上司が熱を出したので

「あの、薪さん。ちょっといいですか?お薬すぐに服用できそうなので……」

 額に当てたタオルを冷たいのに取り替えながら声を掛けると、可愛い上司は目を閉じたまま眉間に皺を寄せてぷいっと顔を背ける。

「嫌だ。薬も食べ物もいらない」

 子どもみたいに聞き分けのない反応に手を焼きながらも、青木の胸は甘酸っぱいときめきで膨らんだ。

「いえ、飲む必要もそのために何か無理に食べる必要もないんです。ただ、少しだけ……あの、じっとしていていただければと」

「……のまなくて? いいのか?」

 熱で潤んだ瞳がこっちを見上げる。

「はい。お、お尻から入れるヤツみたいで……」

「おしり…」
 
 力ないオウム返しが薪の乾いた唇からこぼれた。
 寝苦しさで朦朧としていた表情が、呆気にとられた形相になっている。
 まあ無理もないだろう。
 いくら部下かつ信頼に足る相手で人畜無害だったとしても、さすがに下着に手をかけ生尻を晒したり、ましてや肛門から薬を挿入させるなんて、気高いこの人が許すはず無……い?

「ん……わかった……」

「えっ?」

 殴られる覚悟で身構えていた青木は驚愕した。
 薪が素直に寝返りをうち、背を……いやお尻を向けたのだから。

「えっと、どうやって……」

「説明書よめ」

 ええっと……説明書……って、そういう問題?
 俺が読む、ってことは……入れるのも、俺!?!?

 青木は震える手を洗い、爪を切る。
 薬袋に添付されてる説明書を横目で確認しながら、薬剤を取り出して先端を指先で擦って温め滑りよく下拵えする。

「し、失礼します」

 後ろから回した手で細い腰のベルトを外し、ズボンのファスナーを手探りで下ろす。
 そして本当に必要最小限だけ……下着ごとズボンの後ろをずり下げた。

 俺は信用されてて、こ、これは看病なんだ。余計なことを考えるな!!!!

 そう自分に言い聞かせながら説明文を目で辿ると『薬を2.5cm位のところまで挿入して、出てこないように数分押さえる』とあって、事務的な記載なのになぜかゴクリと生唾を呑む。


「薪さん……い、入れますよ。痛かったら……言ってくださいね……」

「……あぁっ……」

 艶めかしい声に反応し熱く高鳴る胸。
 親指と人差し指で薬剤を摘みながら、滑らかなお尻の割れ目をなぞって分け入り中指でそっと押した窄まりが、吸いつくように先端を呑みこむ。

「い、いたくない……ですか?」

「んぅ……もっと……おく……」

「お、奥?」

 薬剤を載せた人差し指を、中指に沿わせて押し込むと、2.5センチなんてとうに超えた奥まで、絡めとるように吸い込まれていき、あっという間に根元まで食い締められる。

 熱くて溶けそう……てか、や、やばいっ――

 股間で起きている重大な異変に内心慌てながら、極力ゆっくり丁寧に薪の中から指を引き抜く。
 熱い内壁が絡みつき、しなやかな肢体が身悶えし、可愛く漏らす小さな声が鼓膜を甘くくすぐるのが、どれも堪らなくて。

 危な……イきそうだった。

 興奮で震えが収まらない手で薪のズボンを元に戻した青木は、ようやく自分の着衣の下の股間にまともに意識を向ける。

 コレはないだろ……と思わず自ら突っ込んだ。

 いくら上司が美人で好みの容姿だからといって、見境なさすぎだ。
 出会ったばかりの頃、薪さんが実は女の子だったという夢を見て「ヤッター」と飛び起きていたのも大概だが、それとは比にならない生々しい劣情を、あからさまに突きつけていると指摘されても言い逃れできない。

♪♪〜
 自分の愚かさに凹みつつ、なんとか昂りを落ち着けたタイミングで、ちょうど玄関のインターホンが鳴り、大きな身体がギクリと跳び上がった。


「買ってきたよ〜」

 玄関先で姉から手渡された荷物をその場で確認した青木は固まった。
 食べ物や冷却ターバン、歯磨き・洗顔・シャンプーなどのお泊りセット、曲がるストローつきタンブラーなどの気の利いたグッズは大正解。
 でも、服が……
 サーモンピンクのもこもこパイルシャツ&ショートパンツのセット。さらには……この下着……って……

「え? これ……」

「写真のコに似合いそうでしょ? もっとカワイイ系で遊んでみたかったんだけど、彼女的には長く着れる方がいいだろうし……」

「あの、姉さん……“彼女”って誰のこと?」

「え? “職場の女子”でしょ? めちゃくちゃ可愛いコじゃない、一行も隅に置けないねぇ」

「ジョシ……」

 職場の「上司(ジョウシ)」が「女子(ジョシ)」

 青木は今更訂正する気力もなく、ボーゼンとしながら姉に買い出しの礼を述べた。
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