カーミングシグナル
「あれ?起きてらしたんですか」
丸まって眠るルカを脚元に従え、ベッドに頭を抱えて腰掛けていた薪が、その声に不安げな顔を上げる。
その青ざめた容貌を見て、薪を一人にした後悔に眉をひそめた青木が、手を差しのべながら歩み寄った。
「……ご……めんなさい」
「え?」
触れた肩がぴくりと震えるから、青木の手が遠慮がちに引っ込む。
「お父さ……おとうさんっ……!」
糸が切れたように頼りなく縋りついてくる薪の身体を、今度は夢中ですっぽり抱きしめた。
「謝らなくても大丈夫。本当に大丈夫ですよ。俺はどこにもいかないから……ずっとあなたのそばにいますよ、まきさん……つよしくん……」
腕の中の薪の額に唇を押し当て、後頭部を撫でつける。
猛る雄から父性にスイッチしていく“キモチ”。
いっそ今夜はそれでもいいんだ。が、そうはいかないのは“カラダ”のほうだ。
か、カーム……!
カーム、ったら……鎮まれ、俺!
薪の操るコマンドを自ら唱え、自らを落ち着けるように、抱きしめた飼い主の背中を撫で続ける忠実な先住犬。
今夜は父にだって愛犬にだって、薪の求めるものになら何にだってなるから、薪の不安を取り除き、新たな不穏に襲われないよう包んで守れる存在でありたい。
「……お前、バカなのか?」
冷めた声に斬りつけられるように我に返った青木が揉みくちゃにしていた腕の中の薪を見下ろすと、火照った頬と潤んだ瞳に出会って、疚しさが一気にぶり返す。
「何を宥めてるんだ。その必要はないだろ」
「……へっ?」
「僕は起きてるんだぞ」
「え、でも……」
「でも、何だ? 襲うんじゃないのか?」
愛らしく口角を吊り上げ挑発してくる清純な小悪魔の唇を、唇で受け止めながら青木は困惑顔で返す。
「……止まれませんよ?……もう」
熱に詰まらせた声とともにキスを浴びせながら、服を脱がして、滑らかでいい匂いのする首筋から胸元まで唇や舌を這わせていく。
甘い吐息を零す薪を下敷きに倒れ込むベッドで「はやくしろ」とひたすら急かされて、薪が自ら解しはじめた入り口に、自らの指を一緒に潜り込ませて淫らな音を奏でて蕩かす。
そうして体勢を立て直し、薪の屹立を手の内でコントロールしながら、ナカの気持ちいいところをなぞり、抱き合う姿勢でじわじわと自らの怒張を薪の奥まで収めていくのは、長年の交わりでもうお手のものになっていた。
だからといって、この清らかな新雪に踏み込むようなゾクゾク感は、褪せるどころか増すばかりで――
「……あ……おき……っ……ふっ……あ……っ……」
囁くように漏れる小さな声。
軋んで揺れ続けるベッドの脚元で丸くなっていたルカが欠伸を一つしてのっそり起き上がり、薄く開いた襖を掻い潜って希の部屋へと戻っていく。
汗だくで繋がる小さな身体にキツく呑み込まれ、夢中で抽送を繰り返しながら、青木は朧気に悟る。
こんな時、淫靡な情欲と快楽に身を投じてくるのは、この人のカーミングシグナルでもあるんじゃないか、と。
もしかして、俺をいっぱいに受け容れ乱れることで、喪失や不安、悔恨や恐怖など襲い来る動揺を掻き消して、身体はぐしゃぐしゃになっても、心は落ち着きを取り戻しているのではないか、と。
だったら、もう、とことんいきつくところまでいこうと、青木は理性のスイッチをオフにする。
ルカが去った襖を閉めて、声を殺して交わりながら、まっしろな平穏までたどり着いたら……そのまま闇が薄れる時間まで浸っていようと決めたのだ。
丸まって眠るルカを脚元に従え、ベッドに頭を抱えて腰掛けていた薪が、その声に不安げな顔を上げる。
その青ざめた容貌を見て、薪を一人にした後悔に眉をひそめた青木が、手を差しのべながら歩み寄った。
「……ご……めんなさい」
「え?」
触れた肩がぴくりと震えるから、青木の手が遠慮がちに引っ込む。
「お父さ……おとうさんっ……!」
糸が切れたように頼りなく縋りついてくる薪の身体を、今度は夢中ですっぽり抱きしめた。
「謝らなくても大丈夫。本当に大丈夫ですよ。俺はどこにもいかないから……ずっとあなたのそばにいますよ、まきさん……つよしくん……」
腕の中の薪の額に唇を押し当て、後頭部を撫でつける。
猛る雄から父性にスイッチしていく“キモチ”。
いっそ今夜はそれでもいいんだ。が、そうはいかないのは“カラダ”のほうだ。
か、カーム……!
カーム、ったら……鎮まれ、俺!
薪の操るコマンドを自ら唱え、自らを落ち着けるように、抱きしめた飼い主の背中を撫で続ける忠実な先住犬。
今夜は父にだって愛犬にだって、薪の求めるものになら何にだってなるから、薪の不安を取り除き、新たな不穏に襲われないよう包んで守れる存在でありたい。
「……お前、バカなのか?」
冷めた声に斬りつけられるように我に返った青木が揉みくちゃにしていた腕の中の薪を見下ろすと、火照った頬と潤んだ瞳に出会って、疚しさが一気にぶり返す。
「何を宥めてるんだ。その必要はないだろ」
「……へっ?」
「僕は起きてるんだぞ」
「え、でも……」
「でも、何だ? 襲うんじゃないのか?」
愛らしく口角を吊り上げ挑発してくる清純な小悪魔の唇を、唇で受け止めながら青木は困惑顔で返す。
「……止まれませんよ?……もう」
熱に詰まらせた声とともにキスを浴びせながら、服を脱がして、滑らかでいい匂いのする首筋から胸元まで唇や舌を這わせていく。
甘い吐息を零す薪を下敷きに倒れ込むベッドで「はやくしろ」とひたすら急かされて、薪が自ら解しはじめた入り口に、自らの指を一緒に潜り込ませて淫らな音を奏でて蕩かす。
そうして体勢を立て直し、薪の屹立を手の内でコントロールしながら、ナカの気持ちいいところをなぞり、抱き合う姿勢でじわじわと自らの怒張を薪の奥まで収めていくのは、長年の交わりでもうお手のものになっていた。
だからといって、この清らかな新雪に踏み込むようなゾクゾク感は、褪せるどころか増すばかりで――
「……あ……おき……っ……ふっ……あ……っ……」
囁くように漏れる小さな声。
軋んで揺れ続けるベッドの脚元で丸くなっていたルカが欠伸を一つしてのっそり起き上がり、薄く開いた襖を掻い潜って希の部屋へと戻っていく。
汗だくで繋がる小さな身体にキツく呑み込まれ、夢中で抽送を繰り返しながら、青木は朧気に悟る。
こんな時、淫靡な情欲と快楽に身を投じてくるのは、この人のカーミングシグナルでもあるんじゃないか、と。
もしかして、俺をいっぱいに受け容れ乱れることで、喪失や不安、悔恨や恐怖など襲い来る動揺を掻き消して、身体はぐしゃぐしゃになっても、心は落ち着きを取り戻しているのではないか、と。
だったら、もう、とことんいきつくところまでいこうと、青木は理性のスイッチをオフにする。
ルカが去った襖を閉めて、声を殺して交わりながら、まっしろな平穏までたどり着いたら……そのまま闇が薄れる時間まで浸っていようと決めたのだ。