僕の可愛い忠犬一行

忠犬は家事もマメにこなす。
清潔好きな薪の水準を満たす掃除はもちろんのこと、料理もこなれていて腕前も中々だ。何より薪の好みや体質を事細かに把握しているのがいい。

いや、そこは良し悪しか。

まだ三十そこそこの若造が、毎回年寄りみたいなものを嬉々として食べている姿が、たまに薪の目には不憫にも映ったりもする。

そんなある金曜日の晩だった。

薪より数時間早く福岡から到着していた青木が待つマンションに、24時過ぎ、薪が帰る。

「お帰りなさい。食事、今温めますね」

風呂も済ませて爆睡していたにもかかわらず飛び起きてきた忠犬は、気立てよく夕食の支度を始める。欠伸を噛み殺して、本当はくたくたに疲れてるくせに。

「お前は?」

「空港でラーメン間食・・してきましたが、もう今は腹ぺこです」

一緒に夕食しましょうね、と優しく微笑む青木にキッチンを任せ、いつもならこの間に薪がシャワーを浴びてくる段取りだ。
そうして夜食並みの軽い食事を二人で摂った後は、どちらからともなく唇が重なり、熱い吐息と肌を絡め隅々まで探り合い深く結ばれて……意識薄れるなかで、上り詰めた余韻のなかで眠る。
至極健全で、真摯な、まるで年若い新婚夫婦みたいな生活を送っている現状。

温まった鍋からは、京風味噌が香りはじめている。
ああこれは。いつぞやの、思いつきの青木のアレンジが意外とマッチして、近頃の薪のお気に入りメニューになったあれだ。
“京風味噌の博多風雑煮”
旨そうな匂いにそそられる。が、今夜はそれに加えてコイツに与えてやりたいものがある。

「今日はもう一品、お前に食わせてやる」

「え?」

振り向いた青木の目の前には、ジャケットを脱いでシャツを腕捲りした薪が、エプロンを身につけて立っている。

「あれ?どうなさったんです?何かご要望があれば、俺作りますよ」

「いや、いい。僕が焼く」

「焼く……って、えっ!?」

薪がチルドから取り出してきたものを見て、青木は驚きに目を丸くした。

プレートの上に横たわるのは、筋を切りスパイシーに下拵えされた1ポンドはあろう厚切りのステーキ肉。

「えっと、薪さん、大丈夫ですか?胃もたれとか……」

「たまにはいいだろ。食べるのはほとんどお前なんだし」

鉄のフライパンを強火で温めながら、薪は口の端で笑った。

賢明な飼い主は、絶妙なタイミングにあの手この手で、忠犬にご褒美を与える。

“薪さんお手製のステーキ”

魂胆は不明だが、まったく気にしない。
青木は薪にしか見えない尻尾を振って、褒美を全力で喜んだ。
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