リクエスト_短編
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"ナポリを見ずして死ぬことなかれ"そう言われる都市、ネアポリス。
しかしその実町の至る所で、賄賂を受け取る警察官、薬の密売を行うギャングのいる闇深い都市である。
「クソっ!!」
とある路地裏に蹲る男が一人いた。
ネアポリスを牛耳るギャング、パッショーネの暗殺チームの1人ギアッチョである。
彼は任務のためとある人物を始末したが任務中に負傷した傷のせいでこの路地裏で動けなくなっていた。
「(クソッ!アジトはもう目と鼻の先だってのによォ〜〜ッ!!!ムカつくぜ!!!)」
自らの不甲斐なさと負った傷のせいで苛立ちが止まらない。
ここ最近の彼は気が立っていた。
元々荒い気性ではあるが、つい先日仲間が見せしめのように惨たらしく殺されたのが原因だ。
自分たちの実力を認めず金払いの悪いボス、
見せしめのように殺された仲間を忘れろと言うリーダー、
自分たちより楽な仕事で多大な利益を得ている他のチーム、
そして何よりそんな現状のままでいるしかない自分たちの無力さに怒りを禁じえなかった。
今日の傷も普段通りであれば付けられないようなものであったにも関わらず、
実際今彼は路地裏で蹲ることしか出来ない。もう怒りはピークに達していた。
そんな彼の蹲る路地裏に1人の女が通った。
コツコツと歩く中背の女で髪は切りそろえられ、肩の長さで歩く事に揺れている。
視線を向けたギアッチョと向かってきた女の視線が絡んだ。
「チッ…」
舌打ちを鳴らしギアッチョは目を逸らす。
歩けるやつはいいよなと八つ当たりのような苛立ちを募らせていると、通り過ぎると思っていた女は
ギアッチョの前で立ち止まった。
「あなた、動けないの?」
「…だったら何だ、コッチはイラだってんだ!とっとと失せろッ!」
「ッ」
噛み付くような返事に女は少したじろいだが、蹲るギアッチョと
目線を合わせるようにしゃがみこみ腕に触れる。
まさか触れられると思っていなかったギアッチョは触れられた手を振り払い威嚇するように再度口を開いた。
「何しやがる!ギャングなんて助けてもロクなことにならねぇぞ!」
「ギャング…?あなた、パッショーネの人間ですか?」
「ッ、だったらなんだッてんだ!!!」
「自分もパッショーネの一員なので関係ないです。さあ、立って」
腕を差し込み、肩を貸してギアッチョを立ち上がらせる女。
近づいた女からは花の香りがした。
あまりにも自然な介抱に呆気に取られるギアッチョだったがハッと我に返り女の腕を掴んだ。
「オレは暗殺チームに所属している」
「…」
「例え仲間であっても任務であればオレはお前を容赦なく殺すッ!!
…それでもオレを助けようって言うのか?」
怒りの中に暗殺者としての冷淡さを交え話すギアッチョ。
そして自らの能力、ホワイトアルバムを発動させる。掴んだ女の腕をその能力で冷却していく。
凍っていく様に脅えるだろうと思っていたギアッチョだったが、
女は凍りゆく自らの腕を一瞥するも、振り払わず真っ直ぐとギアッチョを見上げた。
「あなたがどんなチームに所属していても、どんな仕事をしていてもあなたも私も同じ人間です。
傷ついているなら助けたい。だから怖くないです」
至極当然とでも言いたげな女の表情に膨れ上がった苛立ちが萎んでいくようなギアッチョ。更に女は続けた。
「それに、これ以上抵抗するのであればこちらにも考えがあります」
「あァん…? !!…ッ!(体が…動かッ、ねェ!!)」
自らの体が拘束されているかのように動かせなくなっていることにギアッチョは気がついた。
しかし目に見えて拘束しているものは何も無い。
体を取り巻くような風、この風の力で自らが拘束されていることを理解した。
「あなたと同じような能力が、私にもあります。…大人しく着いてきてください」
目の前の女もスタンド使いの様だ。事実として今自分は拘束され、動くことが出来ない。
ギアッチョはようやくこれ以上拒絶するのは無意味だと悟り自らのホワイトアルバムの力を解いた。
「チッ…、それで?どこに連れていく気だ?」
「え?あぁ、私の家に…」
この女相当なお人好しな上に危機感ねぇんじゃねえかと思うギアッチョ。
見ず知らずの男を家にあげようとするなと言いたげに大きくため息を吐くと
近くにオレたちのチームのアジトがある、アジトまで肩を貸してくれればいいと言った。
「ならそうしましょう、案内をして下さい」
「…あぁ」
2人は並んで路地裏を脱し、アジトへ向かう。
アジトは1区画先、ギアッチョが指示をしながら歩いていくと20分もしないでたどり着いた。
チームのメンバーのみが知るノックをすると大柄な黒い頭巾の男─リゾット・ネェロが内側から扉を開けた。
「ギアッチョ…、ソイツは?」
黒目がちな瞳が負傷したギアッチョを捉え、その隣の見知らぬ女を睨み遠慮なく殺意が放たれる。
「リーダー、コイツはいい」
「どういうことだ?」
ギアッチョは事のあらましを説明するとリゾットはなるほどと頷き、メローネを呼ぶ。
そして女に向き直ると非礼を詫びよう、ウチのチームのものが世話になったと頭を下げた。
「とんでもないです」
リーダーと同じように頭を下げた女にコイツホントにお人好しだなと思うギアッチョ。
呼ばれてきたメローネはギアッチョと女を見やり、質問してもいいかと聞いてきた。
途端、ギアッチョは青筋を立てて叫ぶ。
「とっとと肩貸せ!メローネェ!!!!」
「ハイハイ」
女からメローネへギアッチョが引き渡されると、再度リゾットが口を開く。
「少し煩い連中なんだ、すまない。迷惑を掛けたな」
「いえ、自分で勝手にやったことなので気にしないでください」
ギアッチョが礼をいいかねていると女はギアッチョの顔を覗き込み、
お大事にと告げて踵を返し行ってしまった。
「さぁギアッチョ、治療のお時間だぜ〜」
「…オゥ」
アジトに入り大人しく治療を受けるギアッチョ。
治療中、ギアッチョは出会った女の名前も聞いていないこと、
近づいた時の花の香りを思い返し何とも言えない心持ちになるのだった。
***
あの女と出会ってから数日が経った。
ギアッチョは傷も癒え、日常生活をこなすにはなんの問題も無くなっていた。
しかしリゾットの気遣いなのかしばらく任務もなく彼は暇していた。
この日ギアッチョは近くのバールで食事をとっていた。
ここのバールのピッツァは美味いと食べていると店主と話している女がいた。
「(ん?あの女…)」
店主とにこやかに話す女はこの前自分に肩を貸したあの女だった。
店主との会話が終わったようで店を去ろうとする女にギアッチョは声を掛けた。
「Ciao! この前は世話になったな」
女はギアッチョの声がけに気づくとあぁ!と言う顔をして近づく。
「Ciao! 怪我はもう大丈夫なんですか?」
「あぁ、もうなんて事ない」
それは良かったと笑う彼女からまたあの花の香りがした。
「時間あるか? この前の礼にご馳走様させてくれないか?」
「そんないいのに…、」
断ろうとした彼女だったがギアッチョの顔が悲しそうに曇ったのを見て、
やっぱり少しお腹がすいているから食べさせてもらってもいいですか?と聞く。
その返事にギアッチョは嬉しそうにもちろんだと頷いた。
この日を機に、2人は顔を合わせる度に言葉を交わすようになった。
彼女の名前はナマエ、歳はギアッチョよりも一つ下、暗殺チームのアジトの区画の集金役をしているらしい。
ギアッチョは彼女と話をする度に彼女の人柄に惹かれていっているのを自覚していた。
そんな彼には1つ気になることがあった。
それは彼女の右手にいつも赤いアネモネの指輪が光っている事だった。
その指輪は誰から贈られたものなのか、自分で買ったものなのか聞けばわかる事なのに
踏み出しきれない自分がいることに苛立っていた。
ヤキモキとしながらそれでも繋がりを絶やさずに季節が1つ過ぎた頃。
ギアッチョが歩いていると突然激しい雨に見舞われた。
慌てて雨避けの場所として駆け込んだのはナマエと再会することが出来たあのバール。
幾度か2人で訪れていたが1人で来るのは久々だった。
「いらっしゃい」
「Ciao、雨宿りさせてくれ」
「あぁ、なにか飲むかい?」
「エスプレッソをくれ」
店主はいつもと変わらないようにギアッチョを迎え入れた。しばらくすると頼んだエスプレッソが出された。
いつもなら店主はごゆっくりと声をかけて戻ってしまうが、
今日はギアッチョの前でそのまま立ち止まって声をかけてきた。
「今日はあの子は一緒じゃないのかい?」
「ん?あぁナマエのことか?1人だ」
「そうか…私はあの子を娘のように思っていてね。キミ、あの子の指輪の話は聞いているかい?」
店主の言葉にドキリとするギアッチョ。なんでもないようにいいやと返事をすると
じゃあ少し聞いてくれないか?お節介だと思って欲しいと店主は話を始めた。
「あの指輪は彼女の恋人が贈ったものだ。仲の良い2人でね、見ていても心温まる2人だったんだが
…急に彼が亡くなってしまった」
「!」
「もう随分前になるんだが…酷く落ち込んでね、見ていられなかった。
段々と時が癒してくれたようで今のように元気にはなったが、それでもあの指輪だけは外さない。
新しい恋人を作らないのも亡くなった彼に申し訳ないと、思っているんだろうな」
「…なんでその話をオレにしたんだ」
ギアッチョがそう言うと店主は少し笑う。
「彼女のキミといる時の雰囲気が、彼が生きていた頃とそっくりだったからさ。…それにね」
「?」
「bella にはいつだって笑っていてほしいものさ!」
お節介だろうと笑う店主にそうだなとギアッチョも笑った。彼女のことよろしく頼むよと店主は戻って行った。
「(死んだやつのこと、いつまでも思い続けるなんて、ナマエらしい)」
エスプレッソを飲みながら聞いた話を反芻する。
「(ソルベとジェラートのこともある。人はいつ居なくなるか分からない。
ましてやナマエもギャングの一端。だったら…ッ!)」
話を聞いたことでギアッチョの心持ちは固まった。
そうなればモタモタなんてしていられない。
ギアッチョは残りのエスプレッソを一気に飲み干すとバールを飛び出した。
***
夜。ナマエは自宅へ帰るため、いつもの路地裏を歩いていた。
ギアッチョと出会ったあの路地裏だ。
「(…ダメ、あの人に申し訳ない)」
ナマエは最近ギアッチョの事を思っては亡くなった恋人を思い出し気持ちに蓋をする日々を送っていた。
苦しい心持ちを忘れようと頭を振る。
そんな彼女を見透かすようにとある人物が路地裏に立っていた。
「よう、」
「ギアッチョ…、どうしたの?」
なんでもないようにナマエは返事をする。
ギアッチョは少々緊張した面持ちでしかし真っ直ぐと彼女に告げた。
「…オレの恋人になってくれないか」
「…っ!」
突然の告白に驚きを隠せないナマエ。
返事ができないナマエにギアッチョは畳み掛けるように愛を囁く。
「ナマエの事が好きだ」
「嬉しい、けど…ごめんなさい。私、」
「恋人のことなら知ってる。それでもナマエが好きだ、オレの恋人になってほしい」
苦しい顔でギアッチョへ断りを入れようとするナマエだったが、ギアッチョの言葉にさらに驚き、押し黙る。
返事のできないナマエにギアッチョは狡い質問をする。
「オレの事は嫌いか」
「そんなこと…!…好き、私もギアッチョが好きなの…」
しかしナマエは首を縦に振ろうとしない。
「でも…私を、あいしてくれたまま…死んでしまった、あの人に…申しわけっ、なくて…」
思い出すだけで堪らず涙が零れるナマエ。
ギアッチョは頑固なやつだと思いながらナマエの顔に触れると零れた涙を拭いながら話す。
「そいつのことは忘れなくていい、ただ…」
「?」
「そいつは今のナマエを見てどう思う?」
「…っ!」
ギアッチョの言葉にナマエは息をのみ、ギアッチョを見上げる。
彼の顔は優しく、慈しむ様にナマエの瞳を見ながら続ける。
「オレがもしそいつなら幸せになれと願う。…それともそいつはそんなことで怒るようなやつだったか?」
「…っ!いいえっ!」
ギアッチョの言葉に首を横に振るナマエ。
そんな彼女にギアッチョは微笑む。そして彼女の手を取ると優しく握った。
「泣いてるお前を見ていたらそいつも浮かばれない。なら、オレのために笑ってくれねぇか?」
ギアッチョは彼女の右手薬指から赤いアネモネの指輪を外し左手に握らせると、
空いた薬指に赤いカメリアの指輪をはめる。
「捨てなくていい、オレと生きてくれ」
「…ッ!」
ナマエの瞳から止まっていた涙がボロボロと落ちる。
言葉も出せず、ギアッチョの言葉にただただ頷くだけのナマエ。
そんな彼女の頭を撫でると、ギアッチョは額と額を合わせる。
「泣かないでTi Amo, Ti voglio bene」
「…私も!」
抱きついたナマエをしっかりと抱き留めるギアッチョ。あの花の香りがようやく腕の中に納まった。
そのままナマエを抱き上げ愛おしげに額にキスを落とすと2人は夜のネアポリスに消えていった。
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