキちゃんなの。でね、この“おうち”はコーちゃんだよ」

「おうち?」

 イヌじゃなくイエとは(生き物でもない)……新しい発想だな、と、画用紙の傍らにあるノートに書かれた詩を読んだ薪の顔が、たちまち赤面する。


マキちゃんはねこ、コーちゃんはおうち
​マキちゃんがにゃあとなくと
コーちゃんはすぐにドアをあける
​マキちゃんがおひざにのると
コーちゃんはあったかくなる
​マキちゃんがお昼ねすると
コーちゃんはおふとんになる
​マキちゃんがまどの外をみると
コーちゃんはきれいなけしきを見せる
​マキちゃんはコーちゃんのねこ
コーちゃんはマキちゃんのおうち
​いつもぴったりくっつくいてはなれない


「舞、これはすごい名作だ。だから僕のお願い、一つ聞いてくれるかな……」

 青木が風呂から上がってくる前に、この名作はノートから切り取られ 、舞からマキちゃんへの “秘密のプレゼント” となり、永遠の秘宝になったのは言うまでもない。
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