リクエスト_短編
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ナマエはくのいち志望で忍術学園に入学し、今年で3年生になった。
くのたまの中でも物腰穏やか、成績も悪くない。
しかし彼女にはある悩みがあった。
「今日の補習はここまでにしましょう」
「ありがとうございました」
「少しずつ上手くなってきているわ。数日後にはテストもするから、これからも頑張りましょうね」
「はい、山本シナ先生」
彼女は実技の授業、特に忍具の扱いが苦手だった。
今日も山本シナ先生について貰って鍵縄の補習を受けていた。
補習前は狙った方向に投げるのも覚束なかったが、
終わるころには4割の確率まで狙ったところに投げられるようになっていた。
しかし、彼女の表情は暗かった。
「(今日も補習になった…くのいち向いてないのかな…)」
弱気になりそうな自分にハッとして首を横にぶんぶんと振る。
1年生の頃から忍具の扱いは上手くなかったが、時間をかけて沢山練習すればいつも最後には習得できた。
今回もめげずに頑張ろうと奮起し、そのまま自主練をすることにした。
「はぁ、はあ……、あ、もう夕方だ…」
日が傾き始めたころには7割の確率で狙ったところに鍵縄を投げることができるようになっていた。
今度のテストももう少し頑張ればクリアできそうと胸を撫でおろし、鍵縄を返却しに倉庫へ向かう。
「(これで大丈夫、よし夕食食べに行こう)」
無事に鍵縄を返却し、倉庫を後にする。
長屋の方からはどこかのクラスが煮炊きをしているのか細く煙が見えた。
急いでいかないと夕食がなくなってしまうと走り出そうとしたとき、後ろから誰かに引き留められた。
「待って!」
「!? …あ、伊作くんか。びっくりした」
引き留めたのは同じ学年の忍たま、善法寺伊作だった。
知っている人物であることに安心するナマエだったが引き留めた伊作の方は少し怒っているようだった。
「ねえ、ケガしてるよ」
「え? あ、本当だ…」
補習中か自主練中か、気が付かないうちに手を擦りむいていたようでうっすらと血が滲んでいた。
その他にもずっと縄を触っていたせいか、ささくれもいくつかできてしまっていた。
「前にも言ったと思うけど、どんなに小さい傷でも細菌やバイ菌が入ったらよくないから
ちゃんと医務室で手当てしないとだめだよ」
「気づいてなかった、ごめんね」
「ほら、医務室に行こう?」
ナマエがうんと返事をすると伊作は手を引いて医務室へと連れていく。
ナマエは以前からこんな風に伊作に連れられ医務室送りになることが度々あった。
忍具の扱いを練習しているうちに切り傷や擦り傷ができてしまっているのだ。
その上、練習に夢中になっていると怪我をしていることに気づかず、後になってから気づくことが多かった。
「はい、ここに座って」
医務室に連れてこられたナマエは伊作に言われるがまま座らされ、傷の手当てが始まった。
「…」
目の前でてきぱきと手当てをする伊作を盗み見る。
ナマエは伊作のことが好きだった。
日頃からこうして気にかけてくれる優しいところに、気が付いた時には
伊作のことをただの同級生とは思えなくなっていた。
「? どうかした?」
「あ、ううん。…伊作くんいつも優しいなって」
「保健委員だからね! 怪我している人はほっとけないよ!」
「…さすがだね!」
視線に気づいた伊作に慌てるナマエだったが、伊作は何でもないことのように保健委員だからと笑っている。
ナマエもさすがと褒めたが内心ちくちくと針でつつかれる様な痛みを感じていた。
彼が優しいのは保健委員だから、勘違いしたらいけない。そう自分の気持ちを静めるのだった。
***
あっという間にナマエ達は6年生になった。
ナマエの伊作に対する想いは変わらず、しかし手当てのたびに
保健委員だから気にしないでと言われ続け気持ちには蓋をし続けてきた。
そんなある日、ナマエに実家から手紙が届いた。
ヘムヘムから受け取った手紙を部屋に戻ってから開いた。
「…えっ!?」
ナマエは書いてある内容に思わず声を上げた。
その手紙には、良い見合いの話があるので一度家に戻ってこないかというものだった。
「そんな…お父様ってば勝手に…」
ナマエの実家は商家だった。
兄と姉がおり、兄は家を継ぐための修行中、姉は既に遠縁の商家に嫁いでいた。
どうやら今回の見合い話はその姉から父に話が行ったようだった。
「(……忍術学園、やめないといけないのかな…)」
ナマエは幼い頃、実家の商隊が賊に襲われた際にくのいちに助けられたことがあり、
その一件からくのいちを志し、忍術学園で勉強をしてきた。
それなのに卒業まであと一歩というのこのタイミングで降って湧いた見合い話にナマエは目が回りそうだった。
「…一旦後で考えよう」
彼女には今夜、とある城に赴いて密書を奪取する実習が控えていた。
ひとまず実習に集中しないと、と考えたナマエは夜に備えて準備と仮眠をするのであった。
***
夜。実習が始まった。
山と川に囲まれたその城へは一学年下のくのたまとペアで潜入し、密書を持ち去る実習だった。
ナマエと後輩は気づかれずに侵入し、密書を見つけ出したところまではよかったが、
脱出する際に城の者に見つかってしまった。
先に後輩を山の方へ逃がす。
夜の山に逃げ込めればこちらの方が有利だという算段で、ナマエは後輩が山に逃げ込むまでの間、
城の者を引き付けるために鳥の子や唐辛子入りの焙烙火矢で城の者を攪乱する。
「(そろそろ山に入れたかな…? 私も離脱しよう)」
「曲者!覚悟!!」
「いったっ…! くっ!」
十分に時間を稼いだため、ナマエも離脱しようとしたが運悪く、城の衛兵から一太刀食らってしまった。
すぐさま体制を立て直し、煙玉で視界をくらませる。
夜半の嵐の術などを駆使し、何とか山の方に逃げ込み忍術学園まで戻ることができた。
「う゛ぅ゛゛~~゛っ゛ぜん゛ば゛ぁい゛ぃ゛ぃ~~! 私のぜいでぇ~っ゛゛」
「ちゃんと任務が達成できているのだから泣かないで?
そんなに傷も深くないし、応急処置もしてくれたんだから、もう泣かない。ね?」
後輩は自分のせいだと帰りの道中泣きっぱなしだった。
この後輩は優秀で他のくのたまにもかわいがられているが、
大変涙脆く、その上一度泣き始めるとなかなか止まらない所が短所であり、かわいいところだった。
「じゃあ報告だけお願いしていい?」
「もぢろ゛ん゛で゛ずぅ゛~~゛~!」
「だからもう泣かない〜!」
早く医務室へとべしゃべしゃに泣く後輩と別れて医務室に向かうナマエ。
一人になったからか、学園まで戻ってきて気が抜けたのか実習前に届いた手紙のことが頭をよぎった。
「(返事、ださないと…。……学園…やめたくないな…)」
ふと、傷を負った腕を見る。
「(………もし…)」
────もしこの傷が残ったら、…見合い話は破談になるだろうか?
腕に受けたこの傷が痕になるようであれば、いくら気の良い人でも顔を顰めるかもしれない。
「(そうすれば、学園に残ることができる…)」
保健委員会委員長になった彼ほど、手当てが上手いわけではないが最低限自分で処置することはできる。
「……、」
医務室に向かっていた足を、長屋の方に向き直して歩き出そうとした。
その時だった。
「ちょっと、」
「…! 伊作くん…」
「怪我、してるよね?」
怪我をしていない方の腕を引かれて振り返れば伊作が立っていた。
ナマエの返事を待たず、伊作は掴んだ腕を引いて歩き始めた。
ちょっと、とナマエが制止しても伊作は振り向かずとうとう医務室まで着いてしまった。
いつもの手当てと同じように座らされると伊作は救急箱を取り出した。
これでは手当てされてしまうとナマエは傷がある方の腕を隠すように伊作に待ったをかけた。
「伊作くん、待って」
「待ってって…手当てしないと痕に「だから、手当てしないで…! 学園をやめないといけなくなるから!」
…どういうこと?」
ナマエの言葉にようやく止まる伊作。その顔は困惑している。
好きな人に対して見合いの話をするのは気が引けたが、ナマエは実家からの手紙について話をした。
そして、見合いを破談にするためにこの傷の手当は自分でしたいと話した。
「見合い…」
「そ、そうなの。
ほら、伊作くんに手当てしてもらったらいつも痕も残らず綺麗に治ってしまうから、今回はその…ね?」
説明した勢いで医務室からの脱出をはかり、立ち上がろうとするナマエ。
しかし伊作に両肩をつかまれてナマエは再度座らされた。
伊作は俯いてはいるが、ナマエを立ち上がらせるつもりはないと言いたげに
肩を押さえ込む力は緩む気配がなかった。
「い、伊作くん…?」
「…怪我は、治さなくちゃダメだよ」
「っ、」
それは、傷を治して見合いに行けということだろうか?
想い人から見合いを勧められて良い気分になる者はいないだろう。
ナマエは伊作に沈んだ気持ちを悟られないように、努めて穏やかに話す。
「…うん…だから自分で「傷痕を残すなんてのも、絶対ダメだよ」…でも…」
綺麗に治ったら学園を去らないといけなくなるかもしれない。
夢を諦めるのも、想い人との細やかな繋がりを断つのもナマエは嫌だった。
「君の肌に傷が残るなんて耐えられない」
「な、なんで…、」
そんなことを言うのだろうか。
あくまで伊作が傷の手当てをするのは保健委員としての義務感であって特別なことではないはずだ。
自分の想いと同じものを彼が持っている訳では無い。
…もしかしてなんて期待させないで欲しい、そう思っていると伊作が顔を勢いよく上げた。
その顔は蝋燭の微かな灯りでも分かるくらいに赤く染っていた。
「っ! 好きな子の肌に! 傷が残るなんて嫌に決まってるだろう!!」
「……え?」
今、目の前の彼はなんて言ったのだろう。とナマエの思考は彼方に飛んでいってしまった。
先程の自分の考えを、目の前の彼自身に木っ端微塵に破壊された。
「い、伊作くん…?」
「君が1年生の頃から努力していたこと、ずっと見てた!
いつも頑張っていて、傷を作りながら苦手な忍具の練習しているの見てたらほっとけなくて…」
「でも、ぼくが関わることで君を不運に巻き込んでしまうかもしれない…。
だから! 保健委員って立場を使って君の手当てだけ、ずっとしてたんだっ!」
「そん…な…、全然…知らない…」
首を横に振り、今言われたことは本当なのか、信じられないといった様子のナマエ。
「それなのに!!見合いって! そんなことで…っ!
……とにかく!!傷を作るのも、見合いも、そんなのダメだ!」
目の前で力説する伊作は肩を掴んでいた手を離しナマエの手を握り込む。
ギュッと握られた手を見ていたナマエだが、伊作に名前を呼ばれて顔を上げる。
そこには真剣な眼差しで真っ直ぐとナマエを見ている伊作がいた。
「ぼくと付き合ってください。ずっとナマエの事が好きだった。…見合いなんて行かないで」
真正面からの告白に自らの顔に熱が集まるのを感じるナマエ。
あまりにも突然のことにもちろん驚いているが、それ以上に
ずっと好きだった彼が自分と同じ気持ちであることが嬉しかった。
「わ、私も…伊作くんのこと、好き…」
「本当に!?」
こくこくと頷くナマエに喜びを噛み締めるように声にならない声を上げる伊作。
これからは恋仲としてよろしくねという伊作にこちらこそとはにかむナマエ。
「じゃあ、傷の手当てしよう。…大事なナマエに傷なんて残したくないからね」
「ありがとう、伊作くん」
「これからもずっとぼくが手当てするから、何かあったら1番に言って、絶対だよ!」
しっかりと念押しをしながら手当てを始めた伊作。そんな伊作にもちろんと頷くナマエ。
「(お父様への返事、書かないと)」
恋仲がいるので見合いは出来ません。そう返事をしないと、と考えながらナマエは治療を受けるのだった。
