94_短編



暗い森の中。今回の屋敷はそこにあった。
元の主は裕福な貴族だったが流行病で妻、子供、父、母を立て続けに失い自分も病に倒れたという。
以来、人は寄り付かず荒れていたところを父上が隠れ家にいいと整え、
新しくやってきた貴族として暮らしている。

「どこから嗅ぎ付けてくるのですか?」

屋敷から少し離れた森の中。時刻は真夜中1歩手前の、満月が少しかけたような夜に
私は1人、悪魔祓いと対峙していた。

「我々は少量の血を頂いておりますが、人に害を及ぼそうとはしておりません。
見逃してはいただけませんか?」

そう問うが、明らかに悪魔祓いの殺気は増し眼光が鋭くなる。

「お前たち悪魔に聞く耳は持たない」

そう言捨てるように呟き、ナイフのようなものを飛ばしてきた。
単調な攻撃だ、と躱すと畳み掛けるように距離を詰め、銀で出来た剣で私の命を狙う。
首の狙いは正確だ、振り下ろした剣に対して刀身を逸らすように手で弾く。
少々掌に焼けるような感覚があるが問題ない。
首の狙いが外れても二撃、三撃と、剣とナイフは首を狙って繰り出される。

「(意外といい太刀筋)」

粗暴な言動からは想像できなかった美しいとも思える連撃。
きっと数多の同胞の命の上にこの連撃はなっているのだろう。

気がつくと背後は巨木に遮られていた。空を斬る音と同時にザグッと肉の斬られる音がした。
首は回避した。しかし左腕は肩からバッサリと無くなっていた。
自分の腕を客観的に見るのは初めてだ。

「痛いのですが、」

ある程度懐に入られていたので胴を思い切り蹴り飛ばして距離をとる。
斬られてすぐの反撃に相手も驚いたのか、防御が間に合わず胃液を吐瀉しながら噎せているが
それでもなお私への殺意篭った視線をのぞかせる。

ボタボタと血の流れ出る肩を押えて腕を拾う。
泣き別れになった腕に感慨を持ったかと言われるがお門違いだ。

「いいえ」

銀で斬られているためか切り口は焼け焦げのようなものが出来ている。
私は腕を肩に押し付けると、身体は不快な音をたてながら繋がるように再生し始めた。
悪魔祓いはその様子に驚いたようで、呆然と肩と腕が繋がっていく様を見ていた。

「まだ、やりますか?」

すっかり繋がった手の感覚を確かめるようにグーパーをしながら問うと、悪魔祓いは化け物めと吐き捨てた。

「もういいでしょう?勝てないと理解出来ているのでは?」
「……」
「沈黙は肯定ととりますが」

悪魔祓いは銀の剣を柄に収めた。

「ご理解頂けたようで」
「…こちらが不利なのは理解した」

身なりを整える悪魔祓いに倣うように服に付いた土埃を払う。

「お約束します、我々は人間に対して害を及ぼすことは無いと」
「引くだけだ、力をつけまた殺しにくる、お前が吸血鬼である限り」
「そうですか…ではまた、ぜひ強くなっていらしてください」

笑いながら手を振ると悪魔祓いは忌々しげに死ね!と言いながら去っていった。

***

数日経ったある日のこと。
いつもと同じような時間に起きた私は朝食を摂るため食堂にいた。
まだドラルクは起きてきておらず、父上も朝食が済んでいない様子を受け
全員でつまめそうなものを作っていた。

「おはよう」
「父上、おはようございます」

庭の花への水やりを済ませた父上が食堂に顔を出した。

「朝はスープか」
「はい、ドラルクも食べられるようにあまり胃腸に負担がかからないようにしたつもりです」

効果があるかは分からんがなと、ドラルクの虚弱さに手を焼いている父上はため息混じりに呟いた。
軽く沈黙が流れたが沈黙を破ったのは父上だった。

「...身体は平気か?」
「へ」

なんとも間抜けな声が出てしまった。

「数日前、悪魔祓いが来ていただろう。嗅ぎ回っている程度であればと放置していたが」
「さすが父上、お気づきでしたか」

わざわざお前が相手をする程度でもなかっただろうと言われ、少し誇らしく思ってしまう。
認められているということだ、…嬉しい。

「その時に一撃貰っただろう、肩に」
「…見ていらしたんですか?」

恐る恐る聞くと、見てはないが、と言いながら私を指さす。

「服だ、1枚処理しただろう。…森に血も残っていたが」

完璧に処理したはず、バレてないと思ってましたと言うと、ドラルクにはバレないだろうがなと返される。

「...まだまだですね」
「隠蔽工作が上手くなってどうする」

何年かぶりに小突かれてしまった。
父上に構ってもらえるのはやはり嬉しい様な面映ゆい様なそんな気にさせられる。

「今度からは勝手に行くな」

嬉しがっているのが伝わってしまったのか咎めるように強い口調で叱られる。
しかしそんな口調も大切にされていると思うとやはり頬が緩んでしまう。
眼光が鋭くなった父上に、わかっています!と嬉しげに返す私。
ため息をつかれながらもならいいと再度小突かれて、私は父上と食事の用意を続けるのだった。
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